日英国葬、中国はだれを派遣?
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・9月中に行われる安倍晋三元首相、エリザベル英女王の国葬に誰が参列するか、世界の耳目を集めている。
・とくに注目されるのは、中国がだれを派遣するかだ。
・日中関係が冷え込んでいる中、顔ぶれによって関係が好転、またはいっそう緊張するだろう。
9月中に2カ国で国葬が執り行われる。いうまでもなく、イギリスのエリザべス女王と日本の安倍晋三元首相のそれだ。各国からの参列者の顔ぶれがどうなるか、世界が強い関心をもって見守っている。
すでに明らかにしている国は少なくないが、注目すべきは中国だ。
急速な台頭によって各国から警戒のまなざしを浴びている中国は、日本との関係も険悪なまま、ことし国交正常化50年を迎えた。安倍国葬にそれなりの人物が参列すれば、関係改善への意欲のあらわれと歓迎されよう。
女王と元首相という違いはあるにせよ、あまりに〝見劣り〟する弔問団にとどまれば、関係改善への真剣さが疑われることになる。
中国自身にとっても慎重な判断が迫られるところだろう。
■ 対英と対日では温度差
エリザベス女王の国葬について中国は、「ハイレベル代表団の出席を前向きに検討している」(毛寧・外務省副報道局長)と積極的な姿勢をのぞかせたが、安倍氏の国葬への参列については「日本側と連絡を取り合っている。関連する準備が終わり次第発表する」(欧江安・外務省報道官)と述べるにとどまった。やや冷淡な印象はぬぐえない。
写真)エリザベス女王2世を弔問する一般客 イギリス・ロンドン2022年9月15日
出典)Photo by Danny Lawson – WPA Pool/Getty Images
周知のように、日中関係は過去数年にわたって関係がぎくしゃくしている。
さきにアメリカのペロシ米下院議長の台湾訪問を日本政府が支持したことから、中国が反発。8月にカンボジアのプノンペンでのASEAN(東南アジア諸国連合)を機に予定されていた林外相と王毅外相による会談を先方が直前にキャンセルする騒ぎとなり、緊張がいっそう高まっていた。
その一方で、これ以上関係がこじれるのを防ごうという動きもみられた。
外相会談中止の直後、秋葉剛男国家安全保障局長が中国の招きで訪中、天津で、楊潔篪(竹かんむり下にガンダレ、その下に虎)政治局員と会談した。「建設的、安定的な関係」構築が目的だが、楊氏は王毅外相より格上で中国外交のトップ。
以前から予定されていたとはいえ、両氏は夕食をともにしながら7時間もの間、協議を続けた。高官同士のこれほど集中的な意見交換は異例といっていい。
米中関係が同様に険悪な状況が続く中、日本との関係をもさらに悪化させるのは得策ではないという判断が中国側にあるようだ。
時あたかも、1972(昭和47年)9月29日、田中角栄首相と周恩来首相(いずれも当時)が北京で日中国交正常化を謳った共同声明に署名した日が近づいている。
国交正常化から半世紀を祝って文化、人的交流を中心に、さまざまな行事が両国で進行中だが、肝心の両国関係が冷え込んだままとあって盛り上がりに欠けるのは否めない。
そうした中、中国がしかるべき参列者を派遣してくれば、その後の外相会談実現、懸案になっている習近平主席の日本訪問などにつながり、関係正常化への道筋が見えてくるとの期待感がある。
■ 昭和天皇の大喪の礼には外相だけ
昭和天皇の大喪の礼の際、アメリカからはブッシュ米大統領(父、当時)、イギリスからは女王の夫君、故エジンバラ公、フランスのミッテラン大統領(同)ら各国が元首、首脳級の弔問団を派遣してきたが、中国は銭其琛外相(同)を参列させたにとどめた。
日中の歴史的経緯、国民感情を考えれば、中国としては大型使節を派遣することはできなかったろうが、大喪終了後、竹下登首相(同)は、官邸に銭氏を招き会談する厚遇ぶりを示し、国内で論議を呼んだ。
今回、70年も元首の地位にあったエリザベス女王の国葬への弔問団と比較するのは適当さを欠くにせよ、大喪の礼のような一閣僚クラスの派遣にとどまれば、日本国内における対中感情の好転は望めまい。
■ 中国も人選に腐心?
中国もそのあたりのバランス確保に腐心している可能性もある。
ちなみに、3年前、天皇陛下の即位の礼の際は王岐山国家副主席を参列させた。精いっぱいの対応だったろう。
9月27に予定されている安倍元首相の国葬への主な出席者はアメリカのハリス副大統領、インドのモティ首相、カナダのトルドー首相、シンガポールのリー・シェンロン首相ら、それなりの顔ぶれが並ぶ。
19日のエリザベス女王の国葬へは、天皇、皇后両陛下のほか、アメリカのバイデン大統領夫妻、フランスのマクロン大統領、各国の王室関係者ら、さすが元首級が顔をそろえる。
19日、27日、ウェストミンスター寺院、日本武道館へは中国から誰が姿を現すのだろうか。
トップ写真:増上寺で行われた安倍元総理の葬儀に参加する女性 日本・東京都 2022年7月12日
出典:Photo by Yuichi Yamazaki/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。