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.社会  投稿日:2022/7/8

日本のものづくり最大の危機②


照井資規(ジャーナリスト)

【まとめ】

・信用情報の回復さえできれば事業を復活できる中小法人・個人事業者が多数ある。

・コロナ禍支援金は2月の事業復活支援金が最後となり、経営は限界に達している。

・新規顧客は期待できない。金融機関や大家は今の顧客を大切にすべき。

 

信用情報の救済が最も有効かつ即効性があり、費用も手間もかからない

コロナ禍で経営難に陥った中小法人・個人事業者に今、最も必要なものは「信用情報の回復」である。信用情報の回復は直ちに行えて、しかもお金がかからない最も有効かつ即効性のある救済施策だ。

コロナ禍で信用情報に傷がついてしまった中小法人・個人事業者について、コロナ渦中の経営状況に囚われることなく、現在の経営状況から事業復活、経営改善及び事業発展の兆しが見られるのであれば、それらを新たな信用条件として融資が受けられるようにするのである。直近3ヶ月間の売り上げの推移や、半年単位の試算表などを参考に、各金融機関が判断すればよい。制度的には一時・月次支援金のように税理士などと「事前確認業者」として指定し手当を支払う程度で、政府は金融機関や信用保証協会などに方針を示すだけで済み、税制や法律を変える必要も、新たに予算を組む必要も無く行える。

2年以上に渡るコロナ禍の間、家賃が払えなくなったり、融資の返済ができなくなるなどして信用情報に傷がついた中小法人・個人事業者は相当数にのぼる。中小企業庁による「一時支援金」「月次支援金」は2月の「事業復活支援金」を最後に打ち切られた。6月末まで事業復活支援金の差額給付の受付も行われたが、条件が厳し過ぎて申し込みできなかった中小法人・個人事業者は数多くあったことだろう。

東京都も独自に「東京都中小企業者等月次支援給付金」を支給していたが、同様に2月で打ち切りとなった。以降の事業継続は中小法人・個人事業者の自助努力のみである

コロナ禍支援金は2月の事業復活支援金が最後となり、経営は限界に達している。

最近の相次ぐ物価高の影響により、国民の消費意欲が著しく減退していることを痛感している。3月から現在の7月に至るまで、決して事業復活の好条件ではないのだ。むしろ長引くコロナ禍に円安による物価高が加わったダブルパンチにより、顧客は戻って来ておらず、支援金も打ち切られたため経営が限界に達している。事業再構築補助金などは条件が厳しすぎる上、先に銀行からの融資を受けて費用を用意しなければならない。補助金制度の問題は「日本のものづくり最大の危機①」で筆者が実際に体験したことを詳細に述べているとおりだ。ロシアのウクライナ侵攻による影響が出始めるのはこれからであり、トリプルパンチとなればコロナ禍で経営難に陥った中小法人・個人事業者に止めを刺すことになる。そのようなことになれば「日本のものづくり最大の危機①」で述べたような、史上最悪の大不況と、倒産・廃業・失業者の爆発的増加となる。経済が危機に陥れば国民の心も病み、治安は悪くなり外国の侵略を許すことに繋がる。国家安全保障の最大の危機を迎えることにもなりかねない。大規模自然災害にも弱くなる。不幸は決して単独でやってこないものだ。

国民の消費意欲の著しく減退は、貯金と日々の生活のみに関心が向くようになり、教育と芸術に真っ先にお金が回らなくなる。しかも飲食業や観光業に対して、この両分野には何の補償もない。教育が衰退すれば知力において海外に劣るようになり、現在ですら日本人の平均月給は欧米の60%程度であるところ、ますます溝を開けられることになる。芸術や文化は人間だけが持つものであるから、それらが衰退すれば心の豊かさも海外からの関心も失われていくことだろう。天然資源の量に乏しい日本では人財こそが国際競争力の源泉であり「資本」である。しかもそれは養うには長い時間を必要とするものだ。失われないように維持しなければならない。

国民の消費意欲が著しく減退してしまっては、いくら観光促進事業を行っても日本国民が動くことはない。生活する上で必須のことではないからだ。海外の観光客に対しても先進国で日本だけが突出して厳しい。「ゼロリスク、ゼロコロナ追求で失う重大な勝因」にて書いたように、新型コロナウイルスによる犠牲を皆無にする、ゼロコロナ追求、生命至上主義に偏った施策ではなく、ある程度のリスクは踏まえた上で早急に経済力を回復させるべきだ

▲写真 浅草寺周りの商店街(2022.07.09) 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

新規顧客は期待できない。金融機関や大家は今の顧客を大切にすべき。

各種補助金は平時よりもコロナ禍中では支払いが遅れることは「日本のものづくり最大の危機①」に書いたとおりだ。コロナ禍支援金も支払いは遅い。筆者の場合、生活支援臨時特別給付金が支払われたが、銀行口座に振り込みがあったのが5月30日で、支払い決定通知の日付は6月10日、通知が葉書で届いたのは6月14日のことだった。通知の方が遅くなるのは月次支援金でも毎回のことだった。その一方で、融資の返済、家賃の支払いなどはコロナ禍でも支払いは待ってはもらえない。たとえ支払えても数日でも遅れてしまえば信用保証協会などに通報されて信用情報に傷がついてしまう容赦の無いものだ。

信用情報に傷が入るとは「信用情報機関に延滞履歴が掲載される」ことだ。返済などの遅滞が事故履歴として信用情報機関に掲載される、つまり「ブラックリスト」に載ることになる。以前は「事故原因となった債務を完済してから」5年から10年、各信用情報機関の定める日数で事故理由により信用情報は回復したものだが、長引く不況、コロナ禍では、こちらもゼロリスク追求により、些細なことでも掲載されてしまう。一度掲載されてしまえば二度と回復しない信用情報機関独自基準による「社内ブラック状態」に陥る。こうなると融資も受けられなくなり、賃貸物件も借りられなくなる。回復までに5年も10年もかかり、二度と回復しないとなれば事業復活は絶望的だ。

この状態は金融機関や大家にとっても不利益になる。今の顧客を捨て、新規顧客を新たに獲得しようにも、良好な経営を続けられている中小法人・個人事業者が減ってしまっているからだ。今の顧客を大切にし、苦しい状況を共に乗り切った方が、より早い回復に繋がる。業種によっては新たな利益は現在の顧客の80%が生み出すものであるから、無慈悲に切り捨てることなく大切に維持する方が新たな顧客がついてくる

防衛費を増額することが議論されているが、その財源はどこにあるのだろうか。現在の円の価値では防衛費を2倍に増やしてやっと、現在の性能と同じ外国製武器を買えるようになる程度だ。まずは経済力を回復させなければならない。しかもそれは、信用情報の救済という費用のかからない方法で直ちに実行できる。

トップ写真:銀座(2017年11月) 出典:Photo by Smith Collection/Gado/Getty Images




この記事を書いた人
照井資規ジャーナリスト

愛知医科大学非常勤講師、1995年HTB(北海道テレビ放送)にて報道番組制作に携わり、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、函館ハイジャック事件を現場取材の視点から見続ける。


同年陸上自衛隊に入隊、陸曹まで普通科、幹部任官時に衛生科に職種変更。岩手駐屯地勤務時に衛生小隊長として発災直後から災害派遣に従事、救助活動、医療支援の指揮を執る。陸上自衛隊富士学校普通科部と衛生学校にて研究員を務め、現代戦闘と戦傷病医療に精通する。2015年退官後、一般社団法人アジア事態対処医療協議会(TACMEDA:タックメダ)を立ちあげ、医療従事者にはテロ対策・有事医療・集団災害医学について教育、自衛官や警察官には世界最新の戦闘外傷救護・技術を伝えている。一般人向けには心肺停止から致命的大出血までを含めた総合的救命教育を提供し、高齢者の救命教育にも力を入れている。教育活動は国内のみならず世界中に及ぶ。国際標準事態対処医療インストラクター養成指導員。著書に「イラストでまなぶ!戦闘外傷救護」翻訳に「事態対処医療」「救急救命スタッフのためのITLS」など

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照井資規

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