今年は地銀株が狙い目【2023年を占う!】国内株式
佐々木倫子(文筆家/金融アナリスト)
「佐々木倫子の世の中診断 ~人新生を生き抜くヒント~」
【まとめ】
・日本の株式市場では地方銀行株への注目が高まっている。
・地方銀行株は長期的には不安な要素が多いが、短期的には合併・再編等により人気が出る可能性がある。
・近年企業はアクティビストとの対話が重視されている為、社外取締役を経営に活かすことが必要だ。
株式相場には干支にまつわる格言があり、うさぎ年は株価が跳ね上がるとされ「卯(うさぎ)は跳ねる」と言われている。1月4日付の毎日新聞によると、1927~2011年の過去8回の卯年の年初から年末の取引における年間騰落率では、30%を超えた年が計3回(第二次世界大戦勃発の39年、朝鮮戦争特需の51年、ITバブル期の99年)あった。そのため、市場関係者の気運が高まっているのだ。
前回のコラム「地銀が直面するゼロゼロ融資の後遺症」でふれたように地方銀行を取り巻く環境は、かなり厳しい状況で、取り組むべき喫緊の課題が山積している。
また、日銀が欧米の機関投資家の商いが希薄で、クリスマス休暇に入りつつある12月20日に、長期金利操作の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%から同0.5%に引き上げた。黒田総裁は会見で、長期金利の上限引き上げについて「利上げではない」と説明し、「景気にはむしろプラスではないかと思う」と述べている。それ以来、1月17、18日に開催される金融政策決定会合以降に日銀が大規模緩和策を転換させるとの思惑から、円安、日本株安が進んでおり、市場では日本の金融政策への不信感がさらに高まっている状況だ。
しかしながら、日本の株式市場では地方銀行株(以下、地銀株)への注目が高まっている。地銀株は割安ながらニュースが少なく、注目されづらい業種だったが、金融再編への期待に加え、日本銀行による地域金融強化のための支援策により経営改善が進むとの見方から注目が高まっている。さらに、日銀総裁の交代に伴いマイナス金利が解除により、貸出金利が上昇し、支払った預金の利子より多くの利益(利ざや)を得られる可能性が強まっており、収益の改善が見込まれることもプラス材料と見られているためだ。
今回、地方銀行が注目されていることを象徴する2つの出来事を紹介したい。まず、一つ目は、元お笑い芸人で投資家の井村俊哉氏が第二地方銀行の富山第一銀行(本店:富山県富山市、東証プライム市場)の大株主に名を連ねていることが昨年11月25日に発表された四半期報告書で明らかになった。株主順位は2022年9月30日現在7位で、2.22%の所有だ。このことが明らかになると、同日付の株価取引はストップ高(504円※)で取引を終えた。それまでの終値は400円前後で堅調に値を上げていたが、1月16日付の終値は615円となっている。
井村氏は非常にユニークな経歴で、大学時代から株主投資を始め、お笑い芸人と投資家の二足の草鞋ながら芸人の年収は3万円だったという逸話を持つ。2011年にコント日本一を決める番組「キングオブコント」で準決勝に進みながらも2017年に運用資産が1億円を突破し、芸人を辞め、いまや運用益56億円を誇る個人投資家だ。
(※)ストップ高=投資家保護の観点から、株価の急激な価格変動を防ぐため1日に変動できる上下幅が設定(値幅制限)されている。 この値幅制限の上限まで株価が上昇することをストップ高、下限まで下落することをストップ安という。
二つ目は、アクティビスト(物言う株主)として知られる村上世彰氏が関わる旧村上ファンド系の投資会社、シティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)が地方銀行5行の大株主となっていたことが2023年3月期の第2四半期報告書で明らかになった。
秋田銀行、岩手銀行、武蔵野銀行、八十二銀行、スルガ銀行の5行で、22年3月末時点の大株主名簿には入っていなかった。また、22年3月末時点で山梨中央銀行と滋賀銀行の大株主となっていたが、今回の第2四半期報告書には含まれておらず株式を売却した模様だ。シティインデックスイレブンス社などのアクティビストは、すでに一部の地銀に企業価値の向上策として増配や自社株買いを求めており、今後その活動が活発化することが見込まれる。
これまで優良な企業ながら、地銀株に注目が集まることは皆無と言っても過言ではなかった。アクティビストは株価や企業価値の向上が期待できない銘柄に食指を伸ばすことはあり得ず、有望な銘柄であることを物語っている。地銀株は長期的には不安な要素が多いものの、短期的には合併・再編等により人気が出る可能性もあり、投資対象としては面白味がありそうだ。
日本は株式を関係の深い会社同士で持ち合うことが多く、株主提案に不慣れな部分が多い。全国地方銀行協会は11月上旬に「株主総会対策講座」を初めて開催し、株主総会担当者に対して23年の株主総会に向けたアクティビスト対応などを学んだというのが実態だ。
以前は「ハゲタカ」と呼ばれ、忌み嫌われていたアクティビストだが、近年では時代の流れとともに対話を重視する方針への転換が見られる。お飾りの社外取締役ではなく、投資のプロを社外取締役に据えたアクティビストとの対話が重視されているだけに、早急に社外取締役を経営に活かした企業が難局を乗り切れる。これを機に、取締役会の強化を図ることが急務だろう。
トップ写真:2019年11月12日、東京にある日本銀行のビル 出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
佐々木倫子文筆家/金融アナリスト
日系銀行、シティバンク、日興シティ信託銀行の勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報などを経て、金融に強みを持つライターとして活躍。過去の歴史や経緯を含めた執筆を得意とし、食等幅広い分野の執筆も手掛ける一方で、政治、経済を中心としたコラムに関わる仕事やキー局のラジオ番組制作にも従事。さらに、日本ウズベキスタン協会理事として中央アジア・ウズベキスタンと日本の友好にも尽力しており、ウズベキスタンの国営放送に出演した経験もある。
これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたファンダメンタルズ分析を得意とし、最先端の取引環境を提供するFXブローカーを表彰するGlobal
Forex Awardsを連続で受賞しているFXブローカーのアナリストとして金融マーケット分析コラムの執筆経験あり。
また、銀座の老舗商店主の方々と共に、古き良きものの継承にも携わっている。
趣味は、読書、おいしいものを食べる、着物、日本の伝統音楽(一中節など)、銀座散策など
Twitter: https://twitter.com/Nolita21