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.国際  投稿日:2022/6/15

アジア安全保障会議、米中姿勢に変化なし


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#24」

2022年6月13-19日

【まとめ】

・先週末、アジア安全保障会議(通称:シャングリラ会合)が行われた。

・オースティン米国防長官は、台湾を危険に晒すものに対抗する能力の維持を強調したのに対し、中国は、魏鳳和国防部長が台湾独立の動きを断固として潰す姿勢を表明した。

・両国の発言から、米中とも基本的な政策は変えていないし、変えるつもりもないことが読み取れる。

 

 先週末のアジア安全保障会議(通称「シャングリラ会合」)の際、オースティン米国防長官と中国の魏鳳和国防部長が初めて対面で会談したが、結果はジャブの応酬に終わったようだ。

 オースティン氏は「(中国の)威圧に対抗する能力の維持」を表明、魏氏は「台湾を中国から分裂させようとするなら代価を惜しまない」と述べたと報じられた。

 早速、我らが朝日新聞の6月12日付社説は「国防の責任者が競って力を振りかざすのは危うい」と説いた。おいおい、米中とも今回急に「競って力を振りかざし」始めた訳ではないぜよ。今回の米中両国防相の発言内容に目新しいものはあまりない。そのくらいのこと、社説を書くなら、予め勉強しておいてもらいたいものだ。

オースティン長官の発言、正確には「(米国の台湾政策は)台湾の人々の安全や社会、経済システムを危険に晒す武力行使や別の形の威圧行為に対抗する我々の能力を維持することを意味する」だった。されば、今週の英語の蘊蓄はmaintainとimproveの違いを取り上げることにしよう。

この発言の原文は「means maintaining our own capacity to resist any use of force or other forms of coercion that would jeopardize the security or the social or economic system of the people of Taiwan.」である。日経新聞記者はこれが台湾有事の際の米軍の「対処能力を向上する」意味だと報じたが、うーん、そうかなあ。

理由は二つ。第一に、この国防長官発言部分は1979年の米国台湾関係法の関連条文とほぼ同一内容であり、何ら目新しくないからだ。長官は「maintain」と言っており「improve」ではないのである。但し、当該日経記者はこの部分が台湾関係法第2条⒝6項と同じであることを承知の上で報じており、その点では好感が持てる。

第二に、逆に言えば、国防長官はこれまであまり言及されてこなかったこの部分を敢えて繰り返したということである。米側の本音は、従来の台湾政策に変更がないと言いつつも、実質的には、最近の中国の軍事力増強に対応すべく必要な軍事的能力を向上させることで、台湾防衛のための米国の能力を「維持」するというところか。

写真)2019/5/30 台湾の屏東での侵入防止訓練

出典)Patrick Aventurier / GettyImages

 勿論、中国側も黙ってはない。魏鳳和国防部長はこう述べた。「台湾独立の試みは断固として潰す。台湾を中国から分離しようとする者があれば、中国は戦いを躊躇しない。いかなる犠牲を払っても最後まで戦う。中国の選択肢はそれしかないからだ。」中国語原文は手元にないが、この部分も、実は特に目新しいところがない。

要するに、米中とも基本的な政策は変えていないし、変えるつもりもない、ということだろう。この種の米中間の駆け引きは個人的に大いに興味があるが、それ以上に、最近米国内で対中政策の在り方そのものについて新たな議論が起き始めているようで気になっている。詳しくは今週の産経新聞WorldWatchをご一読願いたい。

〇アジア 

6日に一部地域を除く飲食店の店内営業を再開したばかりの北京でコロナ感染が再び拡大しているそうだ。ナイトクラブなどでクラスターが発生、9日以降、228人の感染が確認、濃厚接触者も8000人以上だという。TV朝日がクラブで踊る多数の若者の映像を流していたが、あれでは防ぎようがないね。正に、いたちごっこ、である

〇欧州・ロシア

 英国が先にEUと調印した離脱合意の一部に優先する法案を公表したという。これって、後出しジャンケンだが、EU側は反発、与党・保守党内でも対立が先鋭化する恐れがあるそうだ。ジョンソン首相は先日、内閣不信任決議可決を回避したばかりだが、こんなことをやっていると、この政権一層弱体化するのではないのかね?大丈夫か。

〇中東

 インドと中東イスラム諸国の関係が微妙になりつつある。モディ政権の与党報道担当者が預言者ムハンマドを侮辱したとして問題視されているのだ。一部の国ではインド大使を呼び出して抗議したり、スーパーの棚からインド製品が撤去されたりする事態に発展しているそうだが、歴史的にはヒンドゥーも「イスラームの敵」なのだろうか?

〇南北アメリカ 

米上院超党派グループが銃をめぐる安全対策の強化に関する法案の骨子に合意したそうだ。21歳未満の銃購入者に対する身元調査の厳格化や銃の違法購入の取り締まり強化などが含まれるそうだが、銃が自由に売買できることに何ら変わりはないようだ。これで銃規制強化とは、毎度のことながら、お笑い草である。

〇インド亜大陸 

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)バイデン米大統領(左)とオースティン米国防長官(右)

出典)Photo by Anna Moneymaker/Getty Images

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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