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.経済  投稿日:2024/5/24

東急不動産、最北の城下町に地域共生施設「TENOHA松前」を開設


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・東急不動産は、北海道松前町にリエネ松前風力発電所」を運営している。

・5月15日、新たに地域共生施設「TENOHA松前」を開設した。

・町と連携し、外部人材と共に、ワーケーション需要やインバウンドの定住需要などを呼び込む。

 

最北の城下町、松前を訪れたのが2年前。東急不動産株式会社「リエネ松前風力発電所」の取材だった。(参考記事:「風が流れを変える」再エネにかける北の町 2022年8月7日)

松前といえば誰でも知っている松前漬けで有名だが、江戸時代中期(18世紀中頃)から明治30年代まで、大坂と北海道を商品を売買しながら行き来していた「北前船(きたまえぶね)」の寄港地として栄華を極めた歴史がある。しかし往事の面影はなく、かつて約2万人いた人口はいまや6,000人に迫ろうとしており、町は閑散としている。

前回来たとき話を聞いた石山英雄前町長は、「町の人口減には危機感を持っている。再エネを利用して経済活性化につなげたい」と語っていた。

今回2年ぶりにこの地に来たのは、東急不動産株式会社が松前町の活性化に向けたまちづくり拠点を新たに作ったと聞いたからだ。風力発電所を作ったデベロッパーがまちづくり?と思った方もいるだろう。しかし興味深いのは、東急不動産が当初から再エネ事業とまちづくりを一緒に考えていたことだ。

東急不動産は2年前、再エネ事業を展開する地域の課題解決や活性化を目的とした地域共生プロジェクトを立ち上げている。すでに埼玉県東松山市、秋田県能代市、秋田県男鹿市に「TENOHA(テノハ)」と名付けた共生施設を作った。

テノハとは、“手のひら”と“葉”の造語で、共生施設を大きな木、新しいライフスタイ ルを葉として、ものを創り出す手と手が、重なり合う葉のように広がり、新しい時代に向けて人やモノ・サービスが育っていく場所であることを表したという。そして5月15日、北海道松前町に、「TENOHA松前」がオープンした。

なぜ、地域共生施設が必要なのか。再エネ事業に適したエリアは、広大な土地だったり、風力発電に向いた風況だったり、自然環境に恵まれた地域が多い。一方で、 そうした地域は概して、少子高齢化・未利用施設の増加・後継者不足などの課題も顕在化していることが多い。

東急不動産は、地域の抱える課題解決や活性化のために地域共生プロジェクトが必要だと考え、各地に「TENOHA」を作っているのだ。

▲写真「TENOHA松前」オープニングセレモニーにて桜の植樹をする東急不動産株式会社星野浩明代表取締役社長(右から2人目)、若佐 智弘松前町長 (一番右) ⒸJapan In-depth編集部

■ TENOHA松前

TENOHA松前」は、町の幹線道路である海に面した国道228号線の「松城バス停」に隣接し、歴史的な景観の町のメインストリート「城下通り」へとつなぐいわば町の玄関口に作られた。目の前は津軽海峡を望む海、振り返れば松前城という絶好の立地だ。

外観は松前町の町並みとの調和を考慮し、木造二階建てで城下通りの景観ルールを踏襲した。内外装には松前町の地元産材である道南杉を使うなど徹底している。

■ 「TENOHA松前」建設の背景

東急不動産が松前町で「リエネ松前風力発電所」の運転を開始したのが2019年4月。いまから5年前だ。その時から町と連携し、地域振興とまちづくりに取り組んできたが、去年3月にさらに踏み込んで町と共同で将来ビジョン「スマートシュリンクSXビジョン」を策定した。官民連携して持続可能な町作りに取り組んでいる。期間は2023年度から2032年度まで10年間。息の長い取り組みになる。

スマートシュリンクとは、人口減少社会における地域活性化の戦略の一つで、人口減少を受け入れ、効率的な都市運営を目指すことで、持続可能な地域社会の実現を目指す概念だ。2010年代以降に生まれた。

上記のビジョンによると、「未来の松前町を形成するプロジェクト」として以下が挙げられている。

01 稼ぎ続ける観光産業への磨き上げ 

02 稼げる持続可能な未来の漁業創出 

03 持続可能で、稼げる畜産の構築 

04 地域にお金・人が巡る住み続けたいまち 

05 RE100松前 再エネ地発地消転換 

06 Uターン・Iターン戦略による次代担い手確保

筆者が注目したのは01「観光産業の磨き上げ」だ。前回の記事でも指摘したが、地方都市はどこも産業構造の変化とそれにともなう人口減少に直面している。だからこそ、「観光」のもつソフトパワーにより、人流を取り戻し、できれば人口定着を実現しようとしている。

松前町は知る人ぞ知る、豊かな観光資源を持つ町だ。松前城は、北方警備の重要性から幕府が築城を命じたもので、高崎藩の兵学者市川一学の設計により、嘉永3年(1850)に着工し、安政元年(1854)に完成した、我が国最北に位置する、最後の日本式城郭だ。昭和24年(1949)に火災で天守・東塀は焼失し、本丸御門(大手門)を残すのみとなった。海に面している珍しい城で、その凜としたたたずまいは見るものを引きつけてやまない。

▲写真 松前城 ⒸJapan In-depth編集部

そして有名なのは松前公園の桜だ。公園は約248,000平方mもの広さを誇り、およそ250種10,000本の桜が、早咲き、中咲き、遅咲きと約1ヶ月にわたって花を咲かせるさまは圧巻だ。日本さくら名所100選にも選ばれている。毎年4月下旬~5月上旬に開催される「松前さくらまつり」は有名だ。

▲写真 松前公園の桜 出典:Martin Vanek/GettyImages

また、高台から松前城を含む松前公園全体と津軽海峡が眺めることができる。この雄大な景色は松前ならではだ。

▲写真 松前城の高台より津軽海峡を望む ⓒJapan In-depth編集部

そして町には、幕末の松前の城下町を再現したテーマパーク「松前藩屋敷」もある。武家屋敷、商家、旅籠、廻船問屋など14棟からなるなど力が入っており、正直、箱根の関所跡より充実してるのではないか。タイムスリップしたような感覚を味わうことができる貴重な観光資源だ。

▲写真 松前藩屋敷 ⒸJapan In-depth編集部

そんな松前町に風力発電所を作った東急不動産。町に事務所を開設し、スタッフを常駐させている。風力発電事業開発部松前事務所の布目海大氏は、2021年に入社3年目で松前に赴任した。それから3年。東急不動産は株式会社学生情報センターと「松前町スタケーションプロジェクト」を立ち上げ、学生が提案したデザインが特産品のパッケージデザインに採用した。「リエネウインドファーム松前」の風力発電機の下には、「風車公園」を建設した。地元の小学生のアイデアを取り入れて、花壇や地元の木材で作ったベンチを設置した。町ぐるみ巻き込んで再エネ事業に対する理解を深め、共生できる環境を整えようとしている地道な努力に驚いた。

▲写真「リエネウインドファーム松前」の大型風車 ⓒJapan In-depth編集部

▲写真 風車公園 ⓒ東急不動産松前事務所

■ 町の活性化 「TENOHA松前 が起爆剤に

2年ぶりの松前町。メインストリートを歩いてみても前と変わらなかった。平日の昼間とはいえ、ランチを食べようと思って歩いたが食事をするところが少なく、温泉旅館のカフェに入る。観光資源があるにはあるが、まだインバウンド含め、人を呼び込むことができてないようだ。外部人材を呼び込むために、松前町は総務省が所管する「地域おこし協力隊」の募集を今年2月に行った。しかし、応募はゼロだったという。

町の担当者に話を聞いた。

「総務省も地域おこし協力隊を1万人に増やすなどといっている中で、各自治体が募集しています。競争率がすごく高くなってきて取り合いになっていて、やはり知名度のある町には負けてしまいます」。(松前町商工観光課長田中建一氏)

▲写真 松前町商工観光課長 田中建一氏 ⓒJapan In-depth編集部

今回できた「TENOHA松前」への町の期待は大きい。

「外部人材をどのように確保するかは、今も頭を悩ます課題の一つです。今回できた『TENOHA松前』が大きな発信力になって、外部人材の確保につながるといいなと思っています」。

「TENOHA松前」をどう活用していくか、地元の高校生と札幌の大学生との間で議論が始まっているという。若者の発想をまちおこしに生かしたいと田中氏は言う。

「TENOHA松前」を拠点とし、ワーケーションの場や、定住の地として松前町を選んでもらうためにはどうしたらいいのか、町は東急不動産と共に、外部人材や体験事業者などと今後検討していく予定だ。

「ワーケーションなら、例えば仕事の合間に、遊魚船に乗って沖に釣りに出るとか、そうした仕組み作りも今後進めていきたいと思っています。また、ニセコの事業者と連携を結び、モニターツアーで外国人の方に松前町に来てもらい、いろんな体験をしてもらい、アドバイスをもらう予定です。今後はニセコと松前を結ぶようなものにしていきたいなと考えています」。(田中氏)

「TENOHA松前」が起爆剤となり、こうした活動が今後、どう花を咲かせるか、期待しつつ町を後にした。

トップ写真:「TENOHA松前」開所式 松城小学校の1、2年生の子どもたちとⓒJapan In-depth編集部




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