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.国際  投稿日:2022/2/14

マレーシア、医療ツアーに注力


20220213 中村悦ニ(フリージャーナリスト)

 

【まとめ】

・マレーシア政府諮問機関が3月1日から隔離免除旅行者の入国許可を提言。

・「ヘルスケア・ツアー」は国家戦略の一つ。「低コスト」が売り。

・ヘルス・ツアー業界は提言を歓迎する一方、オミクロン株拡大にも配慮が必要と慎重論も。

 

マレーシア政府の諮問機関である国家再建協議会(NRC)は、3月1日から隔離免除旅行者の入国を許可すべきだと提言した。これを受けて、観光業界だけでなく、医療(ヘルスケア)ツアー業界でも復活への期待が高まっている。一方、同国の新型コロナウイルス感染者はオミクロン株感染者を中心に衰えを見せていないことから、慎重論も根強い。

マレーシアは、シンガポール、インド、タイなどと並び、ヘルスケア・ツアーの誘致を国家戦略の一つに掲げ推進している。保健省の管轄機関として、マレーシア・ヘルスケア旅行協議会(MHTC)が設立され、2009年から活動を開始。マレーシア健康品質学会などをつくり「マレーシア・ヘルスケア」ブランドの普及に努めている。MHTCの会員の大半はISO9001を取得しているという。ヘルスケア・ツアー客には、ビザ面での優遇措置が採られている。

マレーシアへのヘルスケア旅行者数は、2011年の64万3000人から2019年には122万人と倍増し、それに伴う医療収入は、2011年の5億2700万リンギット(約144億円)から2019年には17億リンギットへと3倍強になった。医療のため、家族での旅行も多いようで、関連の観光収入も無視できないようだ。売りは「低コストの医療サービス」だが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止で2020年初からヘルスケア旅行者の受け入れは止まっている。

MHTCは昨年11月、「マレーシア・ヘルスケア旅行業界ブループリント(青写真)2021-2025」を作成し、医療品質の向上、手ごろな値段での医療サービス提供、観光を含めた安全な旅行先としてのブラッシュアップなどを掲げた。同青写真は、ポスト・コロナを睨んでのことだが、NRCが2月8日に発表した早期の隔離免除旅行者の入国許可提言の地ならし役の一旦を担ったといえなくもない。すでに、シンガポールとの間では協定で隔離免除の往来ができるようになっている。

マレーシアにはアジアで最大規模の民間医療機関とされるIHHヘルスケアが本拠を構える。ヘルスケアとニュートリション部門を有力成長分野の一つとして位置付けている三井物産は、上場企業(マレーシアとシンガポールで上場)であるIHHヘルスケアの株式32.9%を持つ筆頭株主である。マレーシアの政府系ファンドであるカザナ・ナショナルも株主だ。IHHヘルスケアは、マレーシアのほか、シンガポール、ブルネイ、中国、香港、ベトナム、インド、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)など10か国で合計80の病院を経営。マレーシアのグレンイーグル病院、シンガポールのグレンイーグル、パークウエイなど名門病院を傘下に持つ。IHHヘルスケアがマレーシアを本拠とすることは、医療ツアー先としての同国のイメージアップに役立っている。

マレーシア民間病院協会(Association of Private Hospitals Malaysia=APHM)のクルジット・シン会長は2月9日に声明を出し、その中で会員である151病院の多くが近隣諸国からを中心にヘルスケア・ツアー客の治療をしているとしてNRCの提言を歓迎する一方、ブースターを含めたワクチン接種者の受け入れなどオミクロン株の感染拡大の動向にも配慮が必要としている(サウス・チャイナ・モーニングポスト紙2月9日電子版)。

マレーシアの州で最大のヘルスケア・ツアー客を受け入れているペナン州にあるペナン・アドベンティスト病院のロナルド・コー理事長兼CEOは、ヘルスケア・ツアー客の80-85%はインドネシアからで、同ツアー客からの収入は同病院収入の30-40%を占めていた、という(スター紙2月11日電子版)。APHMの理事であるコーCEOは政府が決めている受け入れ手続きの順守の重要性も強調。NRCの提言に関するマレーシア政府の最終決定を待っている様子だ。

写真)マレーシア・クアラルンプールの街並み(2016年)

出典)Photo by Rustam Azmi/Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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