無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/6/7

上海市ロックダウンの実態


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・上海市が“ロックダウン”を公式に否定し、ゆえに“ロックダウン解除”という用語は使用できない、と表明。

・上海市は厳格な“ロックダウン”を住民自治組織「居民委員会」に丸投げしながら、自分達とは一切関係ないと開き直り。

・居民委員会は実態としては共産党の“ひも付き”。人員不足、高齢化、上級組織からの圧力にもさらされている。

 

上海市のロックダウンに関して、『中国数字時代』の「大いに言いたいことがある:上海のロックダウンは過ちであり、恥ずかしい」(2022年5月31日付)(a)という記事が興味深い。

5月29日、上海市はコロナの予防と制御に関する記者会見を開いたが、驚くべき事に、当局は“ロックダウン”を公式に否定した。そして、“ロックダウン”を宣言したことがないので、“ロックダウン解除”という用語は使用できないと述べたのである。

これまで上海市は、国内外の“ロックダウン”のプロパガンダ報道を否定することなく、コロナとの戦いに臨んできた。

一般市民からは「上海市当局は市内の道路交通をすべて遮断し、市内に入る輸送車はすべて許可を得なければならない」、「(当局が)市内にバリケードを設置し、道路を遮断し、許可なく道路に車を入れない」、「住宅地の道路は木の板で遮断し、住宅は鉄柵と有刺鉄線で囲み、場合によっては鎖で家の戸締まりをした」という声が聞かれた。

これらは、すべて上海市当局が同市を“ロックダウン”するために実行した事ではなかったのか。

ところが、市関係者は、「(1)居民委員会は都市部の住民自治団体で、(“ロックダウン”は)住民自治の結果であり、政府の指令ではない」、「(2)正式な規則と条令は、市委員会、市政府の発表に準ずる。居民委員会が発表した情報は、同委員会と町の自主的な行動のコンセンサスを代弁するだけで、市政府はその合法性について責任を負わない」、「(3)将来、居民委員会が『上級関係省庁の要求』に言及した場合、正式な捺印書類がある場合を除き、原則的に口頭での通達について市政府は一切認めない」と語った。

上海市は、厳格な“ロックダウン”を居民委員会に丸投げしておきながら、今頃になって、自分達とは一切関係ないと開き直っている。

さて、問題は、居民委員会が中国共産党と関係があるか否かだろう。

『早報』の「午後の視察:居民委員会は上海市の裏側でロックダウンを解除した組織となったか」(2022年6月1日付)(b)という文章が参考になるので抄訳しよう。

上海市では4月中旬に早くも等級区分による規制が始まっている。同市の多くのネットユーザーは、「テレビでの記者会見は海外向けのものである。ゾーンがどうであれ、アパートの下に降りられるかどうかは居民委員会が決める」と語った。

実は、管理レベルを上げるか下げるかは、居民委員会の判断となる。その他、いつ仕事を再開できるのか等は、最終的に同委員会の判断に委ねられる。

写真)封鎖されていた建物のチェーンロックを解く男性(2022年6月2日 中国・上海

出典)Photo by Hu Chengwei/Getty Images

では、居民委員会とは、どのような存在なのか。

「居民委員会組織法」によれば、同委員会は住民の自己管理、自己教育、自己奉仕の基本的な大衆的自治組織であり、農村部の村民委員会に似ている。

だが、居民委員会は街道弁事処と本質的に異なる。弁事処は行政管理区管理委員会の派遣機関であり、区人民政府または機能区管理委員会が付与した職権を行使する。

けれども、居民委員会は行政機関に属さない。ただ、居民委員会には“3委員会”が存在する。このうち、地域党委員会は「中国共産党規約」によって地域社会で構成された党員全体を対象にした基礎組織である。つまり、居民委員会は、表面的には、自治組織風でありながら、実態としては、共産党の“ひも付き”となっている。

ところで、居民委員会の機能は広範囲に及ぶ。

彼らはこの地域の住民達を最もよく知っているため、調査任務や住民の状況を証明するなど、多くの業務が居民委員会に集中している。

数千万の大都市で「ゼロコロナ政策」を実行するには、居民委員会の大規模な支援が必要だろう。物資の購入調整、PCR検査の組織化、コロナ状況の通知配布、団地住民の紛争調整等である(不平不満をぶちまける住民の直接的な対象は居民委員会となる)。

なお、しばしば上海市政府と管轄する居民委員会の方針には矛盾があるという。

上海市のロックダウンが徐々に解除されると、居民委員会はパスを導入するようになった。その内容は、一世帯に一人しか外出できない、一日一時間以内など、人数、時間、頻度に制限がある。

居民委員会は、外出規制だけでなく、防疫指標を達成するため、一部のマンションを封鎖してきた。例えば、上海市普陀区のある居民委員会は4月中旬、マンション1棟の門を鉄の錠で閉め、住民達から激しい抗議を受けた。

一方、居民委員会の仕事は繊細かつ複雑で、コロナ流行期にはさらに厳しくなったのである。

上海市普陀区のある居民委員会では、わずか7人の委員で198棟、2129世帯、5452人の住民を管理しなければならず、そのうち3割が60歳以上だった。

上海市の居民委員会はマンパワーが貧弱で、特に中高年が多いため防疫のような激務ではすぐ限界に達してしまう。また、末端組織員達は、業務中にも上級部署から“防疫の不備”を問い詰める大きな圧力に直面しているという。

(注)

(a)<中国数学時代>:【404文库】大记有话说|上海“封城”原来是乌龙,让人情何以堪

(b)<早報>:下午察:居委会成上海解封背锅侠? | 早报

トップ写真)防疫のため道路の封鎖が続く上海(2022年5月23日 中国・上海)

出典)Photo by Hu Chengwei/Getty Images

 

 




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."