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.政治  投稿日:2022/7/27

やねだんに学ぶ地域再生…住民が公園づくり「高岡発ニッポン再興」その19


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・「やねだん」は“奇跡の村”。自治公民館長の呼びかけで、住民が自主的にで運動公園を造成。

・そのための除草作業で集落内の人々の結びつきが強まった。住民の健康増進にもつながった。「感動」が人を動かした。

・行政には頼らず、人が動く。それが地域再生の原動力になる。

 

「行政に頼るな」。それを教えてくれた私の師匠は、大隅半島の付け根にある鹿児島県鹿屋市にいます。鹿屋市の柳谷地区通称、「やねだん」の自治公民館長、豊重哲郎さんです。「地域再生の神様」とも言われ、年間5000人から6000人が視察しています。土地、水、太陽というどこにでもある地域資源に、自分たちの汗と労働を注ぎこんで、価値あるものをつくり出してきたのです。

▲写真 地域再生リーダー養成を目的にした”道場”「故郷創世塾」で講演する豊重哲郎さん。 出典:やねだんオフィシャルWEBサイト

豊重さんはとにかく「全員野球」にこだわります。顕著に表れるのが、公民館長就任2年目の1998年に完成した運動公園です。自治公民館の隣という、集落のいわば「表玄関」です。

ゲートボール場兼多目的コートや、卓球場兼休憩所、さらには、腹筋や腕立て伏せなどができる高齢者向け遊具などがそろっています。この運動公園は、高齢者から、乳幼児、青少年まで集って、声を掛けあう集落の憩いの場となっています。心も体もわくわくする公園という意味で、豊重さんは「わくわく運動遊園」と名付けました。

▲写真 住民が自主的に造成したわくわく運動遊園 出典:やねだんオフィシャルWEBサイト

ここは、もともとでんぷん工場の跡地でした。2メートル以上の雑草が生い茂り、集落の景観を壊していたのです。

豊重さんは自治公民館長就任にあたり、この跡地を運動公園に整備したいと考えました。それには、まずは雑草の刈り取りから始めなければならない。

「みんなで集う場は、みんなでつくろうということなりました」。

豊重さんの呼びかけに、有志が反応したのです。休日のたびに、生い茂った草の刈り取りを行ったのです。その姿は、ほかの住民にも伝播しました。

この除草作業で集落内の人々の結びつきが強まったのです。普段あまり言葉を交わさない人同志が汗を流し、除草していると、自然に心が打ち解けたのです。集落全体300人が家族になる第一歩なのです。ボランティアの輪がどんどん広がりました。

遊具を作るためには木材も必要です。豊重さんが資材の提供を呼びかけたところ、集落の一人は「うちの山の杉の丸太、どうぞ」と応えたのです。木材の切り出しや土地の造成、建物の建設などを担ったのは、ほぼすべて集落の人々です。集落に住む大工や左官、造園の経験者らが汗を流したのです。

業者に発注したのは、電気工事だけです。ノコギリや金づちなどはホームセンターで自主財源で購入しました。労働する体力のない高齢者はお金を出しました。結局、費用は8万円でした。

「感動して涙が出た。そして『やねだん』は大きく前進していけると実感した。感動があれば、人が動く。それが地域再生の原動力になる。補助金に頼らず、一人一人の小さな力を結集して取り組んだ大きな村おこしだった」と豊重さんは語ります。就任2年で起こした絆再生の一大プロジェクトでした。

私はこれこそがその後の『やねだん』を決定づけたと考えています。住民らがみんなで力を合わせて運動公園を作る尊さを実感したのです。それが「奇跡の村」の第一歩だったのです。

鹿屋市役所によれば、こうした運動公園は、300万から500万円の経費がかかるという。通常なら、集落が市役所にお願いして、建設するが、『やねだん』では、それを自分たちでつくったのです。さらに、運動公園は「副産物」を生み出しました。

▲写真 わくわく運動遊園の健康器具で健康増進に励む住民 出典:やねだんオフィシャルWEBサイト

住民の健康増進です。高齢者がこの公園の運動器具で体を動かした結果、病院へ行く回数が大幅に減ったのです。鹿屋保健所の調査によれば、『やねだん』の75歳以上の人の医療費は、市平均より35万円安い44万円。また介護給付金も40万円安い96万円。全体で医療費や介護給付費は4000万円ほど安くなったといいます。

豊重さんは、胸を張ります。「高齢者が元気な地域は医療費も安い。これが延長して国づくりに繋がっていくようになればいい」

土に触れ、お互いを助け合い、辛いことがあってもみんなで明るく生活する。それが、いい影響を及ぼしているという。

▲写真 集落の自主財源確保のため、休遊地を借用して「カライモ(さつまいも)」の生産活動も行っている。 出典:やねだんオフィシャルWEBサイト

翻って高岡です。私には、豊重さんと山崎さんがダブって見えます。行政に頼らず、住民が動く。高岡が大きく変化するきっかけになるかもしれません。

トップ写真:第31回やねだん故郷創世塾(2022年05月14日~16日) 出典:やねだんオフィシャルWEBサイト




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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