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.社会  投稿日:2022/12/14

東京版ユースクリニック『わかさぽ』の取り組み


Japan In-depth編集部油井彩姫横塚愛実

【まとめ】

・東京都渋谷区で、日本版ユースクリニックの先駆けである「わかさぽ」が開設。ピルコン主催で生理のワークショップが行われた。

・ワークショップの最後には小池都知事と学生の意見交換会も。

・若者が気軽に相談できる場所の拡充に向け、都では本格的な取り組みが始まっている。

 

性に関する問題意識をテーマとした「性をもっとオープンに」プロジェクトの第三弾。(第一弾第二弾はこちら)

今回は、東京都渋谷区で試験的に開催されているユースクリニック「とうきょう若者ヘルスサポート」、通称「わかさぽ」に取材を行った。

第二弾で紹介した通り、ユースクリニックというのは10~20代前半の若者の悩み相談を担っている場所である。医師だけでなく、カウンセラーや助産師が常駐しているというのも特徴の一つだ。

ユースクリニックはスウェーデン発祥の取り組みで、若者は性や身体のこと、人間関係や性自認など幅広い悩みを専門家に気軽に相談することができる。スウェーデン国内にはすでに250箇所以上のユースクリニックが存在しており、カップルや友達同士で気軽に訪れることができる場所だという。

そんなユースクリニックだが、日本ではまだあまり認知されていない。全ての人がSRHR(性と生殖に関する健康と権利)を享受できる社会にするために、若者が気軽に相談できる場所を確立し、それを当たり前にしていくことが必要なのではないか。

今回はユースクリニックが東京都で開催されると聞き、実際の様子を取材することにした。

12月14日、東京都渋谷区の勤労福祉会館で若者向けに開催されたユースクリニックを訪れた。性や身体に関する悩みがない人でも、クリニック内に展示されている本や様々なグッズを見て性について学ぶことができる。またお菓子や飲み物も用意されていて、気軽に訪れることができるように工夫がなされていた。

18時からは、性に関する正しい知識を広めているNPO法人「ピルコン」主催で、生理に関するワークショップ「Period Talk! もっと知ろう、生理のこと」が開催された。 

ピルコンは、「人生をデザインするために性を学ぼう」をコンセプトに、科学的に正確な性の知識と人権尊重に基づく情報発信により、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指す非営利団体。様々な団体と協力・連携しながら、ユースボランティア「フェロー」と共に、講演や教材の製作など性の健康に関する啓発や政策提言の活動をしている。(公式サイトより)

▲画像 ピルコンが主催するワークショップの様子 ©Japan In-depth編集部

ワークショップでは、学生と歳の近いスタッフが、自身の生理や産婦人科での経験を交え、動画や実際の商品を用いた説明を行っていた。

一人ひとりに合った生理用品の種類があること、産婦人科に行くことを恐れる人が多いが心配事がある時には安心させてくれる場になりうることなど、若者の悩みに寄り添った内容であった。

そしてワークショップの後半には小池百合子都知事による視察が行われ、学生との意見交換の時間も設けられた。参加者には、地域の新聞を書く高校生や、性教育に関する学生団体等が見られた。

小池都知事は「きちんと相談の受け皿を作ることが必要だと思っている。若者には人生の大切な一ページを後悔しないようにしてほしい」と学生に話した。

その後の取材では小池都知事は、月経カップを初めて知ったと驚きを示し、「一人で悩んでいても解決しないときには、思い切って相談しに来てほしい」と若者に向けてメッセージを送った。

▲画像 高校生らと意見を交換する小池都知事 ©Japan In-depth編集部

次に、「わかさぽ」を実際に運営している都の職員に話を聞いた。ユースクリニック設立に至った経緯について尋ねると、「思春期で身体や心の変化に悩む若者に、安心して相談できる場所を提供しなくてはいけないという問題意識がある」と語った。

都ではユースクリニックを浸透させるためにも周知活動に力を入れており、教育庁と連携して都内の中学校・高校に「わかさぽ」の内容を告知するカードを配っているのだという。今後このような相談場所が当たり前になっていくことを目指している。

最後に、今回の企画の発案者、龍円あいり氏のお話を聞いた。龍円氏は、東京都議会議員。テレビ局のアナウンサー・報道記者の経歴を持ち、ダウン症の息子を育てるシングルマザーとしての顔もある。龍円氏は、「すべての人が大切な仲間の一員として自分らしく輝きながら参加する“インクルーシブな社会”の実現」を掲げて活動している。

▲画像 「わかさぽ」の看板の前で笑顔を見せる龍円あいり氏 ©Japan In-depth編集部

まずは、「わかさぽ」の発案に至った経緯を聞いた。「私は、ユースクリニック発祥の地であるスウェーデン出身。20歳の時久々に訪れた際、幼馴染から『何でも相談できる、緊急避妊薬ももらえる』ユースクリニックの話を聞き、衝撃だった」

子育てする身になり、次の世代が幸せに生きることを考え始めた龍円氏。性とポジティブに向き合うこと、自分を大切にすることを伝えたい、と思ったという。

「しかし、日本は性産業が盛んで、AVが世界一のシェアだったり。ポジティブでない、いかがわしい、隠さなきゃいけない、という性のイメージが沁みついている」

学校教育を変えようと思ったが、ハードルが高い。その時にユースクリニックを思い出したという。

「去年都知事にプレゼンをする機会をいただくと、知事は理解を示しすぐに動いてくれた。今年このような形で実現して、来年本格実施する」

日本におけるユースクリニックの課題として、「知られてない」ことを挙げる龍円氏。「存在をまず知ってもらう。若い世代にSNSで拡散してもらえる工夫が必要。拡散お願いします」と呼びかけた。

今回「わかさぽ」の取材を行い、日本でも本格的にユースクリニックの導入が進み始めたことを実感した。学校での性教育が遅れていることや人々に植え付けられた常識の解消など、様々な課題は残っているが、気軽に相談できる場所が身近になることで、一人で悩む若者が少しずつ減っていくだろう。

トップ画像:囲み取材に応じる小池百合子都知事 ©Japan In-depth編集部




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