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.政治  投稿日:2022/7/9

参議院選挙の本当の「争点」⑫政治システム改革(安倍晋三氏追悼)


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・参議院選挙の本当の争点は政治システム改革である。

・政治家の待遇の可視化が必要であり、政治献金の意味、影響力については内部で問われて欲しいものだ。

・行政官僚の働き方改革・モチベーション向上のために議論を尽くす必要がある。

 

安倍晋三元首相が亡くなられた。とても悲しいことだ。20年前に議員会館でお会いして以来、内閣府の地方創生の時に首相官邸で再会できたことがとても嬉しかったことを思い出した。とっても優しく、丁寧な人で、人間的に素晴らしい方だった。とても悲しく、残念でならない。心よりご冥福をお祈りしたい。彼の意思を継いで、日本のためにリーダーシップをふるう政治家の登場を期待している。

写真)首相官邸、内閣府地方創生メンバー(安倍氏は右下、筆者は左上)

筆者提供)

さて、今回の参議院選挙の論点、政治システム改革について考えていこう。政治とは何か、を改めて考えると図のようになる。

 

【出典】筆者作成

政治とは様々な決定をする、利害や価値の闘争・ゲームの場である。税金を集めて、それを配分したり、事業を行ったりする。利害や影響力をあらそって選挙が行われ、勝った党が大きな方針・予算・ルールを決めていく。これが政治のリアルな「ゲーム」である。

■各党の公約

今回、政治改革・行政改革について図にまとめると、各党それなりに良い案を出していると率直に思う。

【出典】筆者作成

注目すべき内容を見てみよう。

◆自民党:

・本府省課長級・室長級のポストへの採用・異動は官民内外からの公募

・課長補佐級以上に対する 360 度評価

◆公明党:

・BPR(業務改革)を推進、行政サービスの質向上と業務効率化

・政治資金規正法の監督責任の強化

◆立憲民主党:

・強力な行政監視機能を持つ「行政監視院」を国会に設置

・法律の制定・改廃を国民が発議できる国民発案権(イニシアティブ)制度

◆維新の会:

・道州制基本法を制定し、国、道州、基礎自治体の役割を明確化。国のあり方を抜本的に再構築

・特別会計については、抜本的な見直しと整理

◆国民民主党:

・熟議のための国会改革、審議の在り方の見直し

・公文書改ざん厳罰化

◆共産党:

・憲法違反の政党助成金制度を廃止

・内閣人事局を廃止

◆れいわ新選組:

・「利益相反行為」への規制強化

・選挙の供託金の廃止

各党、本当に素晴らしい内容ではある。これらが、すべて、いや、一部でももし実現できれば・・・・と思うのは私だけだろうか。

■【論点1】政治家さんの待遇

それでは論点を出してみよう。

・国会議員の平均年収2255万円。

・平均給与433万円。

厚遇なのか?それぞれに与えられている報酬や権利を以下図に整理

してみた。

【出典】筆者作成

これを見て皆さんはどう思うか。

政治家さんの待遇が適切なのか、国民の議論も必要だろう。細田博之議長の「議長になっても毎月もらう歳費は100万円しかない。上場会社の社長は1億円必ずもらう」という発言が問題になったが、個人的には何を勘違いしているのだろうかと思ってしまった。政治家は単なる利害調整人、主権者である国民の「しもべ」の代理人のはずである。人々にサービスや商品を提供し、価値を提供し、幸せや生活の満足度を上げることができる商人のトップに比肩するのはどうかと思う。そもそも政治家の待遇が厚遇すぎると個人的には思うが、政治家がどれだけ大変な仕事なのかが「可視化」されていないから細田議長の言い分も何とも評価できない。

国民から見てどうか。低すぎるのか、高すぎるかどうか、可視化されないとわからない。年収の「根拠」を国民の前でプレゼンしてもらいたいものだ。

■【論点2】政治献金の意味、影響力

第2の論点は、政治プロセスのゲームをどうするか?である。なかでも、政治献金である。政治ゲームの今のルールは、カネで影響力を及ぼすことである。組織や企業や団体にとって、よくない法律ができればロビーイングもするし、個人として後援会にも入る、パーティーにも会費を払って参加する。有用な情報があれば政治家に提供する。そういうゲームが行われている。もちろん投票もそのゲームの1つである。

他方、政治家さんは結局、(選挙や献金で)色々お世話になったことへの返答が必要になるのは自然なことだ。企業経営者の中にはお付き合いで支援したり、「人に惚れた」「これは志!対価はいらない!」といって支援する人もいるが、多くが建前であって、本音は自分の名誉や何かしらの保険でもある場合が多い。

このようなゲームを今後も続けるのか?ということだ。

自民党の政治献金の受け皿である国民政治協会の寄付トップは、第1位は2億円を寄付した日本医師会の政治団体「日本医師連盟」、第2位は日本自動車工業会、第3位は日本電機工業会である。

【出典】総務省資料、国民政治協会について

トップの日本医師連盟の政治資金を見てみよう。自民党議員を中心に年間約5億円近くを献金、政治資金パーティーの会費などにも約7000万円支出している。

【出典】総務省資料、日本医師連盟について

団体にとって、このお金はいったい何のためなのだろう。影響力を及ぼすためだというのは理解できる。しかし、株主総会、総会などで「オープンに」内部や社会に説明する社会的責任もあるだろう。会員もその意義を厳しく問う人がいてもいいし、政治資金の効果があったのか?そもそも必要か?も組織内部で問われて欲しいものだ。

■【論点3】行政官僚の働き方改革・モチベーション向上

そして第3の論点が行政官僚の働き方だ。深刻なのが官僚・政府組織の内部のモチベーションである。若手官僚には退職者が目立つようになったと言われており、仕事に意味ややりがいが感じられないこと、組織内部の体質や激烈な働き方などが原因と言われている。

確かに、政治的文脈では、内閣人事局による人事のコントロールなど「政治のリーダーシップ強化」によって、官邸官僚の跋扈するなど指示命令系統のゆがみ、忖度・論功行賞が横行、政策決定が非公開・少数・短期で実施されたり、内閣人事局の弊害は情実人事であったり、官邸の意向に沿わない人物を遠ざける報復人事の可能性・余地があるといった問題点が指摘されている。このことは政治のリーダーシップ強化が起こしうる弊害なので、これはまたきちんと評価すればよい問題だが、深刻な問題はそれとは別に、現場にあるのだ。

特に、官僚の立場に立つと、

・2年でローテーションでは専門性が身につかない

・人材市場で価値のあるスキルが身につかない

・内閣人事局で政治家が言われた「本当に必要なのか効果についても疑問がある」仕事を仕方なくやることもある

・机上の空論や法律論議が多く、現場感や社会への貢献意識、やりがいが感じられない

・法律や政策の制約によって創造性が発揮できない

・人事評価、業績評価といっても、目標設定・達成度評価が機能しないし、評価に納得も持てない

・民間企業の友達より賃金が低い

となってしまうのだ。

内閣人事局の調査結果を見てみると恐ろしい「厳しい職場」像が浮かび上がる。

【出典】内閣人事局「在庁時間調査」

なんと、20代の一種・総合職の職員の16%が1月100時間以上の残業時間をしているのだ。我慢して働いてもらっている状況は持続的であるとは言えないだろう。人事評価同様、仕事の中身やモチベーションは深刻に議論・改善すべき問題である。

■安倍首相の遺志をついで

今回の連載では、経済政策を中心に論点を出してきたが、政治システム改革こそ、令和の日本の「未来の社会像」にとってもっとも大事なテーマではないかと思う。それは、社会における価値観闘争・影響力闘争・利害闘争のベースになるルールであるからだ。

各党の公約を見ると、政治家もやるなあと正直思ってしまった。それぞれ問題認識を持ち、提案している。各党・政治家さんが皆で協力してすべてを実現する、それが難しくてもある程度妥協・方向性

を合意して実行できれば日本の政治はイノベーション出来るはずという思いを強くした。

日本政治のシステム改革、各党が歩み寄って、協調して、協力して、未来が暗い令和の日本を立て直して欲しい。「改革をとめてはならない」「美しい国」をつくるために必要なことはそういったことだと思う。

安倍晋三さんに捧げる。

写真)国会議事堂 2010年1月18日

出典)Photo by Kiyoshi Ota/Getty Images

 




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