仏、「細菌汚染食品」による食中毒相次ぐ
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・フランスで大腸菌、サルモネラ菌、リステリア菌などに汚染されている食品が相次ぎ見つかり、被害が出ている。
・子供や高齢者が重篤化。菌は冷凍状態でも生き続けるため、よく加熱することが重要。
・フランス政府はサイトでリコール製品一覧を掲載。消費者に注意を呼びかけている。
現在フランスではここ数週間で、大腸菌、サルモネラ菌、リステリア菌などに汚染されている食品が相次いで見つかり、食品に対する配慮を改めて考えさせられる事態となっている。
まず、4月6日のフランス保健省の調査結果で、イタリアの食品工業会社ブイトーニ(ネスレグループ)のピザが大腸菌に汚染されている可能性が指摘された。汚染されたピザはフランスのほぼ全域で販売されており、少なくともそのピザを食べた48人の感染が確認され、2人の子供が死亡したのだ。
その後、イタリアの食品会社フェレロのチョコレート菓子、キンダーシリーズからサルモネラ菌が発見されリコールされた。ベルギーの工場で生産された製品はヨーロッパ中で販売されている。フランスだけでも21人の子供が感染し、8人が入院した。ヨーロッパ全体でもこの数週間で100人以上の感染者が確認されている。
またさらに、フランス乳製品大手ラクタリス社グループの複数のチーズからリステリア菌も見つかったということで、スーパーからいくつかのチーズが姿を消したのだ。
各ケースの詳細は以下の通りだ。
■ 各ケースの詳細
ブイトーニ社のピザの汚染は、調査の結果、「食品衛生の管理レベルの低下」が明らかになり、工場が食品衛生に関する義務を順守するまで生産禁止となった。問題になったピザからは、腸管出血性大腸菌O26とO103の存在が確認されており、そのピザを食べた後、発熱、下痢などの症状が相次いだ。
その後の調査で、症状がある感染者の90%が溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断された。感染者の平均年齢は7歳で、患者の多くが子供たちだ。感染して症状が重篤化するのは年齢の低い子供や高齢者が多いのである。
▲写真 ピザ(イメージ) 出典:Photo by Arturo Holmes/Getty Images
キンダーシリーズから発見されたサルモネラ菌は、工場内部の問題と特定されて工場は一時閉鎖され、この工場で製造されたチョコレートは9日に全てリコール対象となった。今回は、チョコレートという事もあり、低年齢の子供が多く感染し、フランスで入院した子供の平均年齢は4歳だった。
ラクタリス社グループのチーズから発見されたリステリア菌は、パートナー農場の生乳が原因だった。生乳というのは無殺菌乳のミルクのことだ。生乳で作られたチーズは、ミルクの中の有益な乳酸菌が生きており、風味が豊かで人気があるものの、このようにリステリア菌などの細菌類が混入する可能性がある。
リステリアは、他の一般的な食中毒菌と同様に加熱により死滅するが、4℃以下の低温や、12%食塩濃度下でも増殖する点が特徴だ。症状は発熱など、インフルエンザに似た症状の場合もあれば、敗血症、髄膜炎、中枢神経系症状などを引き起こす場合(リステリア症)もある。リステリア症は、食中毒による2番目の死因で、フランスでは年間数十人が死亡している。ラクタリス社グループのチーズについては、汚染されている可能性があることがわかりすぐにリコールされたが、幸いなことに感染者はまだいない。
■ 消費者側も予防策を
今回は死亡者がでたので大きくとりあげられたが、実は、こういった食中毒に関するリコール自体は日常的におきていることはご存じだろうか?
人間が食物を食べる限り食中毒はなくなることはない。もちろん、企業側が努力することが一番重要であるが 消費者側もかしこく原因を見極め、被害を最小限に抑えるために対策を怠らないようにしていきたいところである。
例えば、問題となったピザは冷凍食品であったが、今回のことで特に冷凍食品に関してはよく加熱するように繰り返し報じられている。菌は冷凍している状態でも生き続けるためだ。しかし多くの菌は加熱することで死滅する。
また、すでに製品に付着していている場合は対策も難しいが、サルモネラ菌などは自然界から菌が付着する場合もある。保菌しているネズミ・ハエ・ゴキブリや、犬・猫・カメなどの「ペット」から感染する場合もあるので、動物を触った際にしっかり手洗い、さらに生の魚や貝類、肉、卵などに触れた後は、手を洗ってから次の調理に移ることが大切だ。
生乳のチーズは、食中毒の原因になることは知られており、過去、死亡者もでている。そのため日本では作られるチーズはほぼ全てが殺菌乳のチーズとなっているのだが、生乳と殺菌乳では風味がぜんぜん違う。だからこそ、生乳のフランスのチーズが美味しく感じられるのだ。この伝統を守るためにも、フランスでは、A.O.C.、A.O.P.という品質認証システムがあり、生産者側が十分注意を払われているが、リスクが残っていることは間違いない。そこで、フランスの保健局では、生乳のチーズは、・5歳以下の子供・妊娠中の女性・免疫不全の人や体調がすぐれない人は食べないように推奨している。(生乳から作られたチーズを食べるときの注意事項|農水省)年齢や体調にあわせてチーズを選ぶようにしたいものだ。
■ フランスのリコール製品の一覧が載ったサイト
フランスではこういったリコール製品の明示化をはかるため、2021年4月にフランス政府によって商品の詳細が確認できるサイト(リコール対象食品一覧)が開設された。被害をできるだけ防ぐために、こういったサイトでリコールされた詳細を確認することも重要になってくるだろう。
消費者側も日常的に食中毒にならないように対策していくよう、今回の問題を受けて改めて呼びかけられている。
<参考リンク>
◎<Pizzas Buitoni : qu’est-ce que le syndrome hémolytique et urémique qui touche certains enfants ? | TF1 INFO>:「ブイトーニ・ピッツァ:子供も発症する溶血性尿毒症症候群とは?|TF1 INFO」
◎<Salmonelle, E.Coli, listeria : y a-t-il des failles dans la sécurité sanitaire des aliments ? | TF1 INFO>:「サルモネラ菌、大腸菌、リステリア菌:食品安全に抜け穴?」
◎https://www.bfmtv.com/economie/consommation/listeria-dans-les-fromages-24-000-bries-coulommiers-et-camembert-desormais-concernes-par-le-rappel_AD-202204080305.html>:「チーズのリステリア菌:24,000個のブリー、クーロンミーア、カマンベールがリコールの対象に」
◎<Des fromages de la marque Graindorge, coulommiers et bries, rappelés pour suspicion de listériose>:「グランドルジュのクロミエ・チーズとブリー・チーズがリステリア症の疑いでリコール」
◎<Comment fonctionne le système d’alerte sanitaire en France ? | Ministère de l’Agriculture et de l’Alimentation>:「フランスにおける健康警報システムの仕組み|農業・食料省」
◎<Salmonelles. Rappel de chocolats Kinder par Ferrero : huit enfants hospitalisés en France | Actu>:「サルモネラ菌 フェレロ社によるキンダー・チョコレートの回収:フランスで8人の子供が入院」
◎<Contamination à la salmonelle : Ferrero rappelle en France cinq produits Kinder, indépendamment de leur date de péremption>:「サルモネラ菌汚染:フェレロ社、フランスで「キンダー」5製品を賞味期限に関係なく回収」
◎<Pizzas Buitoni, chocolats Kinder, fromages… Cinq questions sur les rappels et les contrôles de produits alimentaires>:「ブイトーニ・ピザ、キンダー・チョコレート、チーズ…食品のリコールと管理に関する5つの質問」
トップ写真:大腸菌 出典:Photo by Smith Collection/Gado/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。