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.政治  投稿日:2022/2/17

朝日新聞とヒトラー その3 日本の官僚はヒトラーの部下と同じなのか


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・朝日新聞が批判対象をヒトラーやナチスになぞらえて攻撃する手法は安倍政権時代に顕著。
・2018年7月、日本とナチスの官僚を「無責任の構造の悪」の観点から同一視する社説を発表。
・新聞各紙の言論の自由を尊重すべきだが、ユダヤ人虐殺を行ったナチスと今の日本を重ねるのは、不自然さが残る。

朝日新聞が自分たちの嫌いな相手を攻撃する際にヒトラーやナチス・ドイツを利用することがいかに多いか。その実例は山ほどある。前回はコラム記事による当時の小泉純一郎首相をヒトラーになぞらえた例を提示した。だがこの悪しき慣行は単にコラム記事には留まらない。朝日新聞の正面看板としての社説にも堂々と登場してくるのだ。

この攻撃手法は安倍晋三氏が首相だった時期にとくに顕著だった。その際のヒトラーへの言及、ナチスの利用は今回の菅直人元首相の橋下徹氏へのヒトラー呼ばわりよりも何十倍も激烈だといえる。何度も述べるが、その菅元首相の発信を批判する記事を書いた朝日新聞の記者たちには、この自分たちの新聞の長年のヒトラー利用の言語手法についての感想をぜひとも問いたいところである。

さて、日本政府の官僚はヒトラーの部下と同じなのか。ユダヤ人虐殺を実行したナチスの官僚や親衛隊と同じなのか。いまの日本はナチス・ドイツのようになる危機が深まっているのか。いまの日本社会に生きる責任ある人間たちが本当にそんなことを思っているのか。

こんな一連の疑問を感じさせる記述が朝日新聞2018年7月29日朝刊の社説に満ち満ちていた。その社説を読んで、これらの疑問に対する私自身の答えはもちろん断固たる「ノー」である。

日本の公務員がヒトラーの部下と同じなはずがない。だからその両者を同じように扱う朝日新聞の論調は理不尽である。朝日新聞の社説を書く人たちがもし本当に日本の官僚がユダヤ人大虐殺を実行したナチスの官僚と同じだとか、似ていると思っているとすれば、その人たちの頭脳は病んでいるとしか思えない。

さてその社説は「わたしたちの現在地 深まる危機に目を凝らす」という見出しだった。2018年7月といえば、安倍晋三氏が2012年に二度目の総理大臣となって6年、安倍政権の真っただ中だった。朝日新聞はそれまで文字通り、連日のように安倍政権を攻撃してきた。だが安倍総理の座は揺るがず、それ以後の2年以上も安倍政権は続いたのである。

この社説の趣旨は一言でいえば、当然ながら安倍政権への非難である。その政権に仕える、つまり日本政府の行政機構で働く官僚たちの糾弾でもあった。

社説は冒頭、以下のように書いていた。

 《うその答弁に文書の改ざん、言いのがれ、開き直り――。民主主義をなり立たせる最低限のルールも倫理もない、異常な国会が幕を閉じて1週間になる。

 豪雨被害、そして酷暑に人々の関心は移り、不都合なもろもろを、このままなかったことにしてしまおうという為政者の思惑が、少しずつ、しかし着実に世の中を覆っていく。

 私たちの日本社会はいま、危うく、きわどい地点にさしかかっているのではないか》

以上はまずその時期の国会の進み方、終わり方への非難だった。森友・加計に明け暮れた国会での安倍政権側の対応が民主主義のルールや倫理を破り、日本を危うくしている、というわけだ。

       写真)安倍政権の退陣を求めるデモの様子(2018年03月16日)
出典)Photo by Carl Court/Getty Images

この主張には当然、反論がある。目前に迫った中国や北朝鮮の軍事脅威、アメリカからの貿易問題での要求など、日本の根幹を揺さぶる危機的な課題をまったく論じず、森友、加計の論議を優先させた国会での野党の言動には国民の批判も多かった。それは各種の世論調査でも明白だった。

だがそれでも朝日新聞が政権・与党側の態度を完全に非として糾弾し、野党側の主張を全面的に支持することはそれなりに理解はできるだろう。見解の違いである。

しかし朝日新聞のこの社説は上記の主張の直後に日本の2018年の政権をドイツの1940年代のナチス政権に重ねあわせていくのだ。日本の国会の話にすぐ続けて、いきなりナチスを持ち出してくるのである。以下のような記述だった。

《来月(2018年8月)3日まで東京・岩波ホールで公開されている映画『ゲッベルスと私』の主人公ブルンヒルデ・ポムゼルは、第2次大戦当時、ユダヤ人虐殺を進めたナチスの宣伝相ゲッベルスの秘書として働いた。顔に深いしわが刻まれた103歳が語る。

 『私は、言われたことを忠実にやっていた』

 彼女が担った役割は、ナチスの犯罪のごく末端にすぎない。だがそうした小さな悪の集積が大きなうねりとなり、当時のドイツを破滅に追いやった。

 『私に罪はない』とポムゼルは言う。たしかに自分もその一人ではあった。でも、みんなが同じく加担したのだ、と》

以上の記述には当惑させられる。

日本の現在の国会や為政者の思惑についての論議になぜナチスが唐突に登場してくるのか。それは朝日新聞が明らかに、安倍政権やその官僚の言動をナチスのそれにたとえようとするからだ。ナチスと同類項だという含みである。

上記の記述部分への中見出しが「忠誠が生み出す罪悪」となっていたこともその例証である。ユダヤ人虐殺を進めたゲッペルス宣伝相の秘書は安倍政権の官僚に等しく、その共通項は「忠誠」だという指摘なのである。

 同社説はナチスとのこの重ね合わせをさらにエスカレートさせていった。以下はまたその引用である

 《ナチス親衛隊の元中佐で、ユダヤ人を強制収容所や絶滅収容所に送りこむ実務責任者だったアドルフ・アイヒマンを思い起こす人も少なくないだろう。

 戦後逃亡して1960年に逮捕された彼もまた、自らの裁判で、上司の命令と当時の法、つまり総統ヒトラーの意思に忠実だったまでで、自分に罪があるとは感じていないと述べた。法廷を傍聴した政治哲学者のハンナ・アーレントは、権威への追従が重大な罪につながる『悪の陳腐さ』を指摘している》 

写真)イスラエルで裁判を受けるアドルフ・アイヒマン(1961年5月29日)
出典)
Bettmann/ Getty Images

ヒトラーの部下でナチスの戦争犯罪人とされた悪名高きアイヒマンの登場である。その登場はさらに唐突だった。前半のゲッペルスの秘書の紹介は日本で当時、上映中の映画からの導入だから、まだその言及には時宜もいささかは感じさせた。だがナチス親衛隊のアイヒマンとなると、2018年の日本への結びつきはツユほどもない。

だがこの点の狙いの不透明さは同社説の次の記述で一気に解明された。

 《大きな流れのなかで一人ひとりの罪の意識は薄まり、上に立つ者の意を踏まえた無責任の構造が、『悪』を行うことへの抵抗をなくしていく》

 《ナチスの所業と安易に対比することはできない。だが、森友問題でこの国の官僚が見せた態度に、相通じるものを見る》

そうか、やはり安倍政権下の日本の官僚はヒトラーの部下のナチスの官僚と同様だ、と主張しているのだった。「無責任の構造の悪」がナチスといまの日本に共通しているというのだ。そのうえで、日本の官僚が森友問題で見せた態度はナチスと相通じる、と断言しているのだった。やはり日本の官僚とナチスの手先や犯罪者たちの同一視なのである。

朝日新聞社説はそのうえで、日本の財務官僚の文書改ざんや安倍首相への疑惑を厳しく非難する主張を続けていた。日本の現状をこのまま放置すると、ヒトラーの時代と同じような不吉な事態が起きるという趣旨の警告を発するわけだ。

 同社説は末尾で以下のことも述べていた。

 《危機の兆候を見逃したり、大したことにはなるまいと思ったりしているうちに、抜き差しならぬ事態に立ち至る。歴史が警告するところだ》

もちろん言論の自由は尊重されねばならない。朝日新聞がなにを書こうがそれなりの自由は大切である。だが民主主義を堅持し、平和主義を唱えるいまの日本をユダヤ民族を大量虐殺したナチス・ドイツと重ねるというのは、あまりに不自然である。70余年の年月の経過、国際情勢の根本的な変化、日本の国内の現状などをまったく無視しての暴論としてひびく。

朝日新聞はこれほどヒトラーを利用して、政敵の攻撃の武器としてきたのである。

(その4につづく。その1その2

トップ写真)国会審議にのぞむ安倍晋三元首相
出典)Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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