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.社会  投稿日:2022/8/23

スウェーデンから学ぶ性教育の在り方


Japan In-depth編集部(横塚愛美・黒沼瑠子

 

【まとめ】

・「#なんでないのプロジェクト」共同代表である福田和子さんにインタビューした。

・スウェーデンにはユースクリニックが250箇所もあり、若者が自分の悩みを相談しやすい環境が整っている。基盤となっているのはサルトジェニック・アプローチである。

・日本を全ての人がSRHR(性と生殖に関する健康と権利)を享受できる社会にするために、避妊方法の拡充やユースクリニックの設立などが必要。

 

「性」に関する問題意識をテーマとした「性をもっとオープンに」プロジェクトの第二弾。

今回は「#なんでないのプロジェクト」代表として、日本の性と健康をめぐる環境改善を目指す福田和子さんにインタビューを行い、プロジェクトの活動内容や日本の性の現状についてお話を伺った。

写真)「#なんでないのプロジェクト」共同代表の福田和子さん

出典)「#なんでないのプロジェクト」HPより

「#なんでないのプロジェクト」について

 福田さんは交換留学生としてスウェーデンに留学した際、避妊インプラントや避妊リングなど様々な種類の避妊方法があることを知り、衝撃を受けたという。日本ではコンドームや低用量ピル以外ほとんど認知されていないが、スウェーデンは「当たり前の権利」として女性には多くの避妊の選択肢が与えられている。

 これらが日本には「なんでないの」という気持ちからプロジェクトを立ち上げ、日本で使える避妊方法の拡充など、全ての人がSRHR(性と生殖に関する健康と権利)を享受できる社会を創るために活動を続けている。

 また、福田さんは「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の共同代表でもある。現在、日本では10代を中心に若年層の妊娠相談が急増している。それを背景に2020年6月に立ち上がったプロジェクトであり、全ての女性が健康を守るために安心して、適切かつ安全に、緊急避妊薬(通称:アフターピル)を購入できる社会の実現を目指している。

この緊急避妊薬とは、避妊に失敗した性交渉後に妊娠を回避するために服薬する薬の事を指し、現在手に入れるためには医療機関で発行される処方箋が必要である。

 性に関する問題解決や彼女の活動を知る上でのキーワードとなるのが、前述したSRHRという言葉と、「ウェルビーイング」という言葉である。SRHRというのはセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの頭文字を取ったもので、誰もが年齢や性別に左右されず、自分の体のことを自分自身で自由に決めることができる権利を意味する。女性に関していえば、妊娠・出産に限らず生理や避妊など、女性の体に関するあらゆる悩みや問題に共通する大切な認識だ。

 また、「ウェルビーイング」というのは幸福で身体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態をいう。ただ「身体に病気がないこと」を目指すのではなく、それを超えた状態を目指すという考え方だ。

 

スウェーデンの包括的な性教育

このような活動をしている福田さんに、その原点となったスウェーデンでの経験を伺った。

第一弾で、若者が気軽に性の悩みを相談できる場所として取り上げた「ユースクリニック」が、スウェーデンにはなんと250箇所もあるという。

13才〜24才の若者が利用でき、学校単位で見学に行くような、誰にとっても非常に身近な場所として根付いている。そして「ユースクリニック」と呼ばれるには厳密な基準があり、医師だけでなくカウンセラーや助産師の人がいることではじめて、ユースクリニックとして認められるという。

「SRHRを支えるためには医学だけではダメで、社会的、精神的な面も必要だ」と福田さんは語る。摂食障害、いじめ、友達・家族関係など、性関連以外の困りごとがある時も、スウェーデンの若者はユースクリニックを利用するそうだ。

 そして、『スウェーデンのユースクリニックで一番大事にされているのは「こどもの権利条約」「サルトジェニック・アプローチ」だ』と福田さんは語る。このサルトジェニック・アプロ―チというのは、従来の医学が取ってきた、病気の原因となるもの(=リスクファクター(喫煙、飲酒、肥満など))を解明し取り除くという考え方とは逆に、健康になるための要因(=サリュタリーファクター(適度な運動、良好な人間関係など))を解明し、それを強化するという立場である。

 福田さんは「目指すべき健康というのは、その子のウェルビーイングであり、SRHRの定義でいえば「社会的にも気持ち的にも満たされていることだ」と言い、包括的な性教育でSRHRを守る社会にするためにも、この指針を守るべきだと語った。

 

避妊方法の認知度を高めるには

  現在は日本でも緊急避妊薬をLINEで購入できるようになったが、他の避妊薬に対する認知度はまだ低い状態にある。自分たちの選択肢を狭めないためにも、まずは避妊方法の認知が広まっていくことが必要だ。

 福田さんが参加しているプロジェクトの一つに、避妊が学べるキットの開発というものがある。『ポケット避妊教室』と名づけられたキットには日本で認可されている避妊具や低用量ピルの他に、妊娠検査薬や潤滑ゼリーの実物や原寸大の写真がはいっており、避妊だけでなく性の健康について考えられるものになっている。

 また中身には実物だけでなく、それぞれの使い方や注意点、性的同意の取り方や暴力を受けた時の対応などについて書いたカードがついている。

写真)『ポケット避妊教室』

出典)『ポケット避妊教室』って? 避妊は自分の体を守るもの

『ポケット避妊教室』は学校の保健室や薬局に無料配布され、緑のパッケージにすることで性自認関係なく気になった人が手に取りやすいように、また避妊だけでなくSRHRについても考えられるように工夫されている。

「イギリスで使われている「避妊キット」を取り寄せたが、日本で認可されていない避妊方法が多いため、実際にキットに入れるものは少なくなってしまった。」と福田さんは語る。「とはいえ、言葉で知っているのと実物を見るのは大きな差がある、実物を見ることで選択肢の一つとしてリアルに捉えてもらえれば。」 (参考:『ポケット避妊教室』って? 避妊は自分の体を守るもの

 

男性のケア

 ここまで主に女性の権利や性教育について扱っていたが、もちろん男性のSRHRについても考える必要がある。世界的にみても男性は「小さいことで悩んではいけない」「強くなければいけない」と「男らしさ」を求められる傾向があり、この固定観念で悩んでいる人も多い。

実際スウェーデンでも、ユースクリニックに来るのは7割が女性で、男性は行きづらいそうだ。そこで、予算のあるクリニックでは男性専用の部屋を用意したり、女性と時間帯を分けて対応したりと配慮を行っているところもある。

 福田さんによると、公衆衛生的に見ると、自殺率は男性の方が多いのだという。これは女性が比較的周りに助けを求められるのに対して、男性がジェンダー規範の中で最後まで悩みを打ち明けられないことを示しているのではないだろうか。

 ちなみにスウェーデンの男性はルッキズム的な「鍛えなければならない」という意識が強く、思うように体づくりができずに悩んでいる男性がクリニックに相談に来るのだという。

 いずれの身体的性別においても、またどの国においても「こうあるべきだ」という規範が存在してしまい、それに縛られて悩む人々は多いだろう。全ての人間が自認した性別に満足して生きられるようになるには、「こうあるべきだ」という固定観念の払拭一人で抱え込まないで相談できる場所の設立が必要である。

 

トップ写真:スウェーデンの若者たちの様子

出典:Photo by Martin von Krogh/Getty Images




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