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.社会  投稿日:2022/1/12

どうなる成人式(上)民法改正「18歳成人」に思う その1


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・今の形の成人式は戦後始まった歴史の浅いイベント。法的根拠などはなきに等しい。

・会場や周辺で飲酒し、暴れるなど各地で「荒れる成人式」が近年報じられる。

・成人年齢を18歳とする今次の改正民法施行を機に、成人式のあり方を抜本的に見直してもよいのではないか。

 

成人式など遠い昔の出来事だが、自分なりの思い出はある。

式典には参加せず、普通にアルバイトしていた。

自分が大人になったかどうかなど、公権力に判定してもらわなくて結構だ、といったように、当時の流行語を借りれば「突っ張った」生き方を気取っていたのである。

ただ、私が参加しなかったことで誰かに迷惑をかけた覚えはないし、若気の至りと言われても仕方ない面はあったにせよ、会場で飲酒して暴れる連中よりは数段マシではないかと思う。私も今や、事あるごとに、

「近頃の若い者は」

などと口にする世代なのだ笑。

さて、本題。

今年4月1日から、成人年齢を18歳とするなど、改正された民法が施行される。正式な表記は「成年」だが、本稿では一般になじみのある「成人」を採用したい。

よく知られる通り、我が国では20歳以上を成人と規定してきたのだが、2017年5月、およそ140年ぶりに民法が大幅に改正された。

これに伴い、18歳以上であれば、銀行口座を開設したりローンを組んだりといったことが、親の同意を求められることなく可能になる。ただし、飲酒・喫煙、あるいは馬券を買うなどのギャンブルは、従前通り20歳になるまで認められない。

また、改正前の民法では、男性は18歳以上、女性は16歳以上であれば、親の同意を得て結婚することが認められていたが、こちらも、男女ともに18歳になれば本人の意思だけで結婚できることになった。

結婚の問題は、項をあらためて見ることとして、今回は成人式がどうなるのか、という点を考えてみたい。

成人=子供が成長して一人前になったことを祝う儀式それ自体は昔からあり、また、日本固有のものでもない。

ただ、現在も続く成人式の起源は、敗戦後間もない1946(昭和21)年と、結構新しい。逆に言えば、戦前にはなかった。

この年の11月22日、埼玉県蕨市(当時は北足立郡蕨町)において、敗戦に打ちひしがれていた若者を励まそうと「成年祭」が開催された。バザーや卓球大会、展覧会など文字通りのお祭りだったが、その冒頭、同年20歳になる男女を集めて、

「今日から大人です。その自覚を持ち、祖国復興のため頑張って下さい」

といった訓示をする「成年式」が行われた。現在も蕨市では成人式でなく成年式と呼び、市内には「成年式発祥の地」という碑もある。

このイベントが大好評で、近隣の市町村から各地に広まっていった。その情報が当時の日本政府にも達し、新成人のための祝日を設けてもよいのでは、という気運が高まった。

かくして1948(昭和23)年に祝日法が改正され、新たに1月15日が「成人の日」と定められたのである。

1月15日が選ばれた理由については諸説あるものの、最も有力なのは、古来この日は「小正月」であり、武士階級の子弟が元服の儀式を行うことが多かったから、とする説であると聞く。

そして、こちらもよく知られる通り、1998年に祝日法が改正され、世に言う「ハッピーマンデー法」が2000年より施行されている。この改正に伴い、成人の日は1月の第2月曜日ということになった。

この改正に伴い、成人式の参加資格についても、従前は、

「前年の〈成人の日〉の翌日から本年の〈成人の日〉までに誕生日を迎える人」

とされていたものが、

「前年4月から本年3月までに成人を迎える人」

とされた。言うまでもなく民法改正前の話で、この場合の成人とは20歳と同義である。

ともあれ、この改正によって、早生まれの人たちが、ほとんど知らない人たち(学年が違うので)と一緒に式典に出なければならない、といった不利益を被ることがなくなったとして、好評であったと聞く。

いずれにせよ、成人を祝うイベントは世界各地にあると前に述べたが、これだけ大々的に催されるのは希有な例だといえる。

なおかつ大半の女性が振袖を着て参加する(これについては、後述)ことから、なんとなく古来の伝統行事のように思われている節があったのだが、本当はここまで見てきた通り、戦後に始まった歴史の浅いイベントであり、法的根拠などなきに等しいのである。

もう少し具体的に述べると、成人の日という祝日は法律で定められたものだが、成人式は各市町村が独自に企画・運営するイベントに過ぎない

したがって、各地方の事情によって開催日も実は結構まちまちである。雪深く、新成人の多くが進学や就職のために都会に出ている、という地方では、5月の連休や夏のお盆休みといった帰省シーズンに成人式を執り行う例も少なくない。

かつては高卒の新人を毎年採用していたメーカーや百貨店が「社内成人式」を催す例もあったが、バブル崩壊後は廃れてしまったようだ。ただ、自衛隊では今でも、勤務との兼ね合いで故郷の成人式に参加できない者も多いため、各隊で独自に成人式を行っている。

そうした次第なので、今次の民法改正に伴い、法的に18歳以上が成人と見なされるようになっても、ただちに「18歳の成人式」が全国的なトレンドになるとは考えにくい。いずれ、どこかの市町村で導入され、論議の対象になるのではないかと思われるが。

冒頭で述べた、私が成人式に出席せず、自分が大人になったか否かは他人様に認定してもらわなくて結構、などと考えていたという話は、ここにつながってくる。

▲写真 中には成人式の会場の外で飲酒し、騒ぐ新成人も。 出典:Photo by Carl Court/Getty Images

前述の通り「成人の日」という祝日は、敗戦後に定められたものだが、

「大人になったことを自覚し、自ら生き抜こうとする青年を祝い励ます」

というのがその趣旨である。

これをどう勘違いしたのか、成人式の会場もしくは周辺で飲酒し、さらには会場内で暴れるといった手合いが出てきたわけだ。

それでなくとも、各地で「荒れる成人式」が報じられるなど、大人になった自覚とはほど遠いものになり果てている。

今次の民法改正をきっかけに、成人式のあり方も抜本的に(つまり式典自体の是非も含めて)見直してもよいのではないかと思うのは、私だけだろうか。

(その2につづく)

トップ写真:成人式に臨む新成人たち(2016年1月11日 兵庫・神戸市) 出典:Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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