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.国際  投稿日:2021/12/3

米国防総省、インド太平洋を最重要と位置づけ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#48」

2021年11月29日-12月5日

【まとめ】

・米国防総省は、米軍に関するGPR(地球規模での軍事態勢見直し)作成作業を完了、インド太平洋地域を「最重要」と位置付けた。

・欧州では、ロシアに対する抑止強化やNATOの活動効率化を、中東ではイランやイスラム過激派によるテロに対する取り組みを再評価。

・優先順位付けはワシントンで最も難しい仕事、大丈夫なのか。

 

今年もあと一カ月で終わりだが、日本では、これまでに感染者数が激減し、自民党総裁選と総選挙があり、新内閣も誕生した。町には徐々に活気が戻り始め、ようやく「もしかしたらコロナ禍は峠を越えたのかな?」などと思い始めたら、オミクロンという新たな変異株が再び蔓延し始めた。やれやれ、世の中はそう甘くないようだ。

それにしても一体いつまで続くのだろう。これでは来年も海外出張は難しいかもしれない。外交評論家が海外出張できないなんて、洒落にもならない。早く自由に行きたい国に行って、何の憂いもなく帰国できる日が来ることを待ち望んでいる。これは多くのビジネスパーソンも同様であろう。恐ろしい時代になったものだ。

さて、恐ろしいといえば、中国人にとって今は受難の時代かもしれない。先週末ソロモン諸島の首都で暴動が起き、略奪や放火の標的になっていた同市内の中国人街で焼失した建物の中から焼死体3体が見つかったという。首相の辞任などを求めたこの抗議デモの逮捕者は100人以上、首相の内政運営への不満があるらしい。

具体的には、経済開発の停滞やマライ他州の自治権の軽視への不満に加え、台湾との2019年の断交や中国との国交樹立への反発もあるという。だが、いくら反政府デモとはいえ、対台湾国交断絶と対中国交樹立に反対する人々がチャイナタウンの中国人を襲ったとは思いたくない。恐らく別の理由もあったのだろう。

もう一つ、今週気になったのが米軍に関するGPR(地球規模での軍事態勢見直し)だ。米国防総省はGPR作成作業を完了し、インド太平洋地域を「最重要」と位置付けたという。中国による軍事侵攻や北朝鮮の脅威を抑止するために「域内の同盟・パートナー諸国との軍事面での連携強化を図る」と強調しているらしい。

▲画像 アメリカ、ロイド・オースティン国防長官(2021年9月1日) 出典:Photo by Alex Wong/Getty Images

報道によれば、国防長官が部隊の展開場所や戦力、戦略などにつき検証を指示したそうだが、世界に展開する米軍の体制見直しだから、その範囲は極めて広い。インド太平洋では豪州に巡回駐留する米航空兵力の規模拡大と韓国への攻撃ヘリコプター部隊常駐などが含まれるというが、対象はインド太平洋だけではないのだ。

欧州方面では、ロシアに対する抑止強化やNATOの活動効率化を、中東では核開発の加速や域内の武装勢力支援を続けるイランやイスラム過激派によるテロに対する国防総省の取り組みを再評価すると報じられた。しかし、あれもこれもと言っている時代ではない。優先順位付けはワシントンで最も難しい仕事だが、大丈夫なのか。

更に、気になるのが「イラン核合意正常化」関連交渉だ。米国とイランは中断していた間接協議を今週ウィーンで再開したようだが、両国の隔たりは変わっておらず、歩み寄りは容易ではない。イラン側は無条件で全ての制裁解除を求めているが、バイデン政権はイランの「テロ活動」や人権侵害に関する制裁を維持したいからだ。

筆者は最初からこの「イラン核合意」には懐疑的だった。最終的にイランの核兵器開発の「芽」を取り除くことができなかったからだ。しかし、だからといって、この合意から一方的に離脱するのは如何なものか。この合意が不完全であることを認めた上で、更なる交渉をするのが常道である。その意味でトランプ政権の罪は大きい。

〇アジア

韓国の大統領選まであと3カ月になった。与野党の候補が出揃いつつあり、事実上の一騎打ちになるらしい。報道によれば、与党有力候補の「外交ブレーン」は日韓のGSOMIAにつき、「国家間合意はむやみに破棄はできず、尊重しなければならない」と述べたそうだ。おいおい、それなら、まずは1965年の国家間合意から尊重しては如何だろうか。

〇欧州・ロシア

大統領選といえばフランスでも来年4月に投票がある。最近「イスラム文明がフランス国民に置き換わろうとしている」などと主張してきた極右系論客が立候補を表明したそうだ。再選を目指すマクロンに加え、極右候補が二人も立候補することになる。これが欧州にとって何を意味するのか、単なる偶然なのか、詳しく分析する必要がある。

〇中東

トルコが近年緊張関係にあった湾岸アラブ諸国との関係改善に本格的に乗り出し、中東地域での「米国抜き」の秩序形成が加速する可能性もある、などと某通信社が報じた。でも、そうかなあ。トルコはそれを望んでいるかもしれないが、湾岸アラブ諸国が「米国抜き」の国際秩序で生き残れないことは、彼ら自身良く分かっている筈だ。

〇南北アメリカ

ホンジュラス大統領選で「当選したら中国と国交を結ぶ」と発言した野党候補が優勢となっているらしい。実際に断交するかは未知数だそうだが、最近中米ではエルサルバドル、パナマ、ドミニカ共和国が台湾と断交し、中国と国交を樹立している。ホンジュラスをめぐる米中の競争がどうなるか、興味津々だ。

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:日米豪印の4か国(クアッド)による首脳会談(2021年9月24日) 出典:Photo by Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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