空き校舎とオガール流公民連 「高岡発ニッポン再興」その20
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・高岡市では空き校舎問題の解決がなかなか進んでいない。
・岩手県紫波町では同様に空き校舎問題に直面し、オガールプロジェクトで培った公民連携の精神を基に、地域や市民を含めた民間事業者による利活用を軸とした基本方針を作った。
・高岡市でも空き校舎問題に対して、住民の意見を聞きながら市場のニーズを探り基本方針を作るべきだろう。
高岡市で一向に進まない空き校舎問題ですが、私は今後6年に10の空き校舎ができるのですから、グランドデザイン、つまり基本方針をつくるべきだと考えています。一つ一つの学校が場当たり的に利活用されるのではなく、高岡市全体の地図を眺め、俯瞰して考えるべきなのです。住宅街の小学校と海沿いの小学校。それぞれの地域によって、空き校舎の利活用の仕方が違って当然だと思います。住民の意見を聞きながら市場のニーズを探る必要があります。その際、参考になる自治体があります。岩手県紫波町(しわちょう)です。私は以前取材に行きましたが、盛岡市から電車で20分ほどの町です。
紫波町と言えば、公民連携の公共施設として有名な「オガールプロジェクト」を実現したところとして有名です。オガールプロジェクトというのは、「稼ぐインフラ」と呼ばれ、全国から注目されています。町が持っている駅前の広大な土地に、民間事業者が投資、運営。年間100万人もの人が訪れる地域に生まれ変わったのです。その紫波町には、公民連携の精神が脈々と流れています。(編集部注1)
この紫波町でも、御多分に漏れず児童数がピーク時に比べ6割程度減少。学校統合再編に直面しました。令和3年3月末に2校、令和4年3月末に5校と、合計7校空き校舎になることが決まりました。総面積は10.4ヘクタールです。
7つの広大な建物や土地が2年間で空くのです。オガールに匹敵する面積です。紫波町ではそれに向けて、新たな部署を立ち上げました。資産経営課です。空き校舎が発生する1年前の令和2年4月のタイミングでした。資産経営課では、それぞれの空き校舎について場当たり的な対応ではなく、基本方針をつくることにしました。そして、1年かけてまとめたのが「紫波町学校跡地活用基本方針」です。
その基本方針の最大のポイントは、オガールで培った公民連携の精神が盛り込まれている点です。民間事業者から空き校舎等の利活用に関して意見を求め、市場調査したのです。民間事業者のニーズを把握するためです。募集をかけても、応募してくれないと『絵に描いた餅』になると考えたのです。
さらに、住民説明会を実施し、要望を聞き取りました。「避難場所としての機能を維持してほしい」「維持費を捻出するため、地元の利⽤のみだけではなく、⺠間企業と⼀緒に利⽤できたら良い」「高齢者が集まる場にしてほしい」など 様々な意見が出ました。
策定された基本方針では、地域や市民を含めた民間事業者による利活用を基本としました。もちろん公民館や避難場所といった公共目的に使われるケースもありますが、人口そのものが減少していることもあり、民間を軸に考えました。
その上で、利活用の際には、2つの基本コンセプトを掲げました。「産業の振興」と「人材の育成」です。地域資源を活かし持続する産業と雇用を創り出し、未来を担う人材を育てる場にしようというのです。
具体的なイメージも基本方針に盛られています。例えば、「公教育以外の多様な教育の場」。公教育では指導することが難しい、社会に必要とされるスキルの獲得を目的とした教育の場だというのです。「町の特性を生かした農業」という点では、グリーンツーリズムなど新たな農業振興を担う人材育成の場にしようというのです。
紫波町では、この基本方針を策定した後、それぞれの地区にあった実施方針をもつくります。「実施方針は、民間の市場性を踏まえてつくられており、実施方針ができれば、応募につながる」(資産経営課)といいます。
写真)長岡小学校のグラウンド
筆者提供)
長岡小学校の空き校舎の実施方針では、地⽅創⽣の現場で実践を通して学ぶ場を打ち出しました。その学校のコンセプトは「農と⾷」。応募したのは、オガールを運営する株式会社「オガール」です。大阪市の吉本興業ホールディングスをパートナーとして学びの場をつくることになったのです。地域再生に必要な人材の育成を目指す「吉本・オガール地方創生アカデミー」です。通信制の高校生が実践を通して学べる場にしたのです。来年開校予定です。その後、もう一つの小学校の空き校舎で実施方針の素案がつくられていますが、ほかの空き校舎は、これからです。
また、実施方針策定に向けてお試しも実施しています。「トライアルサウンディング(お試し活用調査)」です。令和4年4月に応募のあったバスケットボールのスクールを1カ月間実施したのです。
さて高岡市です。私はこれからの市役所の役割として、市場に向き合うことが極めて大事だと思っています。その結果、今後6年で、ワクワクするような空き校舎が10も生まれるのです。高岡が変わるチャンスになるかもしれません。
編集部注1)オガールとは
「オガール」は、成長するという意味の紫波方言「おがる」と、フランス語の駅「Gare(ガール)」との造語。
トップ写真:旧長岡小学校校舎(2022年,岩手県紫波町)
出典:出町譲
あわせて読みたい
この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。