空き校舎問題②解体回避されたが残る不安 「高岡発ニッポン再興」その60
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・高岡市は旧平米小学校の空き校舎を解体せず「教育センター」を移転し教育拠点にすることを突然決めた。
・この決定は、住民説明会がないままに既成事実となった。
・住民説明のない決定は保護者の不安を掻き立てている。
前回お伝えしたように、高岡市議会3月定例会の代表質問で、教育委員会は突然、旧平米小学校の空き校舎について、「教育センター」を移転し、教育拠点にする考えを示しました。最大会派の質問に答える形の政治の手法です。新聞やテレビは、「旧平米小、教育拠点に」と大きく報じました。
住民説明会のないままに既成事実となったのです。市役所の討議だけで決める、こうしたやり方は全国的には異例です。私はいろいろな自治体を取材しましたが、共通しているのは、どの自治体でも住民協議を最優先にしていることです。
一つ例を挙げます。一度このシリーズでもお伝えした長野県飯綱町です。小学校2校を改装して、2つの複合施設がオープンしたのです。住民のニーズなどを踏まえて、いろいろなテナントを入居させているのが特徴です。
ある校舎は「自然・スポーツ・健康」がテーマ。人工芝をひいたサッカー用のグラウンドがあります。教室は宿泊施設で、合宿に使うケースも多いといいます。保健室はランドリー、職員室はラーメン店になっています。
もう一つの校舎は、「食・農・しごと創り」がテーマとなっています。自由にものづくりができる部屋やサテライトオフィスなど入っています。
どうやってこうした利活用を決めたのでしょうか。白紙の状態から、徹底した住民の協議を行ったのです。具体的には、自治会の代表15人と地元選出の議員です。役場職員はあくまで事務局です。20回ほど会合を開き、それぞれ提言書を提出。それをベースに転用しました。役場の企画課では「壊すのは簡単ですが、小学校は地域コミュニティの核。地域住民の意見を尊重した」としています。まさに「民主主義の学校」を象徴するやり方なのです。
さて、高岡市に話を戻します。旧平米小学校の空き校舎に関して、今回の教育センター移設案が出ましたが、多くの市民からは「壊されなくてよかった」「質問した成果だね」などの声が私の方に寄せられました。
私はほっとした面もあります。解体を前提とした議論に疑問を持っていたからです。この新しい校舎は平成12年につくられ、比較的新しいのです。しかも、巨額のお金を投じて耐震工事もしております。
さらに空き校舎に関しては、全国的にも利活用が主流です。日本経済新聞の報道によれば、全国の空き校舎のうち、64%が活用されているのです。壊すのは住民の心理的な抵抗が大きいというのが理由のようです。
しかし高岡市は、売却か解体の方針に拘りました。振り返れば、教育長は昨年9月14日の9月定例会の代表質問で、売却、または解体を進めていきたいと明確に答弁されていました。それも、有利な地方債、公共施設等適性管理推進事業債を活用するためだとしています。12月定例会でも、同じ趣旨の発言をしました。
地方債とは、自治体の借金なのです。「有利な」という形容詞がわざわざついているのは、この地方債は、あとから国からお金が戻ってくる仕組みだからです。解体・売却すれば、その条件に適合します。ただ、この有利な地方債は、転用、すなわち小学校を別の用途の公共施設、教育センターなどに変えてもおカネが戻ってきます。そこで私は、去年12月の定例会でも転用の可能性について聞きましたが、教育長は「転用のメニューについて検討はしていません」と明言なさいました。
ところが、教育委員会は今年に入って教育センターに移転する案を地元に説明しました。これはまさしく転用です。正月休みを考えると、極めて短期間で突然決めたことになります。この意思決定に不自然さを感じます。
十分な説明なきままの方針転換です。不登校の子どもを持っている市民の方は、教育センターの移設報道の後、私にメールで不安な気持ちを吐露しました。
「教育センターが不登校の子どもたちを支援する施設なら、なおさら、事前に地域住民に説明し理解を求めて欲しい。現地に送迎する保護者の心理的な安心、安全も確保されて、初めて施設として機能するのではないか。」
住民説明なき決定は、保護者の不安を掻き立てるのです。
トップ写真:長野県飯綱町の廃校リノベーション施設「いいづなコネクトWEST」旧牟礼西小学校をリノベーションし、人工芝サッカー場、トレーニングジム、コインランドリー、コワーキングスペース、貸しオフィス、食堂などを整備。「自然・スポーツ・健康」をテーマにした複合施設として2021年4月にグランドオープン。
出典:飯綱町PR TIMES