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.国際  投稿日:2022/2/12

F35 C事故動画流出 米海軍捜査


大塚智彦(フリージャーナリスト)

【まとめ】
・F35C戦闘機の墜落事故時の動画がネット上に流出、海軍関係者関与の可能性が高いとして米海軍が捜査に乗り出した。
・事故現場はフィリピン・ルソン島西部海域の深海で、機体の発見・回収はかなり困難。
・中国は墜落事故について「関心はない」との姿勢だが、機体回収作業を進める米海軍の動きを警戒監視しているのは間違いない。

 

南シナ海で訓練飛行を終えて空母に着艦しようとして失敗、海面に墜落してその後海中に没した米海軍のF35C戦闘機の捜索を続けている米海軍は、インターネット上に事故時の動画が流出してアップされたことを重視、動画の撮影、流出に海軍関係者が関与した可能性が極めて高いとして捜査に乗り出したことが明らかになった。

米海軍空母の「カールビンソン」の艦載機F35Cが1月24日に南シナ海で通常の訓練飛行を終えて空母に着艦しようとした際に失敗、飛行甲板から海上に墜落した。パイロットは緊急脱出してヘリコプターによって救出され一命をとりとめたが、空母乗組員7人が負傷、機体はその後海中に沈没して行方不明となっている。

米海軍は事故の発生を認めながら、事故の詳細や事故発生場所を機密上の理由で明らかにせず、機体回収に全力を挙げていることだけは明らかにしている。

機体回収にはF35が最新鋭機でステルス機能やハイテク技術の粋が詰まった機体であることから中国によって回収されることへの懸念があるとされる。

中国は南シナ海の大半を一方的に「九段線」という自国の海洋権益が及ぶ海域として宣言しており、フィリピンやベトナム、マレーシアなどと南シナ海の島や環礁の領有権争いの原因を作り出している。

こうした一方的な中国の主張に対して欧米などは「航行の自由作戦」として海軍艦艇や航空機により、国際法に基づいた航行で公海上の航行の自由を繰り返し、これに対し中国は強く反発する状況が続いている。


写真)西太平洋航行中の空母USS Carl Vinsonから離陸するF/A-18E Super Hornet 戦闘機 2017年5月2日
出典)Photo by Matthew Granito/US Navy via Getty Images

■ 米国防省が動画は実物と認める

インターネット上の「ツイッター」や「ユーチューブ」などにアップされて拡散した事故の様子を伝える動画は2本あり、F35Cが「カールビンソン」の飛行甲板に着艦した直後に機体から出火、炎に包まれながら飛行甲板を滑りながら進み、その後飛行甲板から海面に姿を消すまでが約5秒間の動画と別角度からの約50秒の動画に映されている。

5秒の動画には1-24-22、16;31:35との表示が画面左上にあり2022年1月24日16時31分35秒という事故発生時間とみられる数字が表示されている。画面はモノクロで事故の瞬間を記録した装置の画面を携帯電話か何かで撮影したような動画となっている。

さらに別の動画は同じく飛行甲板への着艦に失敗し、炎に包まれながら海面に墜落していくF35Cの様子が記録されている。

米国防省は流失した2本の動画は「カールビンソン」の艦上に備えられた「フライトデッキカメラ」などによって撮影された映像であり、実物であることを認めた。そのうえで「無許可の映像流出事案」として捜査に乗り出すことを明らかにした。

■ 無関心と中国、機体回収は困難か

米海軍は事故海域に捜索救難艦艇などを派遣して、機体回収に全力を挙げていることを明らかにしているが、事故海域に関しては明らかにしていない。

しかし南シナ海を航行する日本の船舶に米海軍による機体回収作戦に関わる航行情報を出している日本の海上保安庁は、事故が起きたのはフィリピン・ルソン島の西部海域としている。当該海域の水深は3000メートルから3500メートルの深海とされ、墜落したF35Cの機体の発見・回収はかなり困難な作業になるとの見方が有力だ。

これに対し中国は墜落事故について「関心はない」との姿勢を示しているが、軍事筋は「自国の海洋権益が及ぶ海域の事故であり、最新鋭の米海軍機の墜落でもあり、関心がない訳がない」として、機体回収作業を進める米海軍の動きを警戒監視していることは間違いないとしている。

米海軍は事故と共に事故の様子を撮影した内部の動画がネット上に流出したことを「無許可の流出」として重視、本格的な捜査に乗り出している。

撮影された動画から空母乗組員の関与は間違いないとみられ、事故原因の捜査と同時に動画流出に関して乗組員の捜査を同時に進めなければならなくなった事態に「海軍規律の緩み」を指摘する声もあり、「カールビンソン」乗組員、海軍関係者、国防総省関係者は「憂慮」を示しているという。

一刻も早い機体の発見・回収と動画流出の当事者特定・捜査が進むことが求められている。

トップ写真)チェサピーク湾上空でテスト飛行を実施するF35C 2011年2月11日
出典)Photo by U.S. Navy photo courtesy Lockheed Martin via Getty Images




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