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.国際  投稿日:2022/9/12

中国「北部戦区」で内戦勃発か?


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・一部報道によると、9月8日、「北部戦区」の遼寧省瀋陽市于洪軍用飛行場で、激しい銃声、爆発音、戦闘機の音が聞こえたという。

・習主席は、数年前から軍改革を進め、軍事委主席の責任体制を強化している。

・習主席が計画的に登用してきた部下の中には、“習近平に対する個人的な忠誠心”と組織としての“党中央軍事委員会への忠誠心”の間で葛藤している人も。

 

目下、中国共産党は、10月16日開催の第20回党大会を控え、デリケートな時期を迎えている。

習近平主席のカザフスタン訪問(9月14日)直前、中国国内では、不穏な事件が起きた。9月8日午前2時頃、「北部戦区」の遼寧省瀋陽市于洪軍用飛行場で、激しい銃声、爆発音、戦闘機の音が聞こえた(a)という。

当日、習近平主席は、突然、王強を上将へ昇進させ、新「北部戦区」司令官に任命している。他方、李橋銘・前「北部戦区」司令官は、行方不明だという。この唐突な人事は、8月2日のペロシ訪台直前、「東部戦区」で王仲才が同戦区の新海軍司令官に就任した(b)話を想起させる

8月17日、北戴河会議直後、習主席は、まず、遼寧省錦州市の遼瀋戦役記念館を視察した。次に、「北部戦区」駐屯地の瀋陽市へ移動し、瀋陽軍の大佐以上の将校と接見している。だが、その際、李橋銘は「改革・開放」を支持し、主席の3選には賛同しなかった(c)という。

公開資料(a)によると、王強は1963年四川栄県出身で、2018年7月に「西部戦区」副司令官に昇進し、2020年4月には「西部戦区」空軍司令官を兼任した。

一方、李橋銘・前「北部戦区」司令官は1961年4月生まれ、河南省出身である。2016年1月、「北部戦区」副司令官兼「北部戦区」陸軍司令官となった。そして、2017年8月、「北方戦区」司令官に昇進した。現在、李橋銘は61歳なので、65歳定年にはまだ早い。したがって、李橋銘は“失脚”したのではないかと噂される

▲写真 中国で新たに設置された五大戦区 出典:防衛研究所

実際、習主席は2012年秋の総書記就任以降、軍の腐敗撲滅に取り組み、当時の軍事委員会元副主席から軍事委員会委員まで、腐敗した大量の「反習派」の首を切った

更に、数年前から軍改革を進め、軍事委主席の責任体制を強化している。習主席は、2012年11月から軍を指揮して以来、68人を上将に昇進させた。この数は、前任者の2人(江沢民元主席と胡錦濤前主席)よりも多い。

今年1月21日、習主席は「北方戦区」政治委員である劉青松を含む7人を上将に昇進させ、全員の新役職を明らかにした。

ただし、短期間のうちに「西部戦区」で3回、「中部戦区」で2回の司令官交代が行われるなど、奇妙な事が起きている。

例えば、2020年12月、張旭東が上将に昇進し、「西部戦区」司令官に就任した。しかし、2021年10月、張旭東は58歳で病死している。そこで、2021年7月、前「西部戦区」陸軍司令官の徐起零が上将に昇格し、張旭東に代わり、「西部戦区」司令官になった。

その後、徐起零は癌に冒されていると報道された。そして、わずか2ヶ月で「西部戦区」司令官を辞し、中央軍事委員会統合参謀部副参謀長として北京へ戻って来た。徐起零のあと、新疆戦区司令官だった汪海江・上将が「西部戦区」司令官を継承している。

米国へ亡命した蔡霞(元中央党校・党建教研部教授)は『フォーリン・アフェアーズ』(2022年9月6日)で、次のように指摘(d)した。

習近平は長年にわたって自分の部下を計画的に登用してきた。だが、軍将官の言葉を見ると、彼らは“習近平に対する個人的な忠誠心”と組織としての“党中央軍事委員会への忠誠心”の間で葛藤している

実は、昨年12月、習政権のウイグル政策を批判して習主席に批判された劉亜洲将軍が、同じ将軍の弟と同時に家宅捜索を受けて、行方不明になっているという。

他方、オーストラリアの法学者、袁紅冰の党内情報によれば、劉亜洲が内部統制下にあるのは、太子党を代表して公然と「反習」を掲げ、主席の3選を阻もうとしたからだ(e)という。

ところで、本サイトで既報の通り、今年5月7日、浙江省舟州市夜空が真っ赤に染まった。翌8日午後1時過ぎ、浙江省杭州市で原因不明の大きな音が2回続けて鳴り響いている。

2日後の10日朝、首都・北京市大興区楡垡橋で戦車が走っているのが目撃された。更に、翌11日、今度は福建省福州市で夜空が真っ赤に染まっている。

以上のように、5月前半に続き、第20回党大会が開催直前に再び内戦が勃発した。これは、習主席が完全には軍権を掌握していない証しではないか。仮に、軍をしっかり握っていれば、そもそも瀋陽軍区へ行って、3選支持を訴える必要はなかったのではないだろうか。

 

〔注〕

(a)『中国瞭望』「突然!習近平が北部戦区司令官を代える、瀋陽で銃声が聞こえる」(2022年9月8日付)

https://news.creaders.net/china/2022/09/08/2523453.html

(b)『東方網』「東シナ海にまた新たな将軍が現れた:東部戦区海軍司令官に王忠才中将が任命される」(2022年8月4日付)

https://j.eastday.com/p/1659622895037304

(c)《万維読報》「軍に変化? 習近平、李首相の軍事的“盟友”を素早く排除」(2022年9月10日付)

(https://video.creaders.net/2022/09/11/2524347.html)

(d)「習近平の弱点―傲慢と偏屈 パラノイアが脅かす中国の未来―」

(https://www.foreignaffairs.com/china/xi-jinping-china-weakness-hubris-paranoia-threaten-future)。

(e)『中国新聞中心』「劉亜洲、第20回党大会での総書記交代を推進…習近平の内部統制で? 習近平の3選に対し、鄧樸方ら太子党が劉亜洲支持に動き出す」(2021年12月30日付)

https://chinanewscenter.com/archives/28906

トップ写真:習近平(2022.4.8) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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