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.国際  投稿日:2022/10/2

日米防衛関係は泥沼か アメリカ側に告げる(下)


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

・日本は自国の防衛への基本姿勢という点で異端の国、異質の国

・安倍晋三元首相は、日本の国家安全保障のメカニズムにある大きな穴を埋めようとすることを意図していた。

・自民党は防衛費増額と憲法改正へ動き出した。岸田氏もこの潮流にさからうこともないだろう。

 

★異端の国

 以上を総括すると、日本は自国の防衛への基本姿勢という点で異端の国、異質の国なのです。この点は私自身、アメリカを含めた他の多数の国の防衛政策についての知識を広め、深めていった結果、痛感するにいたりました。

 だから簡単にいえば、異常なほどの程度と範囲の自己束縛こそが日本の国家安全保障に対する姿勢なのです。この点こそが私が冒頭で申しあげた「泥沼」という意味なのです。

 

★安倍晋三氏の「普通の国」への努力

 日本の防衛の制度的な制約はアメリカ側が作成した無抵抗平和主義的の日本国憲法の直接の結果だといえます。日本国民の戦後の反軍感情も大きな要因だったでしょう。

 もし私たちの目標がより強固で、より平等な同盟を築くことであれば、日本側のこの種の制約や異端はすべての除去はまだできないとしても、削減されねばなりません。

 そのために日本をより普通に、より正常にすることに全力を尽くした人物の1人が故・安倍晋三氏でした。この面での安倍氏の努力は彼の反対派により、しばしば意図的に、日本を戦前のような攻撃的な軍事強国に戻すことが目的の計画なのだなどと誤認されることもよくありました。しかし安倍氏の行動はまったく逆に、日本の国家安全保障のメカニズムにある大きな穴を単に埋めようとすることを意図していました。

 

★防衛費増額と憲法改正へ

 しかし現在の日本は私にとっては喜ばしい驚きですが、安倍氏が目指したような方向へと動き出したようにみえます。ごく最近、与党の自民党はこんごの防衛費をGDP(国内総生産)の2%以上の水準へと増やすことを誓約しました。防衛費はGDPの1%以内に抑えるというこれまでの政策がずっと神聖視されてきたような状態を考えれば、これは大変化です。この以前の政策は1976年の閣議決定で決められました。

 自民党はさらに日本を攻撃する可能性のある外国のミサイル基地などに届くミサイル発射の能力を取得する政策を新たに提案しています。この「反撃能力」は長年の「専守防衛」の通常の解釈からは離れることとなります。そのうえに自民党内の一部の議員たちは北大西洋条約機構(NATO)の欧州の一部の加盟国が採用している「核シェアリング」の構想についても議論を始めました。

 

★憲法改正の誓約を再確認

 自民党はまた最近、日本の防衛努力を完全に合法的かつ正常にするために憲法を改正するという長年の誓約をまた改めて再確認しました。自民党以外の政党の間でも憲法改正の賛成派は拡大しています。現在、衆議院、参議院の両院で憲法改正に賛成する議員の数は憲法改正の発議に必要な全議員の3分の2を越えています。

 こういう新たな防衛政策への国民の支持も大きな変化を示しています。

 ここ1,2年の世論調査はあいついで日本国民の明確な多数派が防衛費の増額、より長距離のミサイルの配備、そして第9条をも含む現行憲法の改正に賛成していることを明示しました。

 これは驚くべき変化です。とくに私のように長年にわたりこの課題を考察してきた人間にとっては一見、信じがたいほどの大きな変化なのです。

 こうした現在の日本の国民世論がはたしてこのまま安定していくか否かは、まだこれからをみなければ、わかりません。しかし現在のより強固な防衛への支持は圧倒的なのです。

                       

★防衛強化の世論の原因は?

 そこで自然に生まれる疑問は日本のいまのこうした変化を引き起こしたのはなにか、という問いです。まず明らかなのは中国の好戦的な行動と威圧的な言辞が第一の原因だということです。

 中国の武装艦艇は尖閣諸島周辺の日本の領海や接続水域に毎日のように侵入してきます。そして北朝鮮は日本海に向けてミサイルをきわめて頻繁に発射しています。今年の前半だけでもすでに16回も北朝鮮のミサイルが発射されました。そしてその異様な国家の北朝鮮は核兵器の配備を自慢し、その核兵器を日本に対して使うという脅しをかけています。

 ロシアのウクライナ侵略、そしてウクライナの勇敢な抵抗は多数の日本国民を印象づけ、とくに自国を防衛するための自衛努力の必要性への意識を高める結果となりました。ロシアの日本周辺での最近の戦争演習も日本国民の警戒や注意を集めました。

 

★岸田政権はどう動く

 さて最後に岸田政権はどう動くのか、という疑問です。岸田文雄氏は強固な防衛を主唱してきた政治家ではありません。実際に日本の政治の記録には岸田氏が防衛や安全保障の分野でなにか活動をしたことはほとんど見いだすことができません。岸田氏は実は経済最優先を唱えることで知られた自民党内の派閥で育ってきた政治家なのです。

 ですから私は防衛問題に関して岸田首相には大きな期待は抱いておりません。しかし同時に岸田氏が大きな潮流にさからうということもないだろうと思う次第です。私の報告は以上です。あとは自由な質疑応答や議論ということにしましょう。ご清聴ありがとうございました。

(終わり。上はこちら

 

 ★この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏のコラム『内外抗論』からの転載です。

トップ写真:陸上自衛隊朝霞駐屯地での年次審査に臨む安倍晋三総理(当時)2018年10月14日 東京都

出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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