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.国際  投稿日:2022/11/19

「ゼロコロナ政策」への抵抗と「独身の日」


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国では「ゼロコロナ政策」に抵抗が強まっていた一方、多くの地域で突然制限の解除が発表された。

・「独身の日」、アリババと京東の売上げは発表されなかった。中国電子商取引の高成長時代は終焉を迎えた。

・ここ1年ほど習主席が「共同富裕」を強調し、中国共産党は勤勉・倹約の精神の方針を唱えた。中国の大富豪は資産を減らしている。

 

現在、中国では「ゼロコロナ政策」によるPCR検査・ロックダウンに対し、大学生が“消極的”に抵抗 (a)している。

例えば、紙製の犬を連れて(引っ張って)夜、散歩する。あるいは、大学生が夜、皆でグランドに集まって一定方向(時計回り)に赤ん坊のように這う。北京大学と並ぶ名門、清華大学の大学生も参加しているという。確かに、どちらも多少ストレス解消となるかもしれない。

一方、広東省広州市では、「ゼロコロナ政策」に対し、“積極的”に抵抗 (b)している。実際、同市では大規模な暴動が起きた。だが、警察や軍が出動し鎮圧している。

ところが、11月14日、河北省石家荘市は突然、封鎖を全面解除し、PCR検査実施もやめるという通達が発布された(c)。

石家荘では前日(13日)、500件以上のコロナ感染者が確認された。それにもかかわらず、翌日、完全なる封鎖の解除が行われたという。ショッピングモールはオープン、学校も再開、PCR検査はもうやらない、という知らせが届いた。同市民は「なんという急展開、夢のようだ!」と喜んでいる。

最近、11月11日、国務院が「精密な予防と管理に関する20ヶ条」を公表した。その後、陝西省鎮坪県、福建省福州市、江西省広昌県、吉林省延吉市、安徽省合肥市、上海市などの地域で、全住民を対象としたPCR検査中止や一時停止が発表され、風向きが変わってきた印象がある。

しかし、共産党統治下ではしばしば「朝令暮改」が起こる(d)ので、将来、どうなるかわからないだろう。

さて、今年もいわゆる「独身の日」(11月11日)、アリババ天猫双11」(Tmall。貸店舗の「楽天型モデル」)と京東(ほとんど自社でまかなう「Amazon型モデル」)による「双11」イベント(e)が行われた。

かつては「天猫双11」を盛り上げるべく、華やかな前夜祭(「猫晩」)が行われていた。米国のシンガーソングライター、テーラー・スウィフトのような大物が出演した事もある。だが、今年は前夜祭が開催されなかった。そのせいか、「天猫双11」が今一つ盛り上がりに欠けている。

そして、11月12日、「天猫双11」と京東「双11」での売上げの数字が、アリババと京東から発表されなかった(f)。

アリババによれば、今年の「天猫双11」は、取引規模が昨年と同レベルで、安定的に良好だったとのことである。他方、京東集団は、11月11日23時59分現在、今年、新記録を達成し、小売ショッピング利用者数もまた新記録を達成したと公表した。

昨2021年の「天猫双11」でのアリババの総取引額は5403億元(約10.6兆円)で、前年の4982億元(約9.77兆円)に比べ421億元(約8300億)増加(+8.5%)した。けれども、「天猫双11」で2桁成長は達成できなくなった模様である。また、京東の昨年の取引高は3491億元(約6.85兆円)を超えた。

▲写真 マスコミに向けて売り上げを発表する京東のチェンカイリン氏(2020年11月11日) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

結局、長年続いた中国電子商取引の高成長時代が終焉を迎えた。だが、アリババと京東が数字を公開しないのは、ひょっとして、習近平主席を恐れた(g)からかもしれない。

電子商取引企業の低姿勢は、ここ1年ほど習主席が「共同富裕」を強調し、アリババや京東等の買い煽り投機を抑えている。また、中国共産党が第20回党大会で唱えた社会全体の勤勉・倹約の精神を推進するという最新の方針が関係していると思われる。

話は変わるが、今年『フォーブス』世界の大富豪上位100人中、中国人は約40%も資産を減らしている(h)。昨年、トップ40位までに中国人は7人入っていた(i)が、今年は3人に減っている(j)。

17位の鐘睒睒(「農夫山泉<飲料>」)、25位の張一鳴「バイトダンス<TikTok>」、34位の馬化騰「テンセント」である。なお、馬雲(「アリババ」)は前年の26位から67位へと大きく後退した。

 

〔注〕

(a)『中国瞭望』「過酷な政治の下で深夜徘徊が人気の中国の大学生、警告を受ける」(2022年11月11日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/11/2545843.html)

(b)『中国瞭望』「広州市のロックダウンで大規模な暴動が発生」(2022年11月14日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/14/2546768.html)

(c)『中国瞭望』「石家荘が電撃的に全面的封鎖解除を宣言した結果、このような状況となったが‥」(2022年11月14日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/14/2546727.html)

(d)『中国瞭望』「石家荘の封鎖が解除された!だが、喜ぶのはまだ早いぞ。」(2022年11月14日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/14/2546911.html)

(e)『ドイツの声(DW)』「ダブル11のショッピング ・フェスティバルは、独身者のように『荒涼とした』ものになりつつある」(2022年11月11日付)

(https://www.dw.com/zh/双十一购物节正在变得像光棍一样冷清/a-63729102)

(f)『Do News』「史上初めて!京東と天猫がダブル11の取引額を公開しないのはなぜか?」(2022年11月12日付)

(https://www.donews.com/news/detail/4/3259366.html)

(g)『中国瞭望』「アリババが『天猫双11』の結果を初めて発表しなかったのは、習近平を恐れたから…」(2022年11月13日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/13/2546675.html)

(h)『中国瞭望』「中国が『官民パートナーシップ2.0』を立ち上げ、国家資本主義を実現?」(2022年11月14日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/14/2546834.html)

(i)「世界の億万長者ランキング(2021年版)」(2022年1月2日付)

(https://mimusanpo.com/world_billionaires_2021/)

(j)『フォーブス―世界のビリオネイア・リスト』

(https://www.forbes.com/billionaires/)

トップ写真:第20回党大会での習近平国家主席(2022年10月23日) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




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