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.国際  投稿日:2022/10/12

ウクライナ・クリミア大橋爆破の意味


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#40」

2022年10月10-16日

【まとめ】

・クリミア大橋の爆破事件を受け、ロシアがウクライナ全土に報復攻撃。

・この攻撃がウクライナ戦争の更なる「ゲームチェンジャー」になるのか、と問われれば、「今は分からない」としか言えない。

・ロシアとクリミアの全ての補給路が断たれたわけではない。影響は軍事的というより、むしろ、精神的、心理的なものではなかろうか。

 

先週最も大きな事件はロシア領と占領下にあるクリミアを結ぶいわゆる「クリミア大橋(ケルチ海峡にあるので「ケルチ大橋」という表記もある)」の爆破事件だろう。監視カメラ等のビデオが示す爆発の衝撃はすさまじく、それぞれ二車線ある上下の自動車用道路の一本が完全に寸断され、並行する鉄道架線上の貨物車も爆発・炎上した。

ロシアは「爆発物を積んだトラックが現場で爆発した」とし、プーチン大統領は「テロ行為」だと非難、早速キーウなどのウクライナ全土に報復攻撃を仕掛けている。原因や背景については諸説あり、現時点で断定は避けたい。だが、ロシアが自殺行為をする可能性は低いから、ウクライナか親ウクライナ系による犯行であるのだろう。

では、この攻撃がウクライナ戦争の更なる「ゲームチェンジャー」になるのか、と問われれば、「今は分からない」としか言えない。鉄道は修復可能かもしれないし、車道も一本残っている。ロシアとクリミアの全ての補給路が断たれたわけではないからだ。影響は軍事的というより、むしろ、精神的、心理的なものではなかろうか。

▲写真 ウクライナ大橋爆破をモチーフにした巨大な切手のオブジェの前で記念撮影を撮る人たち。(2022年10月8日 ウクライナ・キーウ) 出典:Photo by Ed Ram/Getty Images

もう一つの大きな「事件」は我がキヤノングローバル戦略研究所が先週末行った「台湾有事」に関する「政策シミュレーション」である。以前は週末に一泊24時間でいわゆるwar gameを行ったものだが、最近はコロナ禍のおかげでウェビナー型のシミュレーションに移行していたので、対面での演習は実に久し振りである。

今回のシミュレーション・コントローラーは峯村健司CIGS主任研究員が務めた。10月からCIGSの一員になった峯村氏にとっては事実上の「デビュー戦」だが、幸い参加下さった各プレーヤーの温かいご支援もあり、全体としては予想以上にうまくいったと考える。中身については追って報告書を発表する。

今週はオーストラリア出張を入れた。豪州は何度か訪れているが、いずれも短期間のシドニー出張ばかりで、恥ずかしながらキャンベラには一度も行ったことがない。今回はオーストラリアからインド太平洋地域を眺めるという、過去数年間温めてきた視点を模索する旅になりそうだ。という訳でこれから出発する。報告は来週に!

〇 アジア

北朝鮮がミサイルを打ち続けている。朝鮮労働党創党77周年記念日を迎え、2週間の大規模軍事演習も公開した。金正恩は韓米合同演習などを「無責任な情勢激化行動」とし、「対話する必要性を感じない」と述べたそうだ。「朝鮮半島の緊張は高まる」と報じられているが、本当に緊張が高まって困るのは北朝鮮側ではないのか。

〇 欧州・ロシア

ベラルーシ大統領が「ベラルーシに対する明確な脅威に対抗する」ため、同国軍を「ロシア軍と共にウクライナ周辺に配置する」よう命じたという。同大統領は「ベラルーシを戦争に引きずり込む」ために、ベラルーシへの戦争を仕掛けるよう後押しする動きがあると述べたそうだ。でも、それって実はプーチンのことではないのかね?

〇 中東

先週ニューヨーク原油市場で、WTI原油先物価格が約1か月ぶりに一時、1バレル=93ドル台まで上昇した。OPECプラスが来月以降の原油大幅減産を決めたため需給が引き締まる、という市場の判断なのだろう。それにしても、ロシアは仕方がないにしても、サウジの政策が本当にサウジのためになっているのかには疑問がある。

〇 南北アメリカ

米中間選挙まで1か月を切った。バイデン大統領の支持率回復が足踏みする中、トランプ派候補のスキャンダルも浮上し、選挙戦の行方は見通せないという。ガソリン価格が再び上昇に転じたが、6月の連邦最高裁が「中絶」の権利を否定したことで、女性有権者登録が急増し、民主党には追い風が吹いている。読みにくい展開だ。

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:クリミア大橋爆破への抱腹として、ロシアがウクライナ全土で行ったミサイル攻撃により破壊された車。(2022年10月11日 ウクライナ・キーウ) 出典:Photo by Ed Ram/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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