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.国際  投稿日:2022/12/13

集団安保の強化【2023年を占う!】国際情勢④


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・ヨーロッパではすでにこの集団安保態勢を強化する動きが明白となった。

・米英豪3国による軍事同盟AUKUSが、米印豪日4ヵ国による安全保障の多国間協力QUADが誕生した。

・集団安全保障の重視傾向では、日本はまた一つ、重大な課題を自らに提起することになる。

 

2023年の国際情勢を占うと、第4の傾向として浮かぶのは集団安全保障態勢の強化である。この強化には拡大もともなう。

この要因は第3の軍事力の役割の拡大の帰結だともいえる。既成の国際秩序への挑戦が軍事力によってなされる事例が増してきた。その軍事力の威嚇や行使を防ぎ、既成の秩序を守る側は軍事力での挑戦に対して単独ではなく他の有志諸国との防衛面での連帯をより強く求める傾向へと動くのは自然だといえる。

ロシアのウクライナへの軍事侵略を深刻に懸念するヨーロッパではすでにこの集団安保態勢を強化する動きが明白となった。長年、ヨーロッパでの北大西洋条約機構(NATOという集団安保態勢、つまり集団軍事同盟には加盟せず、あえて中立の立場を貫いてきたフィンランドとスウェーデンの両国がこのNATOに加盟したいと手をあげてきたのだ。

アメリカやカナダ、イギリス、フランスを主体としたこの集団同盟のNATOは第2次世界大戦の終結後の1949年に結成された。当時のソ連の強大な軍事脅威への対応だった。

NATOは加盟国すべてが防衛に関しては運命共同体とみなし、一国に対する外部からの軍事攻撃は加盟諸国すべてへの攻撃と断じて、加盟諸国すべてが反撃する、という集団防衛態勢である。発足時は数ヵ国だった加盟国はその後、着実かつ大幅に増えていった。

現在のNATOはソ連の崩壊とロシアの軍事膨張志向の影響で東欧諸国までが加わり、加盟30ヵ国に達した。かつてはソ連の衛星国だったハンガリーやポーランド、そしてリトアニア、ラトビア、エストニアというバルト3国までが参加した。

そのうえに中立国として全世界に名を響かせていたスウェーデンとフィンランドまでが2022年にNATO加盟を求めるにいたったのだ。その理由は当然ながらロシアのウクライナ侵略だった。中立を標榜してきた両国はロシアの軍事膨張性への懸念からもはや一国だけの中立による自衛では自国の安全保障は保てないという判断を下すにいたったわけだ。ロシアの軍事的脅威が西側の集団安保態勢を強めたのである。

実はウクライナもNATO加盟を希望していた。ロシアがウクライナに軍事侵攻した理由の一つはウクライナのNATO加盟を阻むことでもあった。

アジア太平洋でも2021年にはアメリカ、イギリス、オーストラリア3国による新たな軍事同盟といえるAUKUSが生まれた。中国の軍事的な膨張や攻撃を集団態勢で抑止することが主眼だった。アメリカからオーストラリアへの原子力潜水艦の供与が主体となる新しい集団安保の取り決めだった。

アメリカ、インド、オーストラリア、日本の4ヵ国によるQUADも集団同盟とまではいかないが、明らかに中国の脅威を意識しての安全保障の多国間協力である。

東アジアでは年来の日米同盟や米韓同盟もその重要性が改めて強調されるようになった。その強化のための多様な措置が具体的にとられた。その直接の原因は明らかに中国の大規模な軍事拡張や、北朝鮮の冒険主義的なミサイルや核兵器の動きへの警戒だった。国家の安全保障は単独でよりも価値観や利害を同じくする他の諸国と力を合わせての方法が効果的だとする思考である。

 中国と北朝鮮の軍事脅威を実際に感じる日本にとっては、唯一の同盟国のアメリカとの集団防衛態勢を強化しようと努めることは自然であり、不可欠だともいえる。ただしその結果、日米同盟の固有の片務性に光を当てることとなる。日本にとっての集団安全保障態勢である日米同盟を強化しようと図れば、日米同盟がNATOとも米韓同盟とも基本の構造が異なることが障害となる。

現在の日米同盟はアメリカのドナルド・トランプ前大統領が簡明な表現で指摘したように、「日本が攻撃されればアメリカは日本を全力で守るが、アメリカが攻撃されても日本側はなにもする必要はない」という片務性が特徴である。

日米同盟では日本の領土や領海に武力攻撃がかけられた場合はアメリカは日本と共同で反撃し、日本を防衛する責務を掲げているが、アメリカが日本の領土、領海の外で攻撃された場合は日本にはなんの防衛責務はない。

日本の安全のために活動しているアメリカ海軍の艦艇が日本の至近の海域で攻撃されても、日本の領海でなければ、日本の自衛隊は座視してよい、ことになっている。この点、米韓同盟ではアメリカ側が太平洋地域のどこでも武力攻撃を受けた場合、韓国は自国への攻撃に等しいとみなして米軍の戦闘を支援することになっている。米韓同盟は双務的、日米同盟は片務的なのである。

日本のこの特殊事情は日本国憲法の制約に由来する。日本は国外、あるいは公海で戦闘をしてはいけない、つまり集団的自衛権の行使は禁止されているのだ。日本側の平和安全法制で米軍を支援する集団的自衛権の一部行使が認められたとはいえ、なお非常に限定的のままなのである。

だから新年の世界的な潮流ともいえる集団安全保障の重視傾向では、わが日本はまた一つ、重大な課題を自らに提起することともなるだろう。

これまた日本にとっての国難と呼んでも誇張ではない。

(⑤につづく。

トップ写真:海上自衛隊駆逐艦 JS 日向 (DDH-181) は海上自衛隊創設70周年記念 国際観艦式に参加する(2022年11月6日 相模湾)出典:Photo by Issei Kato – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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