激減する中国のアフリカ向け融資
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・中国の経済が低迷し、「一帯一路」で投入している融資が激減している。
・アフリカ向け融資は過去20年近くで最低水準に落ち込んでいる
・5億米ドル(約750億円)を超える大規模融資は減少すると予想される。
今年(2023年)、新華社通信が主催する『参考消息』(9月29日号)の「中国大地」欄に、「北京が世界の思想首都になりつつある」という見出しが掲載(a)された。
その上に、小さく「海外メディアが『人類運命共同体白書』を熱く論じる」と書かれていた。「人類運命共同体白書」の正式名称は『「手を携えて人類運命共同体を構築する:中国のイニシアティブと行動」白書』(以下、『白書』)である。
早速、中国のネットユーザーからは「思想の自由すらない場所が思想の首都になれるのか」と揶揄されている。
『参考消息』はこれまで外国人の口を借りて、甚だしい場合には、わざわざネタをいったん輸出し、それを国内に輸入して中国を賛美してきた。中国人に「外国人がそう言っている」と誇りと喜びを感じさせようとしているが、中国ネットユーザーに嘲笑されている。
今度の場合、その主旨は、習近平主席が10年前に提唱し、今まさに開花し始めた「人類運命共同体」を称賛することにある。
今年9月、国務院情報弁公室が発表した『白書』には、人類運命共同体理念はブロック集団である「小集団」ルールを超え、実力至上の論理を超え、更には、一部の西側諸国が定義した普遍的価値観を超越している(b)さえ述べている。
9月26日、新華社は、中国は質の高い「一帯一路」の推進などで人類運命共同体の構築に貢献してきた(c)と報じた。
同日、王毅外相は『白書』の発表会で、次のように語った。「多国間外交は、中国がグローバル・ガバナンスに参加して人類運命共同体を推進する重要な基盤であり、首脳外交を展開する重要なプラットフォームである。習主席は多国間外交を重視し、グローバル・ガバナンスで中国の役割はますます大きくなっている。・・・(中略)・・・人類運命共同体を構築するためには、あらゆる形態の一国主義、陣営間対立、強権政治に反対しなければならない」(d)。
『参考消息』は『白書』が人類発展の方向性を示唆したので、外国メディアから熱いコメントと反響を呼んだ(a)と述べている。
そして、海外メディアとしてシンガポールの『ザ・ストレーツ・タイムズ』とロシアの『RIAノーボスチ通信』を引用した。
『参考消息』は9月27日付の記事で、ロシアのニュースサイトが「『白書』は、中国が経済とイデオロギーの領域で世界のリーダーになりつつあることを示す」と述べたことを引用した。
そして、「一帯一路」こそ、理想的な世界が創造した物質的な象徴となり、「北京は世界の思想首都となった」と自画自賛している。
しかし、一方、『ラジオ・フランス・アンテルナショナル(rfi)』は北京が「思想首都」として、一体どんな思想を産み出したのか、依然、はっきりしない(e)と鋭く指摘した。
最近、中国自身の経済が低迷し、中国が「一帯一路」で投入している融資が激減しているが、それでも北京が世界の思想首都となれるのだろうか。
現時点での「一帯一路」の状況を一瞥してみたい。
今年、習近平政権肝煎りの「一帯一路」が10周年を迎える中、北京によるアフリカ向け融資は過去20年近くで最低水準に落ち込んでいる(f)。
2021年と2022年の融資は「一帯一路」開始以来、初めて20億米ドル(約3000億円)を下回った。
その原因としては、①パンデミックの発生、②中国の景気後退、③習政権の「一帯一路」の政策転換、④アフリカ諸国の債務に関する懸念等が挙げられよう。
2000年から2022年の間に、中国共産党は「一帯一路」の主要パートナーのアフリカに約1700億米ドル(約25兆5000億円)の融資を提供した。しかし、2016年の280億米ドル(約4兆2000億円)超をピークに、アフリカ向け融資は過去2年間で激減している。2021年、中国の対アフリカ融資額は12億2000万米ドル(約1830億円)、2022年はわずか9件の融資で、その額は10億米ドル(約1500億円)に満たない。
近年の傾向として、北京から融資金額が激減しており、中国共産党の政策枠組みが変化している。そのため、今後、5億米ドル(約750億円)を超える大規模な融資は減少すると予想される。
〔注〕
(a)『自由時報』「北京が『世界の思想首都』に?中国ネット民:官製メディアの『高級ブラックユーモア』と皮肉」(2023年9月30日付)
(https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/4444468)
(b)「中華人民共和国国務院新聞弁公室」『「手を携えて人類運命共同体を構築する:中国のイニシアティブと行動」白書』(2023年9月)
(http://www.scio.gov.cn/gxzt/dtzt/49518/49519_32677/index.html)
(c)『新華社』「白書:人類運命共同体の構築、中国は擁護者であり活動家でもある」(2023年9月26日付)
(http://www.news.cn/2023-09/26/c_1129885594.htm)
(d)『新華社』「王毅:人類運命共同体を構築するためには、真の多国間主義を提唱し、実践しなければならない」(2023年9月26日付)
(http://www.news.cn/politics/leaders/2023-09/26/c_1129887022.htm)
(e)『rfi』「ビッグサプライズ:北京は世界の思想首都になりつつある」(2023年9月30日付)
(f)『万維ビデオ』「全財産を失い、ついに金も尽きてしまった」(2023年9月23日付)
(https://video.creaders.net/2023/09/23/2651228.html)
トップ写真:人民大会堂で開催された第2回一帯一路フォーラムで、エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領と会談する中国の習近平国家主席(2019年4月25日 中国・北京)出典:Photo by Andrea Verdelli/Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。