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.国際  投稿日:2021/11/22

激しさ増す中国の振る舞いと言動 神経尖らせるASEAN、台湾


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・南シナ海では領有権や漁業を巡り、日本やASEAN諸国と中国の艦艇が日常的に小さな衝突を繰り返している

・習近平政権下、中国の振る舞いが傍若無人となり、言動も激しさと横柄さが目立ってきている。

・高齢化や社会保障を巡る中国の新たな矛盾も表面化している。

 

ASEAN(東南アジア諸国連合)と南シナ海が大国間の大きな関心の的となってきた。アメリカと中国の対立が激しくなるにつれて、日本や台湾、インド、オーストラリア、ロシアなどもASEAN外交に神経を尖らせている。中でも中国の言動、振る舞いが激しさを増しており、台湾を巡る米・中・日本などの軍事衝突が懸念されてきた。

ASEANは、東南アジアの地域協力機構で1967年にインドネシア、シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピンの五ヵ国が設立した。その後99年までにカンボジア、ミャンマー、ブルネイ、ベトナム、ラオスが参加し10ヵ国態勢となっている。首脳会議を最高意思決定機関とし域内の経済成長や社会文化の発展、政治の安定などを目的としている。10ヵ国と中国の関係は様々だ。南シナ海で領有権を争っているのはベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイがあり、排他的経済水域の境界を巡ってはインドネシアと係争中だ。特に紛争のない国はカンボジア、シンガポール、タイ、ミャンマー、ラオスなどとなっている。

ただ中国は南シナ海ほぼ全域に権益が及ぶと主張しているため、フィリピンは国連海洋法条約に違反していると「仲裁裁判所」に申し立てている。2016年7月にオランダのハーグ仲裁裁判所はフィリピンの主張を認めた。中国は南シナ海の西沙諸島、南沙諸島などを囲む「九段線」の内側は「歴史的権利を持っている」と主張し一方的に支配を強め、領有権争いのある海域で人工島を造成して軍事拠点化を進行させているのだ。日本との間では南沙諸島を巡って中国艦船が周辺を航行するため、日本側も自衛隊艦船を派遣して監視を強めている。

またアメリカも中国の主張を完全に違法だと否定し、7月に空母二艘を南シナ海に派遣して南沙諸島近辺で「航行の自由」作戦の演習を実施した。さらに南シナ海で軍事拠点建設に関わった中国企業に禁輸措置を科した。

一方の中国は勝手に南沙、西沙諸島に行政区を設置し、両島を海南島三沙市の下に置くと宣言。中国海警の艦艇が西沙諸島近辺でベトナムの漁船を沈没させたほか、ボルネオ近海で海警艦艇がマレーシアの掘削船を妨害したり、フィリピンが実効支配する島の周辺で漁船に偽装した海上民兵が集まり、軍事演習を何度も繰り返しているという。まさに南シナ海では領有権や漁業を巡り、日本やASEAN諸国と中国の艦艇が日常的に小さな衝突を繰り返している現実があるのだ。

▲画像 南シナ海の様子 出典:Photo by An Rong Xu/Getty Images

ただ、ASEAN各国の経済規模は国内総生産が最も大きなインドネシアで中国の9%しかなく、フィリピンやベトナムなどは5%以下だ。また軍事支出をみても最大のシンガポールで中国の4%、フィリピン、ベトナムなどは2%程度で、逆に中国への輸出入など経済依存度は15%程度と極めて大きく、中国なしでは生きてゆけないのが実情だ。ASEAN各国は近年急速に豊かになっているが、経済はどこも中国の投資と貿易に依存しているところが多く、“中国あってのASEAN”なのである。

しかし多くのASEAN各国や日本、アメリカ、豪州、インドなどは、最近の中国の強権、拡張主義に警戒感を強め、特に中国が南太平洋で外交攻勢を強めていることに神経を尖らせている。19年に入り中国はキリバス、ソロモン諸島と国交を樹立し台湾との関係を断絶させているし、すでにバヌアツ、フィジー、トンガ、パプアニューギニアなどと国交を結び援助攻勢を強めている。一国二制度は元はといえば中国が台湾を統一するために考えた制度といわれるが、中国が年々インド、太平洋で支配力を強めており、南太平洋で台湾を外交承認する国はパラオ、マーシャル諸島など15ヵ国にまで減ってしまっている。

気になるのは、習近平政権になってから中国の振る舞いが傍若無人となり、言動も激しさと横柄さが目立ってきている事だ。今年7月の結党100周年の祝賀式典で習近平主席は「我々をいじめ、服従させ奴隷にしようとする外国勢力を決して許さない。妄想した者は14億の人民が血と肉で築いた鋼の長城にぶつかり血を流すことになる」と強い表現でアメリカなどの外圧に立ち向かう姿勢を宣言。

台湾問題や人権問題批判などについても「教師づらをした偉そうな説教は受け入れない」と言い切り、「台湾の統一は歴史的任務だ。中国を専制主義と批判する国もあるが、党の指導は中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴で最大の優位だ。列強による侵略や抗日戦争に打ち勝ち世界第二位の経済大国に発展してきたのは共産党があったからで、共産党がなければ新中国もなく、中華民族の偉大な復興もなかった」と強調した。

また北京に新設された「中国共産党歴史展覧館」の展示では習近平の功績に関する展示が目立ち、鄧小平、江沢民など過去の指導者をひとくくりにした上で、習近平氏から「新時代が始まった歴史区分」としているのである。習近平主席は“中国の夢”を実現する新たな闘いを社会主義的なやり方で貫こうとしているようにみえる。習近平氏がここまで強気に主張する背景は習氏の個人的資質から来ているものなのか、また「台湾の統一は歴史的任務だ」と強く言い切る裏には、10年前後以内に統一への行動を起こすことを示唆したものなのか――最近の習主席の言動は、今後の中国の行動に波乱をもたらす気配を感じさせる。米国が弱体化してきた今こそ中国が世界の覇権を握る好機と見ているのだろうか。

しかし中国は、習近平時代に“中国の夢”を実現し新時代を築いて来たと主張しているが、一方で高齢化や社会保障を巡る中国の新たな矛盾も表面化しつつあり、中国の将来がこのまま決して安泰に推移するとは言えなくなっている問題点が出現しつつあることも気にし始めている。

トップ画像:大スクリーンに映る習近平氏 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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