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.国際  投稿日:2022/2/13

北京冬季五輪こぼれ話


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・北京五輪、問題や疑念が報道されている。

・アイスホッケー女子、日中戦で、観客が抗日歌歌唱。審判の疑惑の判定も。また、負傷者も続出している。

・国籍をめぐる問題も。アイスホッケー中国代表は半数以上が帰化選手。

 

目下、北京冬季オリンピックが行われている。中国が五輪を運営するにあたり、危惧された事態が起きた。

第1に、2月6日、女子アイスホッケー中国対日本の試合途中に、場内を盛り上げるBGMとして「保衛黄河」という“抗日歌”が流れた(注:a)。1930年代、日本の侵略から黄河周辺地域を防衛しようと呼びかけた曲である。これは、五輪憲章違反ではないだろうか。結局、試合は“抗日歌”の効果のせいか、中国が2対1で勝利した。

▲写真 北京冬季五輪アイスホッケー女子予選リーグ・グループB 日本対中国戦(2022年2月6日) 出典:Photo by Fred Lee/Getty Images

第2に、2月7日、ショートトラックスピードスケート女子500m準々決勝で、中国の范可新選手が、トラック上の「マーカーブロック」を、范の前を滑っていたカナダのアリソン・チャールズ選手に向かって(故意に?)押し出したため、カナダ選手は転倒(注:b)している。

第3に、今回のオリンピックでは、中国選手有利の「疑惑の判定」(注:c)が相次いでいる。

同7日、ショートトラック男子1000m準決勝で、韓国のファン・デホンイ・ジュンソがそれぞれ1位と2位で決勝進出するはずだった。だが、2人は失格判定を受け、中国選手の李文竜と武大靖が繰り上がっている。

次の決勝戦では、ハンガリーのシャオリンサンドル・リュウ選手が中国選手3人の牽制を振り切り、1位でゴールした。しかし、審判は、シャオリンサンドル・リュウが2度のペナルティを犯したと失格判定を下している。

第4に、今回、北京五輪競技場の雪は、すべて人工雪(注:d)である。地面の雪は天然の粉状ではなく、硬い氷の粒で覆われている。このような雪質は、特に選手を滑らせやすく、地面に落ちたときに深刻なダメージを受けやすい。

そのため、参加選手たちの中に負傷者が続出(注:e)している(スケートリンクでの負傷者を除く)。

▲写真 人工雪を作る機械(2022年1月2日、河北省張家口市崇礼) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

2月1日、米国スキー・フリースタイル選手、カイ・オーウェンズが練習中に負傷した。また、同月3日、日本のスノーボード選手、芳家里菜が公開練習中に、脊髄を損傷した。

▲写真 北京冬季五輪スノーボード公式練習で転倒した芳家里菜選手(2022年2月3日) 出典:Photo by Clive Rose/Getty Images

同6日、ドイツのアルペンスキー選手、ドミニク・シュワイガーはダウンヒル滑降中に仰向けに倒れ、セーフティネットに滑り落ち、左腕を負傷した。翌7日、米国アルペンスキー選手、ニーナ・オブライエンが女子アルペンスキーの大回転でゴールに向かっていた時、左足を骨折した。

ところで、今回のオリンピックでは、「米国籍を捨て、中国籍で参加」した選手が多い(注:f)。

北京五輪では、174名の中国人選手が出場している。アイスホッケーの男子中国チームの場合、25人の代表中、半分が中国へ帰化した選手である。また、同種目の女子中国チームは23人の代表中、13人が帰化選手だった。

特に、個人種目で有名になったのは、朱易選手と谷愛稜(アイリーン・クー)選手だろう。

朱易選手は、2月6日・7日に行われたフィギュアスケート団体戦に出場した。けれども、朱易選手は、演技中、何度も転倒し、中国チームの足を引っ張ったとして、中国のネット上で厳しい批判にさらされた。

▲写真 北京冬季五輪フィギュアスケート団体女子フリープログラムで転倒した朱易選手(2022年2月7日) 出典:Photo by Jean Catuffe/Getty Images

朱易選手は、2018年、北京五輪に参加するため、国籍を中国に変更した。あまり上手に中国語を話せない朱易選手は、父親が著名な科学者である事から、コネで出場したのではないかという疑惑を持たれ、バッシングに遭っている。

朱易選手と対照的なのは、谷愛稜選手だった。同選手は、両親がアメリカ人と中国人のハーフである。

▲写真 北京冬季五輪スノーボード女子ハーフパイプ決勝を見守る谷愛稜選手(2022年2月10日) 出典:Photo by Ezra Shaw/Getty Images

2月8日、スキー・フリースタイルは8日、新種目の女子ビッグエア決勝が行われ、谷愛凌選手が金メダルを獲得した。そこで、中国ネットユーザーらは、谷選手を「スノー・プリンセス」と持ち上げた。だが、現在、谷愛稜選手には、二重国籍疑惑(注:g)が持ち上がっている。

(注)

a:『朝日新聞デジタル』「試合中のBGMに抗日歌か アイスホッケーの日中戦」(2022年2月6日付)

b:『インデペンデント』(英国のオンライン新聞)「カナダのメディア、中国のスケーターが故意に競争相手を排除したかどうかを疑問視:『まさに、オリンピック級の不正行為』」(2022年2月8日付)

c:『読売新聞オンライン』「猛烈に怒る韓国『史上最悪の五輪』『習近平の業績作り』…中国への反発、疑惑の判定でさらに高まる」(2022年2月10日付)

d:『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(米議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。民間の非営利法人が運営)「北京オリンピック競技会場は100%人工雪に依存」(2022年2月3日付)

e:『NBCスポーツ』「2022年冬季大会のこれまでの五輪負傷者一覧」(2022年2月7日付)

f:『ドイツの声(DW)』(国営の国際放送事業体で、ラジオ、テレビ、インターネットでサービスを提供)「朱易がネットユーザーの非難の的、冬季五輪『米国籍を捨て中国国籍取得』選手にプレッシャー」(同年2月7日付)

g:『台湾英文新聞』「谷愛凌は米国籍を捨てたのか」(2022年2月9日付)

トップ写真:北京冬季五輪開会式(2022年2月4日) 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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