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.経済  投稿日:2023/1/4

気候危機説による「偽りの緊急性」が人類の未来を奪っている


杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

「杉山大志の合理的な環境主義」

【まとめ】

2050年CO2ゼロといった極端なCO2排出削減量と気温抑制の目標は、人間の幸福と21世紀の世界の発展の問題から切り離されている。

・太陽光発電や風力発電、蓄電池の製造に必要な材料のグローバルサプライチェーンは、新たな地域紛争、物流問題、供給不足、コスト上昇を生んでいる。

・効率の良い火力発電と原子力発電を普及させ、そして核融合発電を確立すること。

 

現在G7が追求している「2050年CO2ゼロ」といった極端なCO2排出削減量と気温抑制の目標は、今や、人間の幸福と21世紀の世界の発展の問題から切り離されてしまっている。

過去2世紀にわたり、化石燃料は人類の進歩に燃料を供給し、何十億もの人々の生活水準を向上させ、寿命を延ばしてきた。

ところが21世紀に入ってからは、国連のパリ協定に基づき、気候変動緩和のために化石燃料からの急速な移行が国際的に必須となった。 その結果、先進諸国では、「二酸化炭素の排出を速やかになくす」という厳しい目標が主流となっている。

しかし2022年11月にエジプトで開催されたCOP27では、途上国は目標の深堀りや前倒しに一切応じなかった。のみならず、先進国に反発し、年間1兆ドルという途方もない費用負担を求めた。

▲写真 エジプトで開催されたCOP27に際して気候関連の問題に対してデモを行う人々(2022年11月12日)出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images

よりクリーンで、豊富で、信頼性が高く、安価なエネルギー源を渇望することは、普遍的なものだ。しかし、化石燃料を急速になくすという目標は、発展途上国にそのような電力を供給するという、リアルな緊急性と相反するものだ。

風力発電や太陽光発電の急速な普及は、必ず電力コストを上昇させ、信頼性を低下させる。不安定な再生可能エネルギーを導入しても火力発電所などの安定した電源を代替できず二重投資になるばかりか、送電網への負担も増えるからである。

環境運動家はドイツやカリフォルニアでの風力発電や太陽光発電の大量導入を褒め称えるが、ドイツは欧州内で最も電気料金が高い国だ。カリフォルニアは米国内で最も電気料金が高い州である。これは「再生可能エネルギーが一番安い」という主張が如何に間違っているかの動かぬ証拠である。

のみならず、世界の太陽光発電パネルの供給の半分以上を担う中国の新疆ウイグル自治区では、強制労働などの人権侵害の疑惑が濃厚だ。これは世界規模で太陽光発電産業を脅かす政治的問題となっている。

加えて、太陽光発電や風力発電、蓄電池の製造に必要な材料のグローバルサプライチェーンは、新たな地域紛争、物流問題、供給不足、コスト上昇を生んでいる。また風力・太陽光発電所と送電線に必要な大量の土地の使用は、多くの地域で、景観問題や生態系保護など、土地使用に関する紛争を引き起こしている。

気候変動をめぐっては黙示録的なレトリックが使われる。では、「二酸化炭素の排出削減の緊急性」は、こうした、他の重大な問題すべてを無視し、上書きすべきものなのだろうか?

じつは「気候危機」なるもののニュアンスはここ10年ぐらいでずいぶん変わっている。

2022年末のCOP27では、かつては最も憂慮すべき予測の元となっていた、4℃以上の温暖化をもたらす最も極端な高位の排出シナリオは検討対象から外れている。

ほんの数年前までは、2〜3℃の温暖化をもたらす排出量シナリオは、気候政策の「成功」とみなされていた。そのぐらいまで抑制すれば、さほどの問題はないという相場観があったのだ。

しかし、これは極端な排出削減を正当化するほどのものではなかった。物足りないと思った人々がゴールポストを移動させて、温暖化抑制の目標を1.5℃とした。

この温暖化抑制目標は、江戸時代の終わりごろ、つまり1850頃を基準にしている。当時に比べて地球の気候はすでに約1℃上昇している。

この、じつはゆっくりで僅かしかなかった地球温暖化が起きたことで、現在、気候危機論者は、現在の異常気象はことごとく地球温暖化のせいであるとしている。

いまG7諸国は、異常気象を悉く地球温暖化のせいにすることで、化石燃料から急速に移行する動機づけをしている。

しかしCO2排出量を急減させれば21世紀の異常気象を無くせるという訳では無い。このような錯覚は禁物だ。

異常気象は昔から存在する。地球の気候にそもそも内在する自然現象の一部である。これが地球温暖化のゆっくりとした進行によってどの程度影響を受けているか、判別することさえ極めて困難である。

近代的な観測がなされていなかった歴史時代や、有史以前のデータも含めて過去を振り返ると、地球上のあらゆる場所で、異常気象は常に存在していたことが分かる。

大気中の二酸化炭素を「調整つまみ」とすることで異常気象を最小化できると考えるのは、おとぎ話にすぎない。

それに日本は世界のCO2排出量の3%にすぎない。 従って、日本が排出する二酸化炭素は、地球温暖化だけでなく、日本の気候にもほとんど影響を及ぼさない。

▲写真 日本の火力発電所 出典:iStock / Getty Images Plus

極端なCO2排出削減や気温抑制の目標は、人間の幸福や発展の問題から切り離されてしまっている。

21世紀中にCO2排出量をある程度抑制することには反対しない。科学的にまだよく分からないがゆえに、ある程度は自制をした方がよさそうだ。

しかし、極端なCO2排出量削減の目標は有害だ。これを緩めて、現実的なものにすることで、途上国の経済開発と貧困撲滅を筆頭に、21世紀の多様なニーズに本当に対応できるエネルギー供給体制を構築することができる。

それは太陽光発電と風力発電の大量導入ではない。いまだ未熟な電気自動車の補助金漬けの普及でもない。

効率の良い火力発電と原子力発電を普及させ、そして核融合発電を確立することだ。またヒートポンプなどの効率の良い電気利用技術を推進すること、より高性能なバッテリーの技術開発に注力すること、などだ。

▲写真 ドイツのネッカーヴェストハイム原子力発電(2022年9月12日)出典:Photo by Thomas Niedermueller/Getty Images

エネルギーがふんだんに、安定安価に供給されることで、経済成長を図ることが出来る。これは、異常気象に対する最大の防御となる。脆弱性を軽減するには、ダムや堤防の建設、予報・警報システムの整備が必要だが、このときに必要なのは経済力だからだ。

▲写真 「亡国のエコ」杉山大志著(ワニブックス)

▲Youtubeキャプチャー:杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所「脱成長で環境問題は解決しないー人新世は自由と経済成長で拓く

トップ写真:エジプトで開催されたCOP27にてバイデン大統領が演説後に手を振る(2022年11月11日、エジプト・シャルムエルシェイク)出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images




この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

【学歴】


1991年 東京大学 理学部物理学科卒業


1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了


【職歴】


1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所


1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員


2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員


2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

杉山大志

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