【安倍晋三さん追悼】生産性革命を再び!【日本経済をターンアラウンドする!】その3
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・経済面で安倍政権のもたらしたことを正しく評価する必要がある。
・安倍政権は、2020年度までを生産性革命集中投資期間と位置付けて、補助金や固定資産税減免、人材への投資などを具体的に政策化させた。
・労働生産性は国際的に低下、人的資本の重要性が浸透しつつある中、改めて、生産性革命の必要性が再興されるべき。
安倍晋三元首相の国葬儀、内外で大騒ぎであったが、やっと終わった。
政治的なスタンスや利害、個人的な感情、法律論、政治家としての評価、遠因の宗教団体との関係の評価などがぶつかって、まさに、国中が分断されたと言っていいほどであった。日本の元リーダーが殺害されたことは、その理由が何にせよ、それはそれで多くの国民が精神的ショックを多かれ少なかれ受けただろうし、他方、近年の右翼化傾向、しかもその裏に宗教団体の影響があったことに戸惑ってしまうような、何とも言えない事件であった。しかも、選挙の直前。
元首相の愛国的な言動や行動は別にして、経済面で安倍政権のもたらしたことを正しく評価する必要があるだろう。
特に、生産性革命。今でも先進国の中で労働生産性は低く、2021年度の日本生産性本部の分析報告によると、「日本の1人当たり労働生産性は、78,655ドル。OECD加盟38カ国中28位。もちろん韓国より低く、ギリシャやポーランドと同程度、アメリカと比較しても半分程度という現状。2017年という5年前に大々的に打ち出したのは評価してよいだろう。
□ 生産性革命というレガシー
経済財政諮問会議で安倍さんはこう言っている。「経済政策の最大の柱は、人づくり革命であり、安倍内閣が目指す一億総活躍社会をつくりあげる上での本丸。もう一つの柱は、生産性革命であり、力強い賃金アップと投資を後押しするため、2020年度までの3年間を集中投資期間と位置づける」と。
さらに、「平成27年6月30日 日本再興戦略改訂2015-未来への投資・生産性革命」では、生産性を高めるための鍵は、何と言っても投資である。将来の発展に向けた、設備、技術、人材への投資である。グローバル経済下で生き残りを賭ける者にとって「寄るべき大樹」は存在せず、大企業も中堅企業も、中小・小規模企業も、個人も横一線である。(中略)企業収益が過去最高水準となっている今日、日本が新たな産業群を作り出し、再び世界のフロントランナーとなるためには、将来投資を行う「民間の出番」であり、「今こそが行動の時」である。英断をもって 過去の成功体験と決別し、未知なる世界に新たな一歩を踏み出す時である。」とまで言っている。この問題意識である。
▲図 【出典】経済産業省 産業人材政策室 「働き方改革」と「人づくり革命」の最近の動向について
□ さすがの生産性革命
当時、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、ロボットや人工知能(AI)による産業構造、就業構造の変革、日本が生産性革命をリードすることが「次への成長戦略の最大の柱」とまで言っている。2020年度までを生産性革命集中投資期間と位置付けて、補助金や固定資産税減免、人材への投資などを具体的に政策化させたわけだ。具体的には以下のようなものだ
1-中小企業・小規模事業者等の生産性革命
・中小企業・小規模事業者の投資促進と賃上げの環境の整備:固定資産税の負担減免、賃上げや人的投資等に取り組む企業の法人税軽減、IT投資支援 (3年間で約100万社のITツール導入促進)
・事業承継の集中支援
2-企業の収益性向上・投資促進による生産性革命
・集中投資期間中、賃上げや設備投資に積極的な企業に対しては、法人の利益に対する実質的な税負担軽減
・人材投資に真摯に取り組む企業についてはさらなる負担軽減
・賃上げを行いつつ、革新的な技術を用いて生産性の向上に果敢に挑戦する企業も負担軽減
・コーポレート・ガバナンス改革、コーポレートガバナンス・コードの見直し
3-Society5.0の社会実装と破壊的イノベーションによる生産性革命
・労働移動支援助成金等について、人材のキャリアアップ・キャリアチェンジを後押しすることに重点化して再構築
・ITを活用する幅広い産業の人材が基礎的なIT・データスキルを標準的に装備するため、公的職業訓練や一般教育訓練給付の充実
・技術革新等に伴って新たに求められる専門的・実践的なスキルの習得を支援
・専門実践教育訓練給付の対象講座の拡大
・2020年度から、全ての小学校でプログラミング教育が効果的に実施できるよう、「未来の学びコンソーシアム」による児童が用いる教材の開発促進、外部人材活用の体制の整備
・AI・ビッグデータ等を用いる新たな教育サービス(EdTech)を活用・導入ガイドライン整備
それなりのものが並ぶ。こうした政策は世論においては評価が低かったことを記憶している。「生産性革命」という名前の仰々しさゆえに「大げさな」「よく見せているだけ」と政権の本気度が失笑されていた場面を何度目にしたことだろうか。安倍政権がぶち上げた生産性革命の意味をその時、一部を除き大手メディアは気づいていなかったのかもしれない。そもそも日本社会の危機意識は低かった。
□ 本気になって今こそ生産性革命リターンズ!
しかし、政府は掲げ、それなりの政策に取り組んだものの、どれだけの成果が出たのは不明なことも確かである。抜本的に労働生産性が向上したわけではない。労働生産性の低さは相変わらずのままである。厳しいいい方で言うと、政策パッケージをリストアップしただけ、ともいえるし、問題意識はよかったが、政策の内容と実行してもらうための効果的な仕掛けが伴わなかったのかもしれない。ビジネスは企業が頑張ることであって、政府はあくまで支援する・促進する役割しかできない、相手の行動を促す・影響を与えるには政策では不十分という制約もある。
その意味で、安倍晋三さんの遺志は全く持って叶っていない。それどころか、労働生産性は本編第1回でも示した通り、国際的にも低下まっしぐらなのだ。人的資本の重要性がビズネスパーソンの中で浸透しつつある中、改めて、生産性革命の必要性が再興されるべきだろう。
生産性革命リターンズ、岸田政権に期待したい。
トップ写真:国会衆議院予算委員会で答弁する安倍晋三首相(2014年2月28日) 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。