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.国際  投稿日:2022/8/25

中国で地方政府同士のバトル勃発


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・上海の観光客が、コロナでロックダウンした海南省三亜市に足止めされたことで、上海メディアは、帰国航空運賃の高騰などを非難。

・海南省のメディアはその非難に応酬。また、海南省は江蘇省に対し、立ち往生した観光客の受け入れを拒否し続ける江蘇省を非難。

・これらのトラブルは、中国共産党内の長年にわたる省市間対立を反映している証しとの見方も。

 

今年(2022年)夏、中国で地方政府官製メディア同士のバトルが起きた。実際は、地方政府同士のバトルと言っても差し支えないだろう。共産党統治下では、極めて珍しい。基本的に、海南省と上海市の戦いだが、今回は江蘇省も絡んでいる。

8月に入ると、これまでコロナとほぼ無関係だった海南省で陽性者が現れた。まもなく同省三亜市でコロナが流行し、同4日、同市はいくつかの場所で閉鎖措置を講じ始めた(a)。5日には、免税店など多くの場所が閉鎖されている。翌6日から、三亜市は、公共交通機関の運休を含め、事実上、ロックダウンした(b)。

さて、上海市の官製メディア『澎湃新聞』が、まず、海南省を非難(c)した。これがバトルの始まりである。同新聞は、三亜市のホテル経営者による悪質な値上げ(具体的には、1泊1万元<約20万円>、1食7000元<約14万円>等)、帰国便の高騰、宿泊環境の不備など、現地の問題点を厳しく指摘している。

その『澎湃新聞』の報道に対し、8月8日、海南省の官製メディア『海南日報』が、上海市に対して反駁する記事を掲載した。

 「あなた方は三亜市に一体何の恨みがあって、全力で否定的な論陣を張っているのですか」と反論している。また「あなた方の都市(上海市)でコロナが流行して以来、あなた方は三亜市へ次々とやって来ました。私たちはあなた方にちゃんと“おもてなし”をしていませんか」とも主張した。

更に「海南省の自由貿易港建設によって、あなた方(上海市)の地位、未来、ビジネス等が奪われたのでしょうか」、「それとも、今年上半期の海南のGDP成長率が10%を超えたことで、(上海市の)皆さんの肩身が狭いのでしょうか」と述べた。

写真)保護マスクを着用して上海駅の待合室にチェックインする人々(2022年7月11日、中国上海

出典)Photo by Hugo Hu/Getty Images

中国メディアはほとんど官製で、地方政府官製メディアの衝突は“まれ”である。そのため、ネット上で耳目を集めた(ちなみに、多くのネットユーザーは『海南日報』を支持)。

ただ、海南島に取り残された多数の観光客は、チャーター便の不足や県市町村の調整問題で、帰省に際し困難な状況が続いたのである。

一方、8日14日、海南省政府は上海市の隣、江蘇省政府に「航空機離発着の緊急調整に関する書簡」という文書を送付した(d)。それが、翌15日、ネット上に流出している。

その書簡は、海南省が江蘇省に対し、もし立ち往生した観光客の受け入れを拒否し続けるなら、中央政府(国務院)に報告するという内容だった。

海南省は、江蘇省の一部都市が三亜市の旅行客を受け入れようとしないため、海口空港に多くの乗客が殺到し、飛行機が離陸できなくなったと主張している。そして、「貴省(江蘇省)に対し、緊急に関連都市とチャーター便の調整を行い、その結果を本省(海南省)に回答するよう要請する」と明言した。

また、文書は国務院が以前、命令した《海南省に足止めされた旅行客の適切な帰路業務に関する通知》―各省は海南省と協力して、帰路標準に合致する旅行客を受け入れなければならない、チャーター便の回数と旅行客の数量を制限してはならない、旅行客の順調な帰路を確保する等―を引用している。

その後、『鳳凰衛視』が江蘇省政府に電話したところ、当直員は海南省から同書簡が届いたのを確認した(e)。けれども、江蘇省は、「一時的にフライトの回数が増えたので、人員が足りず離陸できなかった。現在、それに対処しているところだ」という。

一見、以上2つの事件は偶然のように見えるかもしれないが、中国共産党内の長年にわたる省市間対立を反映している証し(f)だという。

上海市は中央政府直轄市であり、経済一級都市であり、国際金融センターとみなされている。そのため、多くの地方や都市が羨む、利点と華やかさを備える。

しかし、今回、上海市がロックダウンされ、経済が低迷し、自由貿易区としての地位が脅かされた。そして、多くの上海市民がコロナとロックダウンを恐れて海南省へ逃げ込んだ。だが、そこからすぐに帰れなくなったのは“皮肉”以外、何物でもないだろう。

〔注〕

(a)『VOA』

三亜市、新型コロナでロックダウンを実施、公共交通機関も運休」

(2022年8月6日付)

(https://www.voachinese.com/amp/chinese-tourist-hot-spot-imposes-covid-lockdown-shuts-public-transport-20220806/6689478.html)。

(b)『澎湃新聞』

「魚屋の陽性確認から8万人の観光客の立ち往生、三亜市で何が起きたのか?」

(2022年8月8日付)

(https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_19356763)。

(c)台湾『ETtoday』

「大陸メディア内戦! 海南日報が『三亜ロックダウン騒動を報道されて不満』早朝、上海澎湃新聞に開戦」

(2022年8月8日付)

(https://www.ettoday.net/news/20220808/2311869.htm)。

(d)『FRA』

「15万人以上の観光客がコロナ統制のため海南で立ち往生 海南省は江蘇省政府に『助け』を求める書簡を送る」

(2022年8月15日付)

(https://www.rfa.org/cantonese/news/help-08152022035031.html)。

(e)『鳳凰網』

「海南省が江蘇省に対し、航空便をチャーターし、立ち往生している滞在客を受け入れて欲しいという手紙を送る 江蘇省の回答」

(2022年8月15日付)

(https://i.ifeng.com/c/8IUhicxDYqn)。

(f)『中国瞭望』

「海南省が江蘇省・上海市と直接対決!第20回党大会前に矛盾が大暴露」

(2022年8月21日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/08/21/2517365.html)。

 

トップ写真:COVID-19テストのために並ぶ人たち(2022年7月10日、中国・上海)

出典:Photo by Hugo Hu/Getty Images

 

 




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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