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.国際  投稿日:2022/12/2

中国「白紙革命」の行方


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・彭載舟が10月30日「PCR検査は不要、習近平を罷免せよ」等のスローガンを掲げ、「北京四通橋横断幕事件」を起こした。

・習近平政権のロックダウンやPCR検査に対し、学生達は白紙を掲げて抗議の意志を示した。

・習近平政権が「第2次天安門事件」を起こせば、米国を中心とする世界が中国に対する制裁が更に厳しくなるのではないか。

 

周知の如く、今年(2022年)10月13日、突如、彭載舟による「北京四通橋横断幕事件」が起きている。中国共産党第20回全国代表大会開催3日前だった。

彭載舟の掲げた内容こそ、たぶん“民意”を代表していたのではないだろうか。結局、第20回党大会では、習近平主席の「第3期目続投」が決定し、“民意”とは逆の結果となった。

彭載舟は裁判にかけられ、死刑になると思われた。けれども、裁判所で審議する際、判事・検事らが、彭の罪状として彼が「国賊、習近平を罷免せよ」と抗議したなどと言えるはずがない。そのためか、彭載舟は精神病院送りになる可能性が高い(a)という。

これで「北京四通橋横断幕事件」は一件落着、そして、事件は“風化”するかと思われた。しかし、同事件はSNSで拡散されていたのである。

さて、11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市の高層マンション15階から出火した。火は17階まで昇り、煙は21階まで上がった。

消防車がマンション付近へやって来た。ところが、当地では、厳格な「ゼロコロナ政策」が実施されていたので、約2時間も消火活動が遅れている。そのため、10人が死亡、9人が負傷した。だが、怪我人らが救急車で運ばれた病院の当直の医師の話では、死者は44人もいた(b)という。

ウルムチ市の火災を契機に、同市、北京市、上海市、南京市、広州市、武漢市等で、まず学生が立ち上がった。そこに、市民らが加わったのである。

習近平政権は、約3年近くも、厳しいロックダウンやPCR検査を行い、人民の自由を奪って来た。そこで、学生達は(A4の)白紙を掲げて、抗議の意志を示した。

彭載舟の命を賭けたパフォーマンス(「PCR検査は不要、習近平を罷免せよ」等のスローガン)は、人々に知れ渡っていたのである。抗議者が「白紙」を掲げるだけで彭の主張は十分伝わった。他方、警察当局は「白紙」を掲げただけの学生らを起訴するのが難しかったのである(c)。

実は、各地の集会で、学生や市民らが「共産党退陣」や「習近平退陣」を連呼した。おそらく、1989年の「民主化運動」以来、このような共産党トップの辞任要求はなかったのではないか。

デモ隊らの習近平主席の退陣要求は理解できる。しかし、万が一、共産党が「退陣」した場合、一体どうなるのか。

よく知られているように、中国は普通の民主主義国家とは異なり、共産党に代わる合法的野党が存在しない。中国民主党という非合法な政党が、地下に潜伏している。だが、同党が突然、現れても政権を担当できるとも思えない。

一方、共産党の8友党が共産党に代わって政権を担えるだろうか。所詮、弱小翼賛政党である。したがって、それも極めて考えにくい。

だとしたら、やはり人民解放軍が全面的に表に出て、軍事政権を樹立するのではないか。あるいは、清末民初のように、軍閥が跋扈する公算が大きい。

ところで、武漢市の抗議デモでは、警察、あるいは武装警察がデモ隊を蹴散らすため、発砲した(d)疑いが持たれている。

また、上海市では、すでにデモ鎮圧用車両が用意されている(e)という。明らかに、習近平政権は、人民弾圧の準備を始めたようである。

元来、習近平政権は、人民を徹底的に抑圧して管理するのをモットーとしている。「ゼロコロナ政策」もその一環である。だから、これ以上、各地でデモが激しくなれば「第2次天安門事件」(武力による人民の弾圧)が起こる可能性を排除できないだろう。

実際、習近平政策は、すでにこれを香港で行って来ている。けれども、仮に、習近平政権が「第2次天安門事件」を起こせば、米国(f)を中心とする世界(g)が中国に対する制裁が更に厳しくなるのではないか。すでに、中国経済はかなり悪化している。近い将来、経済破綻を起こしてもおかしくないだろう。

ただ、中国の政治的経済的混乱は、世界へ与えるインパクトが大きい。したがって、中国の「ソフトランディング」を期待したいのは我々だけではないだろう。

〔注〕

(a)『万維ビデオ』「勇士・彭立発の消息あり」(2022年11月12日付)

(https://video.creaders.net/2022/11/12/2546200.html)

(b)『中国瞭望』「新疆ウイグル自治区の火災、ネットでは死者44人と噂される 民衆が政府庁舎を取り囲み、市党書記を罵倒する」(2022年11月25日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/25/2550784.html)

(c)『中国瞭望』「『白紙革命』に参加しても罪は問えない?ネットが武装警察拘束の詳細を暴露」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/28/2551677.html)

(d)『中国瞭望』「武漢、銃声を聞いて驚く! 民衆はパニックになって逃げ出す…。」(2022年11月27日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/27/2551361.html)

(e)『中国瞭望』「当局に『大きな動き』? 上海市街中に暴動鎮圧用車両が出現」(2022年11月27日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/27/2551383.html)

(f)『中国瞭望』「中国での抗議行動発生を受け、ホワイトハウスが声明を発表」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/us/2022/11/28/2551608.html)

(g)『中国瞭望』「白紙革命は瞬く間に世界に伝わる 国連人権機関が声を上げる」(2022年11月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/28/2551587.html)

トップ写真:ゼロコロナ政策への抗議を行う民衆(2022年11月28日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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