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.国際  投稿日:2022/8/20

中国北戴河会議(続報)


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

 

【まとめ】

・北戴河会議後、孫孫副首相は、海南省での「ゼロコロナ政策」の失敗を宣言した。

・習習主席は北戴河会議で新旧党幹部らから「ゼロコロナ政策」を非難を浴び、“敗北”したのではないだろうか。

・一方、李克強首相は、北戴河会議で地位を高めたのではないか。

 

今年(2022年)8月上旬、中国ではすでに(現役幹部と旧幹部による)非公式な北戴河会議が終了したのではないかと思われた。しかし、ひょっとすると、同会議は、中旬まで継続していたのかもしれない。

会議閉幕の兆候は、孫春蘭副首相(医療・衛生担当) の動静(a)から窺える。

8月12日、孫副首相は、海南省での「動態的ゼロコロナ政策」(以下、「ゼロコロナ政策」)の失敗を宣言した。翌13日、同副首相は、防疫を指導するため海南島に到着している。

その後、孫副首相は当地で「コロナで足止めされた約15万人の旅行者が島から帰れるよう積極的に働きかけている。足止めされた旅行者へのサービスをしっかり行い、帰りの手続きを早めるべきだ」と語った。

同日、大量の旅行客が足止めされたことに関して、海南省庁観光副庁長、汪黎明が旅行客の帰路予定に遅れをきたしている事を明らかにし「皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ありません」と謝罪した。

8月16日付台湾『自由時報』は「謎の北戴河会議が終了か 習近平の『ゼロコロナ政策』は会議で非難されたもよう」(b)という記事を掲載した。

この中で、政治評論家の陳破空は次のように述べた。海南省当局が15万人の旅行者をロックダウンして帰れないようにした件に対して“前例のない謝罪”を行い、「ゼロコロナ政策」の失敗を認めたことは、習主席による同政策が後退した兆しだと指摘している。

こうした変化から、もしかすると、習主席は北戴河会議で新旧党幹部らから「ゼロコロナ政策」を非難を浴び、“敗北”したのではないだろうか。そのため、孫副首相が同政策に言及せず、当局が謝罪するという“妥協”に至ったのではないかと考えられる。

他方、海南省トップの沈暁明書記は、同省党委員会コロナ流行対策指導グループ拡大会議で、単に孫副首相の発言を繰り返すだけだった。そして、「ゼロコロナ政策」を堅持するとは一言も言わなかった(c)という。

結局、孫副首相と沈書記が同政策への言及を避けたのは、習主席が北戴河会議で何らかの強い圧力を受けた証しだろう。

さて、8月15日、中国共産党機関紙『求是』が、習主席の「全党は必ず新しい発展理念を完全かつ正確かつ全面的に貫徹しなければならない」(d)という重要演説を掲げた。

ただ、この記事の最後には「習近平総書記が2021年1月28日第19期中央政治局第27回集団学習で語った講話である」という但し書きが入っている。なぜ、1年半以上も経って、この時期に未発表の演説が公表されたのか不明である。

その中で、習主席の主張する「新発展」とは、2015年10月の第18期中央委員会第5回全体会議ですでに提案された「古いもの」に過ぎない(e)。この演説のタイトルが「全党」に向けられたのは、北戴河会議後、習主席が党に何等かの説明をする必要があったことを示しているのではないか。

また、記事のタイトルに「must」という言葉が使われたのは、高い所から圧力をかけている事を意味する。逆に言えば、党内の多くの人が習主席の言葉に耳を傾けず、主席の政策に反対している事を示唆しているのかもしれない。

今年に入り、習主席は「ゼロコロナ政策」への揺るぎない決意を繰り返し公言した。けれども、西安、長春、上海など全国各地で極端な統制措置が続き、経済と国民生活に大きな打撃を与えた。そのため、人民の不満が高まっている。

一方、8月16日、李克強首相は広東省深圳市に現れ、同市の経済状況について大規模なシンポジウムを開いた(f)。そこでは李首相がリラックスした表情で輝いていたという。おそらく、北戴河で首相の地位が更に高まったのではないか。

翌17日付『人民日報』は、第1面で「李克強は、主要経済大省(経済規模の大ききな省)の指導者を対象とした経済情勢に関するフォーラムを主宰し、次のように強調した。経済安定回復の中で経済大省が担うべき役割とは、市場主体の雇用安定と物価安定を保ち、基本的な国民生活を保障する事である」(g)という記事を掲載した。

同会議には、広東省党書記と広東省長、江蘇省長、浙江省長、山東省長、河南省長、四川省長らが出席した。

李首相は、会議中、国全体のGDPの45%を占める主要経済6省は、安定した経済を支える重要な役割を果たすため、勇気をもって行動する必要があると檄を飛ばしている。

〔注〕

(a)『RFA』

「孫春蘭副首相、海南省観光客15万人の立ち往生を認定 当局がついに謝罪」

(2022年8月14日付)

(https://www.rfa.org/cantonese/news/covid19-08142022055149.html)。

(b)(https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/4026466)。

(c)『中国瞭望』

「風向きが変わった 習近平の『ゼロコロナ政策』が批判を浴びた 孫春蘭のスピーチが明らかにしたシグナル」

(2022年8月15日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/08/15/2515653.html)。

(d)(http://www.qstheory.cn/dukan/qs/2022-08/15/c_1128913644.htm)。

(e)『中国瞭望』

「北戴河会議後、習主席が最初の発言で圧力を受けたことを確認?」

(2022年8月15日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/08/15/2515310.html) 。

(f)『万維動画』

「北戴河会談が終わって李克強が輝く 元老は怒り、習近平はゼロコロナ政策で集中砲火を浴びる」

(2022年8月16日付)

(https://video.creaders.net/2022/08/16/2515781.html)。

(g)

(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/17/nw.D110000renmrb_20220817_4-01.htm)。

 

トップ写真:念じ記者会見に臨む李克強首相 2022年3月11日 中国・北京

出典:Photo by Andrea Verdelli/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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