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.国際  投稿日:2023/3/2

アダニ・グループ、バングラデシュでも問題に直面


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・アダニ・パワーとの電力買電契約で、プロジェクトの大幅遅れにバングラデシュ側は業を煮やしている。

・同プロジェクトはグレート・バリア・リーフなど環境への悪影響も問題視されている。

・バングラデシュ電力開発庁は高い炭価の引き下げを要求している。

米国の投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが1月下旬に、「インドの新興財閥アダニ・グループは、モーリシャスなどのオフショア租税回避地を不適切に利用して株価操作や不正会計を行っている」とのレポートを発表して以降、同グループを見る目は厳しさを増しているが、隣国のバングラデシュにもその余波が及んでいる。

アダニ・グループの上場企業で火力発電事業を営むアダニ・パワーと結んだ25年間にわたる電力の買電契約に絡み、プロジェクトの大幅遅れに業を煮やしたバングラデシュ電力開発庁BPDBが豪州から輸入の石炭の価格について開示を求めた。石炭の国際価格は下がっているのに、アダニ火力の炭価は高いのではないかという疑念からだ。BPDBは買電契約の改定を要求している。

このプロジェクトは、2015年にインドのナレンドラ・モディ首相がバングラデシュを訪問した際、バングラデシュのアワミ連盟政権のシェイク・ハシナ首相との間で合意した45億ドル相当のインドの官民企業によるバングラデシュへの売電計画の一環だった。ここでも、モディ首相とアダニ・グループ会長のゴータム・アダニとの蜜月関係がうかがえる。ハシナ首相は現在も首相を務めている。

アダニ・グループの豪州法人アダム・マイニングの会社説明によると、同社はクイーンズランド州に炭鉱を有し、その基幹プロジェクトはカーマイケル炭鉱だ。2021年末から生産を開始しており、露天掘りで年間産出量は1千万トンに上る。

同じく豪州法人のアダニ・オーストラリアは約200㎞の自前の狭軌鉄道と既存鉄道を結び、自社所有・運営のアボット・ポイント・ターミナルから石炭を輸出し、インド西端グジャラート州の同グループ所有・運営のムンドラ港で陸揚げしている。

カーマイケル炭鉱プロジェクトに対しては、クイーンズランド州内の世界最大のサンゴ礁、グレート・バリア・リーフなど環境への悪影響を問題視する向きが多く、日本の捕鯨に過激に反対したことで知られる豪州の環境保護団体ボブ・ブラウン・ファンデーションは「AdaniWatch」と銘打った非営利団体をつくりアダニ・グループの環境破壊を監視している。こうしたことからか豪州国内の銀行は、同グループのカーマイケル炭鉱プロジェクトへの融資に参加しなかったと報じられている。

写真:グレートバリアリーフ世界遺産地域を通過する石炭船の移動の増加等に反対する緑の党が主宰した反アダニデモに集まった原住民ら 2019 年 4 月 28 日、オーストラリア・クレルモン

出典:Photo by Lisa Maree Williams/Getty Images

アダニ・パワーが、豪州炭を燃料にバングラデシュへの電力輸出を狙ったプロジェクトは、インド東部ジャルカンド州ゴッダに発電容量80万kW2基を建設するというもの。ビジネス・スタンダード紙によると、投資額は1481億7000万ルピー(約904億円)、うち70%弱をREC(地方電化公社)とPFC(電力金融公社)からの融資で賄う予定。BPDBとアダニ・パワーの契約では、2017年11月から149.6万kWの電力を供給することになっていた。

しかし、稼働予定は2022年1月、同年12月、さらに今年1月初旬と延期され、現在は「バングラデシュの独立記念日である3月26日からの稼働を期待」(アダニ火力のアニル・サルダナ社長)の状況。

ロイター電によると、BPDBがアダニ・パワーと交わした契約では輸送費を含む豪州炭の輸入コストはBPDB負担で、アダニ・パワーの要求額はトン当たり400ドルに上っているという。BPDB側は、国際市場価格のトン当たり250ドル以下にすべきとしているようだ。

一方、アダニ・パワーは、米ワシントン・ポスト紙によると、アダニ・パワーが支払うべき10億ドルを超えるクリーンエネルギー税(炭素税)は経済特区指定で免れるという。こうしたアダニ・グループの事業手法に、“BPDBは同グループの虜にされている”との声も上がっている。

バングラデシュは一昨年に18件の石炭火力プロジェクトを環境問題に対処し中止したというが、汚職監視のトランスペアレンシー・インターナショナル・バングラデシュによると、アダニ火力の案件はその中に含まれていない。(敬称略)

トップ写真:Adani グループに対する抗議デモ。クイーンズランド州政府に対し、クイーンズランド州中央部にあるアダニ炭鉱の承認を撤回するよう求めている。2019 年 7 月 5 日 豪州・ブリスベン広場

出典:Photo by Glenn Hunt/Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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