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.国際  投稿日:2022/1/9

米議会、バイデン大統領にダライ・ラマ支援要請


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米上下両院合計65人の議員が去年12月、バイデン大統領にダライ・ラマと会談することや支援を求める書簡を送った。

・与党民主党の有力議員によっても署名されており、バイデン大統領としても軽視はできない。

・人権問題担当首相補佐官を新設し、中国の人権弾圧にも発言を強める姿勢をみせた岸田政権にとっても参考になる。

 

アメリカ議会の上下両院合計65人の議員が連名で12月15日、バイデン大統領にチベットの仏教最高指導者のダライ・ラマと会談することや、チベットへの多様な支援を求める書簡を送った。

この書簡はバイデン大統領がダライ・ラマと直接に会うことができない場合はハリス副大統領をその会談のために派遣することや、中国の習近平国家主席にチベット問題の前向きな措置をとることなどを要請した。

中国の習近平政権はダライ・ラマを「分裂主義者」とみなし、チベット側でのその後継者選びにも政治介入する構えをみせている。今回のアメリカ議員たちの書簡は中国政府のそうした動きを非難しており、バイデン政権が人権問題で中国に対して改めて強固な姿勢をとることを迫る議会の潮流を示している。

こうした動きは人権問題の首相補佐官を新設しながらも中国当局によるチベットやウイグルでの人権弾圧に公式には抗議や反対は一切、表明していない日本の国会の態度とは対照的である。

アメリカ議会では上院の外交委員長のボブ・メネンデス議員(民主党)や外交委員会の有力メンバーのマルコ・ルビオ議員(共和党)が中心となって、バイデン大統領にチベットのダライ・ラマらへの支援を求める書簡を同15日に送り、同時のその内容を発表した。

この書簡には上院議員38人、下院議員27人が連名で署名し、バイデン政権が最近、人権問題など担当の国務次官に任命し、チベット問題調整官をも務めることになるウズラ・ゼヤ氏を通じて、バイデン大統領に届けられた。

アメリカでは歴代政権の大統領がダライ・ラマとホワイトハウスで面会して、中国当局によるチベットでの人権や宗教の抑圧に抗議する形をとってきた。しかしトランプ前政権では新型コロナウイルスの感染やダライ・ラマ側の当初のトランプ政権への批判などのために、この伝統の直接の面会は実現しなかった。バイデン大統領もまだダライ・ラマとの接触の動きはみせたことがない。

ただしトランプ大統領は政権の末期に議会が可決した「チベット政策支援法案」に署名して、法律とした。同法はチベット人の人権や宗教への中国共産党政権の無神論に基づく組織的な抑圧に抗議して、アメリカとしてはチベット人の自由保持への支援を与えることを言明していた。同時にこの法律はダライ・ラマの後継の宗教指導者を選ぶプロセスに中国政府が介入することへの明確な反対を表明していた。

今回、連邦議会の議員有志からバイデン大統領に渡されたチベット問題に関する書簡の要旨は以下のようだった。

 ・バイデン大統領に対してダライ・ラマとできるだけ早期に直接、面会して、アメリカ政府の対外政策のなかでもチベットへの中国当局の弾圧への抗議が重要項目となっていることを内外に明示するよう要請する。

 ・バイデン大統領はダライ・ラマをホワイトハウスの大統領執務室に招いて、今年86歳になったチベットの最高宗教指導者の道義的なメッセージを中国当局や国際社会に広範に伝える。

 ・バイデン大統領がもし直接にダライ・ラマに会えない場合はハリス副大統領を特使として任命し、インド領内のチベット亡命政権とともに活動しているダライ・ラマとの面会のために派遣する。

 ・中国当局はダライ・ラマの後継指導者としてチベット人が独自に選んだパンチェン・ラマを消息不明とし、中国当局としての別の後継指導者を任命したが、アメリカ政府としてはこの種の中国の介入に反対する。

▲写真 1995年、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマから、パンチェン・ラマ11世に認定された直後、拘束され、以来一度も姿が確認されていないゲンドゥン・チューキ・ニマさんの行方不明のポスターの脇で行われるカラチャクラ(時輪金剛)のイニシエーション。 インド・アーンドラプラデーシュ州・アマラヴァティ 2006年3月26日 出典:Photo by Frédéric Soltan/Getty Images

以上の趣旨の書簡は議会でも与党の民主党の有力議員によっても署名されており、バイデン大統領としても軽視はできないこととなる。

▲写真 ハリス米副大統領とバイデン米大統領(2022年1月6日ワシントンDCで・国議会議事堂にて) 出典:Photo by Ken Cedeno-Pool/Getty Images

チベット問題に関してはアメリカ議会では伝統的に中国の抑圧への批判が強いが、民間でもチベット人の信仰や文化の破壊の危険に抗議する動きも同様に伝統的に広範である。

たとえば日本でもよく知られた俳優のリチャード・ギア氏などはチベット支援団体の幹部としてアメリカ議会などでもたびたび証言して、中国政府の弾圧に厳しい非難をぶつけている。

アメリカ議会でのこうした動きは人権問題担当の首相補佐官を新設し、中国の人権弾圧にも発言を強める姿勢をみせた岸田政権にとっても参考になるといえよう。

**この記事は日本戦略研究フォーラムの古森義久氏のコラム「内外抗論」に掲載された寄稿論文の転載です。

トップ写真:バラク・オバマ米元大統領と会談する、ダライ・ラマ氏(2010年2月18日) 出典:The White House




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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