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.国際  投稿日:2022/9/15

中国の重要会議で「習主席擁護」の文言削除


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・9月の中央政治局会議は異例ずくめで、会議後にわかった重大な細部変更により「習主席の地位が“格下げされた”シグナル」との見方も。

・新華社は習主席の地位を確約する「2つの確立」には言及せず、習主席にとって最も肝要な「習主席が党中央の核心、全党の核心的地位であることを“擁護”する」という文言を削除。

・「2つの擁護」、「2つの確約」というスローガンが消滅したという事は、党内で何らかの重大な変化が生じた可能性がある。



今年(2022年)9月9日、中国共産党中央政治局会議が開催(a)された。同会議では、10月9日開催予定の第19 期第7中全会中国共産党中央委員会全体会議)に提出される第 19 期中央委員会報告草案等が検討されている。

具体的には、①「中国共産党規約(改正案)」、②「第19期中央政治局の中央『8項目規定』貫徹実行状況報告」、③「第19回党大会以降の形式主義是正による末端負担軽減活動状況に関する報告」等である。

①党規約改正案に関して、党メディアは、後述する「2つの確立」を規約に盛り込む考えを広く流布(b)している。

②の「8項目規定」(c)は、2012年12月の中央政治局会議で発表された。例えば、第1項には、(幹部は)旅装を簡単にし、随行員を減らし、接待を簡素化し、プラカードを掲げず、群衆の送迎を手配せず、・・・・・・宴会を手配しない等が謳われている。

さて、9月の中央政治局会議は異例ずくめ(d)だった。

第1に、普通、同会議は下旬に開かれるが、今回は上旬に開催された。前回は8月30日に行われたので、今回は前回からわずか10日後に、それも前倒しされた。

第2に、共産党ナンバー3の栗戦書は、外遊中(9月17日に帰国)だったので、会議に欠席した。

第3に、会議後にわかった重大な細部変更である。この点が習主席3選と何等かの関係があるのではないかという憶測を呼んでいる。

同日午後、官製メディアの新華社は「2つの擁護」を「1つの擁護」に減らしてプレスリリースを発表した。また、習主席の地位を確約する「2つの確立」には言及しなかったのである。

まず、「2つの擁護」とは、2018年9月に打ち出されたスローガンである。①習主席が党中央の核心、全党の核心的地位であることを“擁護”し、②党中央の権威と統一的指導を“擁護”する。

次に、「2つの確立」とは、2021年11月に提出されたスローガンで、①習近平同志の党中央の核心、全党の核心としての地位を“確立”し、② 『習近平による新時代の中国の特色ある社会主義』思想の指導的地位を“確立”する(後者の「2つの確立」は、前者の「2つの擁護」を発展させたものである)。

これまで、「習派」が繰り返し強調してきた「2つの擁護」に関して、新華社は「党中央の権威と統一的指導を断固として“擁護”する」と述べるにとどまった。つまり、習主席にとって最も肝要な「習主席が党中央の核心、全党の核心的地位であることを“擁護”する」という文言を削除してしまったのである。

更に、既述の如く、「2つの確立」にはまったく触れられなかった。

いずれのスローガンも習主席の立場を強化し、第3期目以降も主席による政権担当を目指す大切なキー・ワードだった。結局、それらのスローガンが消滅したという事は、党内で何らかの重大な変化が生じたという可能性を排除できない。

次期党大会を控え、これは“異常なシグナル”と言っても過言ではないだろう。そのため、習主席の地位が“格下げされた”のではないかと分析する人もいる。海外の評論家、江森哲は、中央政治局内でこのような変更が行われたのは初めてだと言明した。

他方、政治評論家、陳破空は、今度の会議のプレスリリースには“4つの項目”―前述の「2つの擁護」、「2つの確立」の他、「4つの意識」(政治意識・大局意識・核心意識・一致意識)、「4つの自信」(中国の特色ある社会主義の道への自信・理論への自信・制度への自信・文化への自信)―が欠けていると喝破(d)した。

別の評論家、大康は、前回同様、今回も第20回党大会における習主席の“役割”について言及がなかったと指摘している。 

また、大康は、共産党が今度の会議を前倒しした理由については、第20回党大会報告案に関して、党内外で意見や論争が多すぎて、報告案が各方面で完全には合意されていないのではないかと疑問を呈した。

昨年末、一部中国共産党幹部の発言や党機関紙は、一時、「一つの擁護」だけを強調している。当時、女子テニス選手の“彭帥事件”が起き、習主席の“隠し子騒動”が海外では盛んに噂され、共産党の内部抗争が激化していたからである。

次期党大会を控えた現在、「二つの擁護」は「一つの擁護」へ回帰した。そのため、中南海は未だ、波瀾状態にあるのではないかと推測されている。

 

〔注〕

(a)『中華人民共和国中央人民政府』

 「中央政治局会議、習近平が主宰」

 (2022年9月9日付)

 (http://www.gov.cn/xinwen/2022-09/09/content_5709163.htm)。

(b)『中国瞭望』

「第20回党大会、李克強は何もできないのではないかと懸念している」

(2022年9月12日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/09/12/2525041.html)。

(c)『共産党員網』

「『中央8項目規定』の具体的な内容は何か?」 

(2021年2月18日付)

https://wenda.12371.cn/liebiao.php?mod=viewthread&tid=600937)。

(d)『万維ビデオ』

 「最新の中央政治局会議は、異例のシグナルを発し、かつ前例のない変化を告げている」

(2022年9月10日付)

(https://video.creaders.net/2022/09/10/2524147.html)。

(e)『中国瞭望』

「前回から10日後に開催された政治局会議:習近平の去就は隠された暗号か?」

(2022年9月12日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/09/12/2524813.html)。

 

 

トップ写真:中国全人代にて習近平が二期目の任期が確定。2018年3月17日。

出典:Photo by Etienne Oliveau/Getty Images

 






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