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.国際  投稿日:2022/1/27

米F35機墜落 南シナ海で米中緊張


大塚智彦(フリージャーナリスト)

【まとめ】
・米海軍空母「カールビンソン」の艦載機F35C戦闘機1機が海に墜落。

・米海軍、中国の機先を制し早期の独自回収を最優先として「捜索作戦」進める。

・当該海域では激しい情報戦が展開しており、南シナ海で米中の緊張が高まっている。

 

南シナ海で自由の航行作戦に参加していた米海軍の空母「カールビンソン」の艦載機F35C戦闘機1機が1月24日、通常訓練飛行を終えて母艦に着艦しようとしたところ失敗して海に墜落した。

F 35Cは「カールビンソン」の飛行甲板から滑り落ちるようにして海中に墜ちて水没、行方不明になった模様だ。パイロットは緊急脱出して、米海軍の救難ヘリコプターに救出されて無事だったが、乗員7人が負傷し、機体は行方不明になっているという。

米軍は事故が起きた詳細な位置を公表していないが南シナ海は中国が一方的に海洋権益を主張している「九段線」の内側に大半が位置していることから、最新鋭戦闘機であるF35CライトニングⅡの機体の回収に乗り出してくる可能性もあり、米海軍としては中国の機先を制して早期の独自回収が最優先事項として「捜索作戦」が進んでいる。

着艦失敗事故の詳細は明らかになっていないが「カールビンソン」は空母「エイブラハム・リンカーン」とストライキング・グループ(打撃群)はフィリピン沖海域での日本の海上自衛隊と共同演習を終え、その後23日から南シナ海での訓練に参加していたという。

写真)ベトナムを訪問した米海軍空母「カールビンソン」2018年3月5日 ベトナム・ダナンにあるティエンサ港

出典)Photo by Getty Images/Getty Images

 

■ 最新ハイテク技術のF35

 米ロッキード・マーチン社製のF35CライトニングⅡは優れたステルス性を持つ戦闘機で実戦配備は2019年という最新鋭機であり、軍事機密でもあるハイテク技術が満載され、その技術は中国にとって「垂涎の的」であることは間違いないといわれている。

 このため中国にとっても海底には沈んだF35Cの機体はもとより破片など機体の一部を回収するだけでもステルス性能やデータプロセスなどの大きな「収穫」の手がかりになるとみて、米軍の回収作戦の状況を監視しながら、独自の回収作業を開始する可能性があるといわれている。

 米海軍は少なくとも6隻の各種捜索救難艦に加えて、高性能の無人深海捜索艇を明らかにしていない南シナ海の捜索海域に派遣したという。なんとしても中国より先に海中のF35Cの機体を発見して、可能ならば残らず回収したいという思惑がこの「捜索・回収作戦」にはにじみ出ている。

 F35はF35Aの多用途戦闘機、A35Bの垂直短距離離着陸機、F35Cの艦上戦闘機に大別される。今回墜落したF35Cは艦載機として主翼外翼部が折りたためるようになっている。

★F35、航空自衛隊でも墜落事故

AFP通信によると、今回のF35Cの着艦失敗事故で「カールビンソン」の飛行甲板要員7人が事故に巻き込まれて負傷し、うち3人はフィリピンのマニラにある病院に緊急搬送されて治療を受けているが命に別状はない、と伝えた。

こうした断片的な情報から事故はF35Cが飛行甲板に一度着艦あるいは飛行甲板に衝突したものの、その後何らかの理由で飛行甲板から海に墜落したものと推測されている。

米海軍は事故地点と共に事故の詳細については明らかにしていないが、捜索海域周辺を立ち入り禁止海域にして、中国など他国の水上艦艇や潜水艦、航空機などの接近に神経を尖らせているのは確実とみられている。

南シナ海は最も深いところで水深は5000メートル以上で、F35Cが深海で発見されても回収が困難な場合も予想されている。

F35に関しては過去にも複数の事故が報告されている。

このうち今回と同じく空母で起きた事故としては2021年11月に英軍のF35Bが地中海で行動中の英海軍空母「クィーン・エリザベス」から発進する際、海中に墜落した。この時パイロットは救出され、機体も回収された。

このほか2018年以降米本土でF35A、F35Bの3件の事故が明らかになっている。

2021年4月には航空自衛隊のF35Åが青森県沖で墜落し、パイロットは死亡認定されたがエンジン、主翼一部などの部分は海底約1500メートルから回収された。

2022年1月4日には韓国空軍のF35Aが訓練飛行中にランディング・ギア(着陸用車輪)が出ないという不具合が発生して胴体着陸するという事案も起きている。

軍事関係者などによる墜落したF35Cの捜索・回収作戦が続く中、今後中国が自国の海洋権益が及ぶ海域での事故であることを主張して、捜索・回収に乗り出してくる可能性も否定できないという。

米海軍は墜落したF35Cの機体を深海で発見しても回収が技術的に困難な場合は、爆破処置などを講じてでも中国側に機体の軍事秘密保護に徹することも想定しているという。

こうした動きも含めてF35Cという最新鋭の戦闘機が墜落した当該海域ではすでに激しい情報戦が展開していることは確実とみられ、南シナ海は「波高し」の状況で米中の緊張は高まっている。

 

トップ写真)パシフィックエアショーで飛行する米戦闘機F35C 2021年10月1日 カリフォルニア州ハンティントンビーチ
出典)Photo by Michael Heiman/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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