信頼を築け「新入社員に贈る言葉」その7
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・時間にルーズな人をよく見かける。
・信頼は時間をかけて築くもの。失うのは一瞬。
・遅刻しない、言われたことはまっとうする。当たり前のことを守ることが信頼への第一歩。
新入社員の皆さんは期待に胸を膨らませ、配属されたところはどんな職場なのだろう、どんな楽しい仕事が待っているのだろう、などと胸を膨らませていることだろう。
街でつるんでいるフレッシュなビジネスパーソンを見ると、微笑ましく、そしてこっちまでなにかウキウキして、ノスタルジックな気分に浸ってしまう。
ここ10年間、私の会社のインターンの学生そして、教鞭を取っている大学の学生を見てきた感想を述べると、のびのびと素直に育っており、ものおじしない性格で、自由な発想をする人が多い印象を持つ。
かなり大雑把な印象だし、無論そんなもの人によるだろう、と思う人もいるだろうが、少なくとも私の接している学生たちはそうなのだ。
それはとてもいいことだし、昨今の教育の賜物かもしれない。また、少子化のせいか、一人っ子も多いので、とても大切に育てられたのだろうな、と感じることが多い。それが「素直」や「のびのび」といった印象につながっているのかもしれない。
さて、誉めそやしておいて落とすのもなんだが、そうした性格のせいなのか、なんなのか、「時間や約束にルーズ」な人が多いような気がする。つまり「ブッチする(=ドタキャン)」するわけだ。それをとても心配している。
新入社員の皆さんはまだ何ものにもなっていない。だからこそ、まず職場で「信頼を得る」ことが最重要課題となる。信頼されなければ、仕事を任せられることもない。「あの人には重要な仕事は回せないな」。そう思われたら、自分の実力を発揮する場を失ってしまう。これは長い会社員生活で致命的だ。これをまずよく知ってもらいたい。
信頼を失うのは簡単だ。遅刻すればいい。決められた場所、決められた時間に現れない。それだけで、人の信頼を失うのに充分だ。しかも、1回でいい。
「1回くらいいいじゃん」。そうみなさんは考えるかもしれない。それは大きな間違いだ。会社にとって、重要な会議や商談、やっと得たチャンスかもしれない。1人が遅刻することにより、チームの仕事全体にどれだけ影響を及ぼすか。自分の信頼を失うだけならまだしも、会社全体の信頼を棄損するかもしれない。簡単に考えてはいけないのだ。
私が思い出す、「時間にルーズな人」は枚挙にいとまがないが、幾つか例を紹介しよう。
まず、大昔、メーカーにいた時、とある部署で一緒にペアを組んでいた人。この人は朝が弱いということで、絶対定刻に出社してこない。(定刻は8時半)私が朝8時に家に電話するとまだ寝ているということがしばしばあった。
来客が多い部署だったので、本当に大変な思いをした。ある時、応接室のランプがつきっぱなしになっていた。何時間もついている。そんなに長い時間、応接室を使っているのはおかしい。ということでだれかれとなく声を上げた。
「応接室1番、ずっとランプがついているけど、誰かいるの?」
すると私のパートナーが素っ頓狂な声を上げた。
「あ!私が案内したお客様だ!ずっと待っていらっしゃるんだ!」
「え?その人来たの1時だろ、今4時だよ?」
「上司に言うの忘れていたので、ずっと待ってらっしゃるんだと思います・・・・」
おいおい・・・一同、大騒ぎになったのは言うまでもない。頭を下げに行ったのは私だ。
もう一例。
これは記者時代の話。とある記者は朝が苦手。朝が苦手な記者というのもなんだかな、という感じなのだが、とにかく、記者には「夜討ち朝駆け」といって、朝もはよから取材現場に行かねばならないのだ。総じて取材対象より早くスタンバイしなければならない。
当然、朝6時、7時起きは当たり前。なのだが、某は起きてこない。で、これまた私が電話する羽目になる。
「おい、もう現場についてるんだろうね?」
「ふぁ~い、今、向かってまふ・・・」
こういう人は平気で嘘をつく。寝ぼけ声でバレバレだ。
「うそだろ、早く起きて現場に行って!!」
という調子だ。
まあ、他にも寝過ごして本番に穴をあけた、なんて人はいくらでもいる。その人たちは「いい加減」の烙印を押されてその後の人生を送っている。
1回くらいいいだろ、と思う人は、何回でも同じことを繰り返す。そもそもちょっとの遅刻ぐらい許してもらえるだろう、という甘い考えの持ち主だから、いずれ挽回できると楽観しているのかもしれないが、「それは、ない」。
「たった1回」の遅刻でも、他のメンバーの記憶にはしっかりと残るもの。「時間にルーズで約束を守れない人」というレッテルを一旦貼られたら、それを引っぺがすのにはとてつもない時間がかかると知って欲しい。
信頼を築くのは大変だ。信頼は毎日の積み重ねで時間をかけて築くものだ。しかしそれを失うのは一瞬だ。失った信頼を取り戻すには、それまでかけた時間の何倍もかかる。
「遅刻するな」、「やれと言われた仕事はほっぽり出すな」
この当たり前のことすら出来ないようでは、先が思いやられますよ。
そう、新人の諸君には言いたい。
トップ写真:イメージ 出典:d3sign/GettyImages
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。