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.国際  投稿日:2023/5/21

中国経済の本当の姿と新型コロナ再流行


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

 

【まとめ】

消費、投資や不動産投資に関する中国経済の実態が向上しているか判断しにくい。

・4月29日、中国最新の新型コロナ全国発生状況報告によれば、陽性率は上昇傾向。

・新型コロナの変異株が中国全土で散発的に起きれば、消費回復は微妙。

 

今年(2023年)5月16日、中国国家統計局が4月の固定資産投資(=投資)と社会消費財小売総額(=消費)、及び、不動産開発投資という重要な数字を公表した。

中国のGDPで1番大切な固定資産投資は、(いつもの如く)単月表示ではなく、1-3月、1-4月と累計で発表している。これでは、具体的な状況が良くわからないだろう。

国家統計局は、固定資産投資が1-4月は+4.7%成長したと主張している。だが、計算すればすぐわかる通り、4月単月の固定資産投資(グラフ1)は前年同月比-10.4%と大きく落ち込んだ。これは、かなりゆゆしき事態ではないだろうか。

図)グラフ1

実は、今年1-3月累計では政府投資が10.0%、民間投資が0.6%だった。同様に、1-4月累計では、政府投資が9.4%、民間投資が0.4%となっている。

ここで、2014年~23年まで1-4月(累計)固定資産投資の図表を作成してみよう(グラフ2)。

図)グラフ2

2014年から19年にかけて、順調に固定資産投資が右肩上がりで伸長した(ただし、1-4月という累計<1 年のわずか3分の1>なので、結論を急がない方が良かもしれない)。2020年、新型コロナ禍、固定資産投資が一時的に減少したが、21年・22年と回復の兆しを見せていた。けれども、今年に入って再び固定資産投資に陰りが見える。

写真)恒大集団に開発されたビル群(中国・武漢 2021年09月24日)

出典)Photo by Getty Images

特に、注目すべきは、2014年と15年の1-4月、民間投資が固定資産投資全体の7割近くを占めていた。ところが、19年以降、民間投資が投資全体の50%台に陥り、今年同期では、民間投資が全体の54%となり、8、9年前と比べ、15ポイント以上も下落している。民間の力が衰退していると言っても過言ではないだろう。今後、民間投資が50%を割り込む危険性があるかもしれない。

他方、統計局は社会消費財小売総額(グラフ3)が+18.4%成長したと強調している。だが、前年同期が-11.1%である。4月に消費が急伸長したとは、とても言えないだろう。

図)グラフ3

昨年6月から9月にかけて消費が前年同期比プラスなので、今年6月以降の数字を見なければ、消費が上向いたかどうかわからない。ただ、のちに触れるように、新型コロナの変異株が中国全土で散発的に起きている。そのため、これから消費が回復するかどうか微妙な形勢である。

一方、中国のGDPの20~30%を占める不動産開発投資(裾野が広いため)だが、依然、厳しい状勢にある。

国家統計局は固定資産投資同様、単月ではなく、1-3月、1-4月と累計で示している。これでは、何がどうなっているのかさっぱりわからない。そこで、単月毎の図表(グラフ4)を作成してみよう。

図)グラフ4

グラフにはないが、2022年1-2月期は1.4499兆元で前年同期比の1.3986兆元をかろうじて上回っている(+3.6%)。ところが、その翌3月から今年4月までの13ヶ月、連続で前年同月比マイナスとなった。特に、昨年11月以降、(今年3月を除き)不動産開発投資が、1兆元(約20兆元)を割り込んでいる。

仮に、今後も1兆元割れが続くようであれば、ひょっとして、不動産バブルが崩壊したと言えるのかもしれない。

さて、話は変わるが、5月5日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、新型コロナがもはや「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(「パンデミック」)に該当しないと発表(a)した。過去3年間の流行で、全世界では7億6千万人以上の陽性症例と690万人以上の死亡が報告されている。

ところが、4月29日、中国疾病管理予防センターが公表した最新の新型コロナの全国発生状況によれば、4月21日から4月27日までに全国で報告された集団のPCR 検査陽性数および新型コロナ陽性率は上昇傾向を示しているという。4月27日には陽性率が4.4%となった。その前の3月、PCR 検査陽性率は1%未満で推移していたのである。

実際に、中国内の臨床医も「4月中旬から感染者数が徐々に増えている」(b)と感じ取っているという。

そして、メーデーにあたるゴールデンウィーク明け(4月29日~5月3日)、各地で新型コロナ感染者の流行が報告され、広東省東莞市の東城街では5日、6日から13日まで連続8日間のPCR 検査を手配するとの予告が出された(c)。

  この発表により、PCR 検査が再流行するのではないかと、市民の間でパニックが起きた。また、北京をはじめとする中国の多くの大では、新型コロナの陽性反応の出た学生を隔離するよう要請されたと噂されている。他方、安徽省では再びPCR 検査の行列ができているという。

 

(a)『中国網』

「中国発表:新型コロナの流行は終わったのか?この人たちはまだ感染のリスクがある」

(2023年5月8日付)

(http://news.china.com.cn/2023-05/08/content_85272536.html)。

(b)『毎日経済新聞』

「新型コロナの陽性反応数の変動 臨床医:『2回目感染』の症状は、一般に初感染より軽い」

(2023年5月4日付)

(http://www.nbd.com.cn/rss/toutiao/articles/2805796.html)。

(c)『自由時報』

「都市ロックダウンの悪夢が再び? 中国のメーデー連休明け、東莞では8日連続のPCR 検査実施でパニックに陥る」

(2023年5月7日付)

(https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/4294114)。

トップ写真:コロナ禍後、中国の町の人出(中国・北京 2023年4月18日)

出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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