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.国際  投稿日:2022/8/5

インドネシアと米の軍事演習、中国意識


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・インドネシア軍と米軍の共同軍事演習が行われ、今年は参加国が14か国まで拡大された。

・本演習は中国を仮想的としており、地域の安全保障体制を強化する目的だとの見方もある。

・中国が台湾に圧力をかけた時期と重なり、結果的に参加国が中国への警戒心を強めることとなった。

 

インドネシア軍と米軍による恒例の共同軍事演習が8月1日から14日までの日程でインドネシア国内各地で実施されている。今年は日本の自衛隊やオーストラリア軍も参加し、これまでは陸軍主体の実動演習だったが、今年は陸海空による演習となるなど規模を拡大して実施されている。

さらに今年は多くの国がオブザーバーとして参加するなど地域の安全保障体制を強化する目的となっている。

この背景には中国があり、演習は「純粋な軍事演習であり、どの国も脅威と捉えるべきものではない」と米側軍司令官のスティーブン・スミス少将は7月29日の記者会見で語り「特定の国を仮想敵として想定したものではない」ことを強調した。

しかしそれはあくまで表向きの姿勢で実際には中国を強く意識した軍事演習となっている。

その象徴はインドネシア・カリマンタン島の西方海上にあるインドネシア領ナツナ諸島周辺が今年の演習で訓練海域に含まれたことがある。

中国は南シナ海の大半を自国の海洋権益が及ぶ範囲「九段線」であると一方的に宣言している。

■ナツナ諸島北方海域で中国持論展開

この結果、南シナ海にある島嶼や環礁の領有を巡って中国とフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾との間で領有権を巡る対立が起きているのだ。

インドネシアは直接中国との間で領有権問題はないものの、ナツナ諸島北方に広がるインドネシアの排他的経済水域(EEZ)が「九段線」と重複するとして中国は「インドネシアと二国間で協議して解決の道を探りたい」としているが、インドネシア側は「当該海域で中国と協議する問題は存在しない」(ルトノ・マルスディ外相)と断固とした姿勢で中国の提案を拒否しているという経緯がある。

インドネシアは石油探査などの調査をナツナ諸島周辺海域で実施していたが、2016年と2020年には中国船舶がEEZ周辺を航行、駐留して中国は抗議の姿勢をみせるなど緊張状態を作りだしていた。

インドネシアではナツナ諸島周辺海域でこうした中国の活動が活発になると同時に一方的な主張を強めたことなどの動きを受けてインドネシア政府はナツナ諸島の軍備を増強して海軍艦艇や空軍の戦闘機などを追加配備して緊急事態に備えているほか、沿岸警備隊も装備、隊員を増強している。

今回の演習はこのナツナ諸島周辺海域で実施されていることから中国に対する「妥協もしないし譲ることもない」とする強いメッセージをインドネシアのみならず参加国が共有し、対外発信するとの思惑があるのは間違いない。

インドネシア専門のアナリストは「ナツナ諸島周辺の海域での海軍による演習は参加国にこの海域の事情を理解するのに役立つだろう」との見方を示している。

■14カ国が参加やオブザーバーに

今回の演習は毎年の恒例演習である「ガルーダ・シールド」から「スーパー・ガルーダ・シールド2022」と新たな命名で実施され、参加国はオブザーバーを含め14カ国となった。

米・インドネシア軍に加えて日本、シンガポール、オーストラリアがパートナーという資格で部隊を派遣して演習に参加するほか、カナダ、フランス、インド、マレーシア、韓国、パプアニューギニア、東ティモール、英国、ニュージーランドがオブザーバーとして要員を派遣している。

演習はスマトラ島のランプン州とナツナ諸島が含まれるリアウ諸島州、東カリマンタン州などで行われインドネシア軍2000人に米兵士2000人などが参加している。

東カリマンタン州が演習地域に選ばれたのはインドネシア政府が進める首都移転先が東カリマンタン州の内陸で2045年の完工を目指していることから、「新首都の防衛」との狙いが込められているという。

今回の演習は、米下院のナンシー・ペロシ議長が台湾を訪問し、反対してきた中国が台湾周辺海域で大規模な軍事演習を実施して台湾に圧力をかけるというタイミングと結果的に重なった

中国空軍の戦闘機が台湾海峡の中国と台湾の中間線を越えて侵入するなどの挑発が続いたことも重なり、「スーパー・ガルーダ・シールド」の演習に参加した各国にも、中国の一方的に緊張を高める動きに対し、改めて警戒感を強める結果となっている

トップ写真:米海兵隊と共同軍事演習を行うインドネシア海軍特殊部隊インドネシア・スラバヤ(2015年1月1日) 出典:Photo by Smith Collection/Gado/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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