新しい年の日本の国難、そして皇室 その1 皇室のあり方を考える
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・皇室のあり方を決めた占領米軍の当時の方針について私は当事者から直接に当時の見解や政策を聞いた。
・「眞子さんの小室圭氏との結婚」と「天皇譲位」には「『世襲的地位から外に出たい』との意思表明」の共通点。
・皇族個人が自由に意思表明され、自由な行動に繋がる事例が頻繁に起きれば、皇室全体のあり方が大きく変わってくる。
また1年が終わり、新たな年が始まった。
2021年、令和3年が終わり、2022年、令和4年の始まりである。
そんな暦の境目には人間はふと立ち止まり、来し方、行く末を考える。ごく当たり前のことだろう。
私は自分自身の人生だけでなく、日本という国の来し方、行く末を考えてしまう。日本という国がいまどうなっていて、これからどうなるのか。この課題を考えるにはどうしても日本の国内だけでなく、国外、つまり日本を囲む国際情勢にも注意を払うこととなる。
日本という国は近代の歴史では、国内の激変はみな国外からの巨浪の押し寄せで起きたからだ。黒船到来からの明治維新しかり、第二次世界大戦での敗北からのアメリカの占領による戦後の日本誕生しかり、である。
この考察の流れでは私はどうしても日本の戦後の憲法づくりに思いを馳せてしまう。日本にとっての国家安全保障、対外政策、そして国内の政治や経済の特徴のどれをとっても、その由来は占領米軍、つまり GHQ、連合国軍総司令部による日本の統治と日本の国の枠組みの改変に帰すところが大だからだ。
本稿の主題としたい日本の皇室のあり方も同様である。皇室もまた占領米軍により大きく改変させられたのだ。
1年の終わりに立って、次の1年を想うとき、日本にとっての挑戦や課題はあまりに多いと感じる。国際情勢をみても、中国の日本への脅威をどうするのか、アメリカと中国との対立にどう応じるのか。そして背後と前景に大きく広がる新型コロナウイルスの大感染の元凶となった中国にどう接していくのか。
日本国内をみても、中国や北朝鮮が日本への直接の核攻撃の恫喝をして、日本固有の領土たる尖閣諸島の奪取をも図る危機に対してどんな防衛態勢をとるのか。コロナの日本国内での感染をどう防ぎ、傷ついた国内経済をどう回復するのか。
まさに内憂外患、国難とも呼べる重大課題が山積なのである。
そんな中で2021年、日本の皇室に関する重要な命題が提起された。日本という国家にとって、そして日本人という国民にとってこれからの皇室はどんな立場や役割を果たしていくべきなのか、という命題である。
皇室のあるべき姿は多様な形で日本の国民や国家のあり方にも影響を及ぼす。
皇室が日本国民の精神の柱だとする考え方もあるほどなのだ。2021年末の時点でのこの皇室と日本国民について私なりの思考を述べてみたい。
私は所謂、皇室問題の専門家ではない。皇室についてはごく平均的な日本国民の知識、認識を越える水準にはない。だがその反面、いまの日本の皇室のあり方を決めた占領米軍の当時の方針については知見を持つと言える。占領米軍を代表して日本の皇室のあり方を決める文書を作成した当事者から直接に当時の見解や政策を聞いたからである。
この直接体験を持つ日本国民はもうきわめて数が少ないだろう。そうした立場から皇室への思考を述べてみたい。
皇室に関する日本国民の新たといえる対応が2021年に大きく広がったのは、言うまでもなく、秋篠宮家の眞子さんの小室圭氏との結婚だった。この結婚の異様な特徴については敢えてここで述べる必要はないだろう。
写真)眞子さんと小室圭氏の結婚記者会見(2021年10月26日 都内)
出典)Photo by Nicolas Datiche – Pool/Getty Images
この出来事が総括として日本国民の多くに提起したのは皇室とは何なのか、という懐疑、疑問だと言えよう。今までの皇室には考えられなかったような現象が多々、表面に出たからだ。
しかしこの皇室への疑問は5年前にも提起されていた。平成時代の天皇陛下が2015年に自らの譲位を求められたからだった。この動きは憲法と皇室典範で明確に規定された「天皇の世襲」の前提となる終身在位から逸脱していた。しかも天皇ご本人がテレビでまずその個人の意思を表明されるという未曽有の展開だった。
写真)退位礼当日賢所大前の儀に臨まれる天皇陛下(現・上皇陛下)。平成31年(2019年)4月30日 皇居。
出典)Photo by Handout/Imperial Household Agency of Japan via Getty Images
今回の眞子さんの実例にもこの「譲位」との共通点がある。それは皇族ご自身による世襲的な地位から外に出たいという意思の表明だと言えよう。こうした皇族個人の意思が自由に表明され、自由な行動に繋がるという事例が頻繁に起きれば、当然ながら皇室全体のあり方が大きく変わってくる。
(その2につづく。全5回)
・この記事は日本戦略研究フォーラム2022年1月号に載った古森義久氏の論文「新しい年の日本の国難、そして皇室」の転載です。
トップ写真)新年一般参賀で集まった人々に手を振る皇族方(2020年1月2日 皇居)
出典)Photo by Carl Court/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。