台湾巡り米中チキンゲーム始まる
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#30」
2022年8月1-7日
【まとめ】
・ペローシ米下院議長訪台めぐり、米中政権が対応に苦慮。「進むも地獄、退くも地獄」。
・訪台実現なら、習近平氏は何らかの強硬策へ。訪台断念なら米議会対中強硬派は猛反発し、バイデン政権に批判集中へ。
・中国は「軍事的対抗措置」の可能性を示唆。米強硬派も「やれるものならやってみろ」と。米中のチキンゲームが始まった。
今週は月曜から一年振りで秋田県に来ている。山間の湖畔にある「隠れ家」のような旅荘で朝湯を満喫した後、この原稿を書いている。東京は本日最高気温37度の予想とか、今年の暑さは異常なのだろうか。しかし、これよりホットなのが台湾をめぐる米中の軋轢だ。朝のニュースは「今晩にも下院議長訪台か」などと報じていた。
昨日が締切の産経新聞コラムの原稿で筆者はこう書いた。「バイデン政権も対応に苦慮している筈だ。・・・ペローシ議長が訪台する可能性は高いと思うが、仮に実現すれば、習近平氏は何らかの強硬策を取らざるを得ないだろう。逆に、もしペローシ氏が断念すれば、米議会の対中強硬派は猛反発し、バイデン氏に批判が集中する。」
▲写真 バイデン米大統領(2022年8月1日 米・ホワイトハウス) 出典:Photo by Jim Watson-Pool/Getty Images
バイデン大統領は「米軍は(下院議長の訪台が)良い案だとは思っていない」と公言した。大統領職継承順位が副大統領に次ぐ「下院議長」の公式外遊には米軍機が使用されるからだろう。だが、三権分立の下で行政府が立法府の動きを止めることはできない。連邦議員の多くもペローシ訪台を支持しているようだ。
米中にとってはいずれも「進むも地獄、退くも地獄」である。今年の共産党大会は三期目を目指す習氏にとって正念場だから、このタイミングでの米国要人訪台強行で中国は米国に「喧嘩を売られた」と思うのではないか。されば、習氏にとって安易な妥協は国内政治的にも極めて難しいのだろう。
▲写真 中国・習近平国家主席(2022年4月8日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images
中国は「軍事的対抗措置」の可能性を示唆しているようだが、米国の強硬派も黙ってはいない。「やれるものならやってみろ」「万一、米軍との軍事衝突にでもなれば、逆に米軍を不必要に挑発した習近平氏が『危険な冒険主義者』と批判されかねない」と考える。どうやら米中チキンゲームが始まったようだ。来週はこの顛末を書こう。
〇アジア
ウクライナや台湾の陰で、ミャンマー国軍が着実に権力基盤を固めている。クーデターに伴う非常事態宣言を来年2月1日まで6カ月延長するそうだ。先週はNLD(国民民主連盟)元議員ら4人の死刑を執行したばかり。日本人ジャーナリスト逮捕との報道もあった。残念だが、これがミャンマーの現実なのだろう。
〇欧州・ロシア
英紙が、2013年にチャールズ皇太子が自己の慈善基金への寄付金100万ポンドをオサマ・ビンラーディン容疑者の異母兄2人から受け取ったと報じた。基金関係者の一部の反対にもかかわらず、皇太子は受け取ったというが、一体何が問題なのか。感情的には問題が残っても、ビンラーディン一族全員が犯罪者という訳ではなかろう。
〇中東
ベイルートの港湾地区で2年前の大規模爆発で損傷した穀物用サイロの一部が火災で炎上し倒壊したという。原因は夏の気温上昇に伴い、サイロに残っていた穀物が発酵したことだそうだが、問題は2年間、損傷したサイロが放置されたことではないのか。中東のパリと言われたレバノン・ベイルートは完全に終わったようだ。
〇南北アメリカ
バイデン大統領が再びコロナで陽性になった。体調は良いというが、年齢が年齢だけに何が起きるか分からないと思っていた方が良い。されば、今年の中間選挙は勿論、2024年の大統領選挙のことは予測しても意味がないだろう。バイデン、トランプともに「出馬断念」という可能性だって十分あるのだから。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:ナンシー・ペローシ米下院議長(2016年09月07日) 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。