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.国際  投稿日:2023/7/19

「Temu」vs「SHEIN」中国ECサイトに米反発 


佐々木倫子(文筆家/金融アナリスト)

「佐々木倫子の世の中診断 ~人新生を生き抜くヒント~」

【まとめ】

・米で1000万人ユーザー獲得の低価格通販サイト「Temu(ティーム―)」が日本上陸。

・同じビジネスモデルの「SHIEN(シーイン)」と各国で熾烈な争い。

・米政府の報告書では両サービスの利用について国家安全上の懸念を指摘。

 

  今年2月に開催されたアメフトのプロリーグ「NFL」の優勝決定戦「スーパーボウル」に史上最高の1400万ドル(約19億4300万円)の広告費を投じた「Temu(ティームー)」が、日本にやってきた。

  実際にスーパーボウルで放映された広告

       動画)https://youtu.be/RgNuwb9lpeg

 Temuは低価格のファストファッションや雑貨を取り扱うオンライン通販サイトだ。2022年9月にアメリカでサービスを始め、格安の送料を旗印に瞬く間に1000万人のユーザーを獲得。アメリカで最も新規会員数が増加したショッピングアプリで、今月初めから日本でもサービスを開始した。イメージとしては、オンライン版「ドン・キホーテ(日本最大級の総合ディスカウントストア)」といったところだろうか。

 現在、米国を筆頭に、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、英国、ドイツ、オランダ、イタリア、フランス、スペイン、オーストリア、メキシコ、日本の13カ国でサービスを提供している。中国国内で通販サイトを運営する拼多多(Pinduoduo:ピンドゥオドゥオ= PDDホールディングス、以下PDD)の傘下にある企業だ。

 PDDは黄峥(コリン・ホアン)氏が上海で2015年9月に起業し、2018年7月にナスダックに上場している。創業者のコリン・ホアン氏は1980年に浙江省杭州市の工場に勤務する家庭に生まれ、現在43歳。数学オリンピックでメダルを獲得するほどの秀才で、ウィスコンシン大学マディソン校にて2004年にコンピュータ学修士を取得。卒業後、グーグル中国事務所設立に参画し、2007年退社。その後、ネットショッピングやネットゲームの会社の立ち上げを経て、PPDを起業した。

 中国当局の規制による影響から2021年3月にCEOを退任したが、筆頭株主として留まっており未だ事業に甚大な影響力を持っていると言われている。

 Temuの注目すべきエピソードとして、今年2月に開催された「スーパーボウル」の広告枠(30秒)を2つ購入しCMを放映したことが挙げられる。「スーパーボウル」の広告費は年々上がり、米統計データサービスの「Statista」によると今回FOXテレビが中継したCM30秒枠の平均広告料は、史上最高額の700万ドル(約9億7200万円)に上るという。そのため、Temuは一晩で 1400万ドル(約19億4300万円)を投じた計算だ。

 CM放送に合わせ、キャッチフレーズを「Team Up, Price Down(チームを組んで、プライスダウン)」から「Shop like billionaire(億万長者のように買い物をしよう)」に変更している。私は、贅沢なイメージを連想させることで顧客の満足感を高める、消費者心理をついた巧みな表現だと、思わずうなってしまったほどだ。

 日本のショッピングアプリを取り巻く環境では、2020年12月から同業の「SHEIN(シーイン)」が先行してサービスを開始している。SHEINも激安価格で商品を販売し、特に10代の若者を中心に熱狂的な支持を得ており、昨年11月には原宿にショールームをオープンするほどの人気だ。

 両社のビジネスモデルは似通っており、共に親会社のルーツが中国企業でアメリカ発のサービスとして事業を展開している。同業で共通点が多いことから熾烈な競争につながり、アメリカではTemuがSNSでインフルエンサーを起用しSHEINの信頼を失墜させたことが問題となり、法廷闘争に発展しているほどだ。

 さらに大きな問題として、アメリカ政府による厳しい規制が及ぼす影響も懸念されている。米国連邦議会下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委員会)」は6月23日に「SHEINとTemuに関する報告書」を発表し、さまざまな問題を提起した。

 

【主な問題】

  1. 新疆ウイグル自治区で強制労働させた商品を調達
  2. 知的財産の恒常的な侵害(デザインを無断で盗用)
  3. 輸入規制の抜け穴(関税や輸入国の申告逃れ)
  4. 国家安全保障上のリスク(個人情報等のデータが中国政府に渡る恐れ)

 特に上記4の問題に関しては、以前よりアメリカ政府が中国のバイトダンスが提供する短編動画サービスアプリのTikTok(ティックトック)」による個人情報が抜き取られる懸念を指摘し、同様の問題がSHEINやTemuにも存在すると言われる。個人情報が根こそぎ取り出される可能性があり、価格の安さに誘われて安易にアプリをスマホにインストールすることは危険だ。

 今、日本が世界を席巻していた時代には考えられない速度で物事が進化し、それがグローバルに波及する状況でもある。欧米のスポーツイベントなどでも中国企業の広告が増え、インテルやアトレティコ・マドリードなど複数のサッカークラブのオーナーに中国人が就任するなどチャイナマネーが幅を利かせているのだ。

 また、中国の会社法では、共産党の支配下にある企業内に党委を設置することが義務づけられ、民間企業であっても共産党の支配下にあると言える。中国が国を挙げて世界に進出し、各国の安全保障上のリスクが高まっている状況だけに、日本も国益を守るための対策を早急に講じる必要があるのではないだろうか。自民党の「ルール形成戦略議員連盟」が政府への提言を4月にまとめると報じられていたが、その後の動きは見えていない。

トップ写真:Temuのアプリアイコンとショッピングカート

出典:Photo by Anastasiia Yanishevska/Getty Images

 




この記事を書いた人
佐々木倫子文筆家/金融アナリスト

日系銀行、シティバンク、日興シティ信託銀行の勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報などを経て、金融に強みを持つライターとして活躍。過去の歴史や経緯を含めた執筆を得意とし、食等幅広い分野の執筆も手掛ける一方で、政治、経済を中心としたコラムに関わる仕事やキー局のラジオ番組制作にも従事。さらに、日本ウズベキスタン協会理事として中央アジア・ウズベキスタンと日本の友好にも尽力しており、ウズベキスタンの国営放送に出演した経験もある。



これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたファンダメンタルズ分析を得意とし、最先端の取引環境を提供するFXブローカーを表彰するGlobal

Forex Awardsを連続で受賞しているFXブローカーのアナリストとして金融マーケット分析コラムの執筆経験あり。



また、銀座の老舗商店主の方々と共に、古き良きものの継承にも携わっている。

趣味は、読書、おいしいものを食べる、着物、日本の伝統音楽(一中節など)、銀座散策など



Twitter: https://twitter.com/Nolita21

佐々木倫子

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