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.政治  投稿日:2022/2/19

朝日新聞とヒトラー その4 トランプ大統領も悪魔化の標的


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」

【まとめ】
・朝日新聞の悪魔化によるヒトラー利用は「天声人語」にも登場。

・同コラム、アウシュビッツ虐殺張本人のヒトラーをトランプ大統領に重ねていた。

・こうした憎悪の言論こそがナチスの再現に似た時代環境を連想させる。 

 

 「天声人語」といえば、朝日新聞の自慢のコラムである。世間の評価が高かった時代もあった。大学試験の教材に引用されることもあった。その書き手は朝日新聞だけでなく世間一般にも名の知られた名文記者ともいわれた。

 だが「天声人語」の近年の斜陽は本体の朝日新聞とともに無惨である。すっかり質が落ちたのだ。しかも独善の強い朝日新聞の政治プロパガンダの先兵になることも多くなった。本稿で指摘してきた朝日新聞の悪魔化によるヒトラー利用は、この「天声人語」にも登場するようになった。その一例を紹介しよう。

 2017年1月29日付朝刊の天声人語コラムである。このコラムの悪魔化の標的はその1月の20日にアメリカの大統領に就任したばかりのドナルト・トランプ氏だった。

 このコラムは1月27日がアウシュビッツ収容所の解放72周年だったことを取り上げていた。アウシュビッツ収容所とはいうまでもなくヒトラー総統下のナチス・ドイツが国策として実行したユダヤ民族抹殺計画の犯行の主舞台だった。

 ポーランド領内のこの収容所で戦争中に合計110万人ものユダヤ人たちが殺された。同収容所は第二次大戦の終盤の1945年1月27日、ソ連軍部隊によって解放された。以来、1月27日には解放記念の式典が現地はじめ他の地域でも催されてきた。

「天声人語」はそのアウシュビッツについて次のように書いていた。アウシュビッツでの大虐殺の実行者をトランプ氏に重ね合わせていたのだった。

≪(前略)ユダヤ人たちはやがて強制居住区へ、そして強制収容所へと追いやられた。ポーランドにあるアウシュビッツ収容所は、人類によるおぞましい所業を象徴する場所である▼≫

≪数年前に訪れたとき、所員たちの精神的負担を軽くするための手立てに寒気を覚えた。銃殺でなく、ガス室へ送ることで流血を見ずにすむ。遺体の片付けを収容者にさせ、さらに距離を置く。鈍感の制度化であろう▼≫

このアウシュビッツには「天声人語」の筆者も数年前に訪れたことがある、というのだ。そのうえで以下のことをさらりと書いていた。

≪アウシュビッツ解放から72年となった一昨日、国連の式典でグテーレス事務総長が述べた。「ポピュリズムが、外国人への嫌悪やイスラム教徒への憎悪に拍車をかけている」。思い浮かべていた顔はトランプ米大統領、あるいは欧州の極右政治家たちか▼≫

以上の記述のカギはもちろん国連事務総長の言葉の後に続く「思い浮かべていた顔はトランプ」という部分である。国連事務総長がアウシュビッツを想起しながら、現代の世界のポピュリズムを語ったとき、思い浮かべたのはトランプ氏の顔だろうと、この「天声人語」記者は断じるわけだ。つまりアウシュビッツの虐殺の張本人のヒトラーをトランプ大統領に重ねていたのである。


写真)アウシュビッツ博物館ホロコースト77周年 有刺鉄線柵と監視塔。2022年1月27日、ポーランド・オシフィエンチム
出典)Photo by Omar Marques/Getty Images

私もこの国連事務総長の演説の原文を読んでいた。だがそこで最も強調されていたのは虐殺行為の犠牲になったユダヤ人に関連しての「反ユダヤ主義の台頭」だった。そこにはトランプ氏を連想させる記述はなかった。

だが「天声人語」の筆者は勝手にその残虐行為やその実行者のヒトラーをトランプ大統領と結びつけていたのだ。しかもその強引な結びつけは、二重三重に妄想ふうだった。その筆者がグテーレス国連事務総長が「思い浮かべていた顔はトランプ」と自分勝手に述べているのだ。

ポーランドで国連事務総長が思い浮かべた内容が日本にいる朝日新聞記者に瞬時にわかってしまうはずがない。あまりに一方的で扇情的な誹謗の飛躍とでもいえようか。

トランプ氏は民主主義的な選挙で選ばれたアメリカ合衆国の大統領である。いかにその政策や言明が過激に響いてもそれなりに法律に沿って実行する、あくまで非暴力の範囲内である。それを大量虐殺の犯罪責任者と同じに扱う筆法は、まともな言論とは思えない。

トランプ氏の義理の息子のジャレット・クシュナー氏はユダヤ系アメリカ人である。そのユダヤ人の義理の息子をトランプ氏は自分の政権で大統領上級顧問に抜擢した。朝日新聞はユダヤ人をそれほどの身近におく人物をユダヤ民族大量虐殺の下手人たちと同列におくのである。

しかも72年以上も前の時代と現在との環境の違い、価値観や国際情勢の違いなどをすべて無視して、アウシュビッツを一気にトランプ大統領と結びつける。

トランプ憎しのあまりの過剰攻撃であろう。こうした憎悪の言論こそがナチスの再現に似た時代環境を連想させるといえよう。

(その5につづく。その1その2その3

トップ写真)テキサスで行われた「セーブアメリカ」集会で講演するトランプ前大統領。2022年1月29日 テキサス州・コンロー
出典)Photo by Brandon Bell/Getty Images 

 

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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