【ファクトチェック】ゼレンスキー氏、クリミア奪還の方針…米欧からの武器そろう6月中旬以降に反転攻勢⇒ミスリード
【まとめ】
・5月の戦況をめぐって、読売新聞は5月6日「ゼレンスキー氏、クリミア奪還の方針…米欧からの武器そろう6月中旬以降に反転攻勢」との記事を公開。
・当記事に対し、ウクライナは武力を用いてクリミアを奪還しようとしている様に読み取れる、とするツイートがあった。
・ウクライナ側公式発言に基づいてファクトチェックを行った結果、この見出しは「ミスリード」と判定した。
読売新聞は6日、以下のような記事を投稿した。
出典)読売新聞オンラインより
この記事に対し、以下の反論がネット上になされた。
「この読売の記事は、先日の日経の誤解を招く記述の上に、更に別の情報を積み上げた結果の誤報ではないでしょうか。ウクライナの情報空間には、ゼレンスキーがクリミア武力奪還を目指す話をしたなどという情報は全くないですよ。」
https://twitter.com/hiranotakasi/status/1522724367679078400
読売新聞の見出しでは、ウクライナ側が、米欧提供の武器がそろい次第、ロシアに対して反転攻勢を仕掛けるように読み取ることができるが、実際ウクライナ側はこのような姿勢を明確に示しているのであろうか。
今回はこの読売新聞の記事をファクトチェックする。
ロイター通信によると、5月5日に行われたウクライナ大統領府の戦況に関する報告において、オレクシイ・アレストビッチ顧問は「ウクライナは、同盟国からより多くの武器を受け取ることを望む6月中旬までに、ロシアとの戦争で反攻を開始する可能性は低い」と述べている。西側から多くの武器が届けばロシア軍へ反攻するとは発言してはいない。
一方、当該記事見出し(ウクライナ、反転攻勢へ…大統領府顧問「米欧提供の武器がそろう6月中旬以降」)は、ウクライナが6月中旬以降西側の武器を使用しロシアに反転攻勢をかける意志を明確にした印象を与える。アレストビッチ顧問の発言を拡大解釈しているといえる。
写真)オレクシイ・アレストビッチ大統領顧問 2022年2月
出典)ウクライナ大統領府
また5月3日に行われたアメリカの有力紙「Wall Street Journal」のライブ配信に出演したゼレンスキー大統領は「あなたにとって勝利とは何を意味するか?戦争開始時からどういった変化となるか?」と問われた。
これに対しゼレンスキー大統領は、「領土を完全に回復することが最重要項目で、ロシアの侵攻が始まった2月24日前の状態にまで押し戻す」と述べたうえで、「クリミアについても戦争が終結した後に、外交的な形で取り戻したい」と述べた。クリミアを武力で奪還するのではなく、まずは現在のロシアの侵攻を押し戻し、その後対話でクリミアの領土を回復するとの考えを示した。
ウクライナはかねてクリミアを武力で奪還することには否定的だった。4月6日、ウクライナ大統領府がゼレンスキー大統領の発言を以下のように発表している。
「大統領は、占領されたクリミアを武力で奪回する可能性を否定した。また、ロシアとの交渉で、ウクライナが提案したことは、クリミア半島の脱占領の話題が10〜15年間出てこないことを意味するものではないと説明した。彼によると、この期間中に当事者は外交を通じてクリミア問題を解決しなければならないと協定に規定する必要がある」。
つまり、ウクライナは既にロシアに実効支配されているクリミア半島を武力で奪回するには膨大な兵力を必要するため現実的ではなく、むしろ兵力は今回ロシアが侵攻してきた地域に配備し、ロシア軍を国境まで押し戻すことが先決であり、クリミア半島については戦争が終結した後、時間をかけて外交的に解決するほうが現実的だと判断している可能性が高い。
これらのことから、当該記事見出しはウクライナが西側の武力を用いて6月中旬にもクリミアを奪還しようとしている様に読み取れるという点で、ロシアのウクライナ侵攻について幅広い方面から情報を集めている有識者はともかく、一般読者には誤解を招く表現だといえる。
以上のファクトチェックより、5月7日に投稿された当該記事は「ミスリード」と判断する。
【見出し変更 2022年5月23日15:00】
本記事は2022年5月22日に一度掲載されましたが、ファクトチェック対象とした読売新聞の当該記事の見出しが変わっていました。
記事中の読売オンラインの画像を、ファクトチェック対象とした2022年5月6日に掲載されたものに差し替えると同時に本記事の見出しも変更します。
変更前見出し:【ファクトチェック】
ウクライナ、反転攻勢へ…大統領府顧問「米欧提供の武器がそろう6月中旬以降」⇒ミスリード
変更後見出し:【ファクトチェック】
ゼレンスキー氏、クリミア奪還の方針…米欧からの武器そろう6月中旬以降に反転攻勢⇒ミスリード
【Japan In-depthファクトチェックポリシー】
Japan In-depthは、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、ファクトチェックを実施しています。FIJが定めたガイドラインに準拠して、言説の真実性・正確性の評価・判定を行います。政治家、有識者の発言、メディアの報道、ネット上で拡散されている情報など、社会的に影響の大きな言説を対象とします。判定基準は以下の通りです。
【読売オンラインで見出しが変更された後の記事】
尚、見出しは以下のように変更されている。
〇ゼレンスキー氏、クリミア奪還の方針…米欧からの武器そろう6月中旬以降に反転攻勢
〇ゼレンスキー氏、クリミア奪還目指す…米欧提供の武器そろう6月以降に反転攻勢
〇ウクライナ、反転攻勢へ…大統領府顧問「米欧提供の武器がそろう6月中旬以降」
出典)読売新聞オンラインより
トップ写真)ゼレンスキーウクライナ大統領 2022年4月5日
出典)ウクライナ大統領府