無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/7/24

太平洋諸島で米中熾烈な綱引き


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

<まとめ>

・5月から6月にかけて、中国が太平洋諸島で会議を開催。

・太平洋諸島の指導者達は、北京の提示した共同発展のビジョンは受け入れられないという声明を発表。

・米国は7月11日から太平洋諸島フォーラム首脳会議をフィジーで開催、

「太平洋におけるプレゼンスを大幅に深める」方針。

 

 

太平洋には、知る人ぞ知る、太平洋諸島フォーラム(PIF)という機構が存在する。同フォーラムは、南太平洋の独立国や自治政府を対象にした地域経済協力機構である。島嶼国の主体性を堅持し、結束を図ることを目的として1971年、南太平洋フォーラムとして創設された。それが、2000年に太平洋諸島フォーラムと改称されている。

 

本部・事務局はフィジーの首都・スバで、加盟国・地域は16にのぼる。フランスの海外領土であるニューカレドニア、フランス領ポリネシアがPIFの準メンバーであり、また、米国のグアム、(サイパンを含む)北マリアナ諸島等は、オブザーバーとして参加している。今までは、豪州とニュージーランドが同フォーラムの主な援助供与国だった。

 

後述するように、今年(2022年)5月から6月にかけて、中国が太平洋諸島で会議を開催したが、習近平政権の狙いは何か。

 

第1に、北京は世界制覇の足掛かりを作るため、太平洋諸島へも進出したいのだろう。

第2に、北京は同地域で米国や豪州・ニュージーランドを牽制しようとしているのではないか。

第3に、台湾は大洋州でツバル、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国、ナウル共和国の4ヶ国と正式な外交関係を持つ。北京はそれを切り崩し、台湾の「国際生存空間」を狭める算段(a)ではないだろうか。

 

さて、5月30日、王毅外相はフィジーで太平洋諸国10ヶ国の代表との会談を行った。だが、会談は失敗し、北京は重大な外交的挫折(b)を味わっている。

 

中国と10ヶ国との包括的な合意には、太平洋諸国に対する法執行機関の訓練やサイバーセキュリティのアシスト等、北京の支援に加え、海底の微細な地図作成、陸上と海洋天然資源の開発などが含まれる。

 

北京のオファーの中には、何百万米ドルもの資金援助、中国と太平洋諸島の間の自由貿易協定、巨大な中国市場へのアクセスも入っていた。

 

最近、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領がこの地域の他の指導者達に送った書簡には、協定は「各国政府に対する中国の影響力を確保し」、主要部門に対する「経済支配」を目的とした「まやかし」だと書かれている。

結局、会議終了時、太平洋諸島の指導者達は、地域的コンセンサスが得られていないため、北京の提示した共同発展のビジョンは受け入れられないという声明を発表した。

 

今回、北京は太平洋諸国に莫大な資源を投資したが、期待したほどの成果を上げる事ができなかった(c)。その主な理由は、近年の「一帯一路」沿線国問題と似ている。各国は中国と交流することで周辺の大国とのバランスを取り、北京から他の援助を引き出そうとする。しかし、ソフトパワーレベルの安全保障の要求に対し、北京は上手く対応できなかった。

 

他方、6月7日、早速、米国は次週中にマーシャル諸島へ特使、尹汝常(ジョセフ・ユン) を派遣し、期限切れとなる2国間協議に備えると発表(d)した。

その後、7月11日から 4日間の日程で太平洋諸島フォーラム首脳会議がフィジーの首都スバで開催されている(e)。

 

今年4月19日、中国とソロモン諸島の間で締結された安全保障協定は、北京の影響力の増大を浮き彫りにした。米国、豪州、ニュージーランドは、中国の軍事基地建設を憂慮している。

 

更に、キリバスが太平洋諸島フォーラム首脳会談直前、PIFからの脱退を表明した。この件に北京が関わっているとも言われ、中国への懸念が広がっている。

 

7月13日、ハリス米副大統領は、同フォーラム首脳会談で米国がこの地域に6億米ドル(約828億円)を投資するとビデオを通じて発表(f)した。また、副大統領は、米国がトンガとキリバスで新しい大使館を開設する予定だと語っている。

 

ワシントンは、太平洋地域がこれまで十分に注目されていなかったことを認め、副大統領は、米国が「太平洋におけるプレゼンスを大幅に深める」と付け加えた。そして、米国も「平和部隊」(政府自ら経営し、ボランティアスタッフを開発途上国へ派遣して現地を支援)を戻すと述べている。

 

(注)

(a)『報呱』

「台湾の友好国が太平洋島嶼フォーラムから脱退 日本の学者:新しい枠組みを考慮しなければならない」(2021年7月30日付)

(https://www.pourquoi.tw/2021/07/30/intlnews-neasia-210723-210729-01/)。

 

(b)『rfi』「王毅の挫折:太平洋地域10ヶ国が中国との地域安全保障協定を拒否」

(2022年5月30日)

(https://www.rfi.fr/cn/国际/20220530-王毅遇挫-太平洋国家拒绝与中国达成区域安全协议)。

 

(c)『中国瞭望』

「太平洋で失速した『戦狼』外交:実力が意図に追いつかないことが生んだ悲劇」

(2022年6月11 日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/06/11/2493103.html)。

 

(d)『DW』「米国、王毅の出発直前、マーシャル諸島への特使を発表」

(2022年6月8日付)

(https://www.dw.com/zh/王毅前腳剛走-美宣布派特使出訪馬紹爾群島/a-62059338)。

 

(e)『中国瞭望』

「太平洋諸島が米中の新たな戦場となる 米国は共産主義との戦いに向けた新たな取り組みを発表」(2022年7月12日付)

(https://news.creaders.net/us/2022/07/12/2503746.html)。

 

(f)『中国瞭望』

「中国共産党による太平洋諸島への進出に対抗し、米国が大規模な構想を発表」

(2022年7月12日付)

(https://news.creaders.net/us/2022/07/12/2503954.html




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."