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.国際  投稿日:2024/10/16

インドとカナダ、シーク教徒殺害事件巡り、外交官追放合戦


 

中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・2023年にカナダでシーク教徒指導者が殺害、インドとカナダが互いに外交官を追放し対立が激化。

・シーク教徒がインドからの分離独立を目指す「カリスタン運動」が関連している

・両国は複数の外交官を追放、関係悪化が深刻化している。

 

インドとカナダの間で、2023年6月にカナダで起きたシーク教徒の殺人事件を巡り、外交官を互いに国外追放する事態に発展している。

事態の背後には、インドから分離独立してシーク教徒の国家をつくろうという「カリスタン運動」があるとされ、過去、大勢の死者を出す衝突暗殺事件も起きている。

国外追放の外交官にはトップの高等弁務官も含まれており、事態は深刻化している。

 

 シーク教徒の「カリスタン運動」

 「カリスタン運動」は、シーク教徒の住民が多いインド北西部のパンジャブ州やその周辺を分離して、独立国「カリスタン」とすることを目指している。「カリスタン」は‶清浄なる地〟を意味し、フォーブス誌によると、1982年にジャルネイル・シン・ビンドランワレ師が率いる分離主義者が過激な運動を展開し始め、シーク教の総本山にあたるゴールデン・テンプル(正式名はハリマンディール・サーヒブ)を占拠し、本部とした。

インド政府は1984年に軍を投入して、同本部を制圧。ビレンドラワレ師を含む多くが死亡した。一方、制圧後の同年10月には、インディラ・ガンデイー首相が、首相の護衛だったシーク教徒に暗殺された。

主流のヒンドゥー教徒、それにイスラム教徒と続くインドの宗教勢力の中にあって、シーク教徒は人口の約2%程度を占める少数派に過ぎない。

 

 インドとカナダ、シーク教徒の殺害巡り溝深まる

 インドとカナダの間で、2023年6月にカナダで起きたシーク教徒の殺人事件を巡り、外交官を互いに国外追放する事態に発展していることは先に述べたが、インドとカナダの両国政府は2024年10月14日、それぞれ、互いの外交官6人を国外追放した。

同日の朝日新聞デジタル版によると、カナダ政府は同日、インドの外交官6人に追放を通告したと発表。カナダ市民に対する攻撃を巡る捜査の過程で警察が事情聴取を図れるよう、外交特権の免除を求めたが、インド側が応じなかったため、追放の通告を行い、その後にインド側が外交官を退避させたという。

インド政府は、インドに駐在するカナダ人外交官のうち、トップの高等弁務官を含む6人の追放を発表した。‶過激主義や暴力の環境下で、カナダのトルドー政権はインド人外交官らを危険にさらした〟として、‶自国の高等弁務官など幹部をカナダから退避させる〟とした(BBCニュース日本語版2024年5月4日)。

 

 カナダで殺害されたのは、高名なシーク教指導者

 カナダでは、ニジャール氏というブリティッシュコロンビア州西部の「カリスタン運動」のシーク教指導者が殺害された。インドはかって、ニジャール氏を、‶分離主義の武装グループを率いるテロリスト〟と呼んだことがある。これに対し、ニジャール氏の支持者らは‶根拠がない〟と反論している(前出BBC日本語版)。

 

写真)シーク教創始者グル・ナーナクの誕生日を祝うヴァイサキ祭を祝い、パレードをするシーク教徒ら (本文とは直接関係ありません) 2004.4.10  カナダ・バンクーバー

出典)Photo by Don MacKinnon/Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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