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.国際  投稿日:2022/1/9

アメリカの日本研究者はいま その1 日本論壇が閉鎖された


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

全米アジア研究部会(NBR)の日本についての論壇サイト「ジャパン・フォーラム」が閉鎖された。

・私はこのサイトで長年にわたり、おそらく最も頻繁かつ大量に非難を浴びせられた。

・その寄稿者らは、日本やアジアを専門領域とする研究者で彼らの政治傾向はアメリカの政治基準だと明確な左翼だった。

 

アメリカの学界には「全米アジア研究部会」(National Bureau of Asian Research)という学術組織がある。アジア研究の学者たちが集まり、共同の調査や研究、さらには意見の交換をする組織である。その名称や頭文字をとって、NBRと呼ばれることが多い。

このNBRの一端として「Japan Forum」と呼ばれるインターネットのサイトがある。日本についての意見や報告をアメリカ側の日本関連研究者たちが自由に投稿するネット論壇である。このジャパン・フォーラムは2000年から存在してきた。

ところがこのジャパン・フォーラムが2021年末にやや唐突に閉鎖された。運営者側の自主的な判断による閉鎖措置だった。

だがその背景にはこのサイトが一部の左傾研究者たちからの他者への誹謗ともうけとれる異様な非難のコメントの頻発に使われてきたという実態があった。今回はその非難された側が名誉棄損として抗議し、ジャパン・フォーラムの運営方針についての情報の開示を正式に求めたのだという。その要求がサイト自体の閉鎖につながったというのだ。

私自身もこのジャパン・フォーラムには長い年月、奇妙な形でかかわってきた。今回の閉鎖措置を機に私のその関与と、その背景にあるアメリカでの日本研究者たちの現状を報告しよう。

全米アジア研究部会(NBR)の日本についての論壇サイト「ジャパン・フォーラム」が閉鎖されたという発表を知り、ああ、やっとか、と感じた。

このサイトを運営する側に良識や良心があるならば、もうとっくに閉鎖すべきだった。学者とか研究者を名乗るアメリカ人たちがよくもこんな低俗で下品な言葉のゴミ捨て場のようなサイトを長年、開いたままできたものだと、いまさらながら呆れはてる。

だからこのサイトの閉鎖の契機を作ったアメリカ人政治学者のジェーソン・モーガン氏らの果敢で適切な抗議には敬意を表したい。

私はこのサイトで長年にわたり、おそらく最も頻繁かつ大量に非難を浴びせられた日本人だろう。その非難はごく客観的にみても悪口雑言、誹謗中傷が多かった。

だからそれなりに反論や反撃はしてきた。だがあまりに愚かで、口汚く、人種偏見までにじませる攻撃が多かったので、やがては気にもかけなくなった。私への攻撃も最近はなくなっていた。

アメリカ側で学者とか専門家を自称する人たちがこんな乱暴で下品なことを書いて恥ずかしくはないのか、という心からの軽蔑も生まれていた。

そもそもこのサイトでとくに過激で一方的なコメントを述べる特定の人たちはごく少数であり、嫌がらせ以外に影響力もなかったともいえた。

このジャパン・フォーラムという英語のサイトは本来、アメリカ側で日本にかかわる学者や言論人、活動家など広範な人物が自由気ままに意見を載せるインターネットの場だった。簡単な登録だけで日本人でも投稿はできたが、実際の投降者は圧倒的にアメリカ側が多かった。

中心になったのはアメリカのアカデミズムでの日本やアジアを専門領域とする研究者だった。この人たちの政治傾向はアメリカ全体の構図でみると偏っていた。

アメリカの政治基準だと明確な左翼だった。自国の歴史や伝統の尊重、さらには愛国心、自国への誇りというような概念には背を向け、革新的、進歩的、ときには社会主義的な立場を自称する。政党でわければ、みな民主党の超リベラル派で、共和党や保守派はきわめて珍しいのだ。

この傾向は近年のアメリカ側の日本専門家の間で顕著である。ジェラルド・カーティス、エズラ・ボーゲル両氏など知名度の高い学者や、このジャパン・フォーラムの管理役だったジョン・キャンベル氏らも政治的にはみな民主党支持である。

そのなかでも革新傾向の強い人たちは日本側での日米同盟の強化とか、憲法改正による集団的自衛権の行使とか、日本の伝統や誇りへの尊重という動きには強く反対する。いわゆる歴史問題でも中国や韓国の「被害」だけを重視して、日本側の事実に基づく主張は軽視や無視することが多い。

さてそんな背景のなかで私自身がこのジャパン・フォーラムに登場する米側の専門家の多くに攻撃されるようになった契機はほとんどが産経新聞での報道だった。私自身のジャーナリストとしての通常の活動の結果といってもよい。

(その2につづく。全4回)

**この記事は月刊雑誌『正論』2022年1月号に掲載された古森義久氏の論文「日本叩きサイトが存続した理由と末路」の転載です。

トップ写真:トランプ前米大統領と安倍晋三元首相(2019年6月28日に大阪で開催されたG20サミットの会場で) 出典:Photo by Kimimasa Mayama – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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