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.国際  投稿日:2023/5/20

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その2 なぜトランプ人気なのか


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

ニューヨーク・タイムスなど、トランプ前大統領を邪悪だと断じるような論調に満ちている。

・トランプ氏でなければアメリカはダメになると信じる人も多数存在する

・NYの州法では口止め料を払うことは違法でも何でもない。

 

ニューヨーク・タイムスなどを開くと、トランプ前大統領を邪悪だと断じるようなトランプ叩きの論調に満ち満ちています。昔のレーガン大統領がソ連を評するときに使った表現、邪悪な帝国――イーブル・エンパイア――というような表現のEvilなどという言葉を平然とトランプ氏に浴びせています。しかも「トランプは邪悪な存在である」などという記述が普通のニュース記事の中に出てくるのです。ニューヨーク・タイムズだけでなく、ワシントン・ポストも同様です。テレビならばCNN, そしてMSNBCなどです。

ところが、それとは反対に、トランプ前大統領でなければアメリカはダメになってしまうんだという感じで信じている人たちもこれまた多数、かつ確実に存在するのです。ですから、トランプという人の持っている個性が、一般国民の好き・嫌いを激しくしてしまうという状況がある。

トランプ氏は2024年の大統領選挙に最初に名乗りをあげました。いまのところ、共和党側で名乗りをあげている人が3人ぐらいしかいませんが、その一番手がトランプ氏でした。共和党だけでなく一般の支持層を見てもトランプ氏が、フロントランナー(先頭走者)という感じがあります。ずっと残りの候補者たちを引き離して優位に立っている。このことはやっぱり認めざるを得ません。

日本にいるとどうしてもトランプという人物はなんとなく悪い奴だ、と思わされがちです。トランプ氏を支持しているのは、アメリカ社会でも、なんか恵まれない、知能指数があまり高くない愚かな人たちだというようなイメージがあります。けれども、アメリカへいって実際に見ていると全然そういうことではないのです。

民主党のリベラルをサポートする人たちにも実は平均以下の層は存在します。しかし保守主義を守るという人たちがとくに水準が低いわけではない。トランプ氏を旗印にしているという部分が非常に強いのです。

今回、ドナルド・トランプという人物がまた一段と国政の場、特にメディアの場で熱っぽく語られるきっかけになる出来事がありました。それはニューヨークのマンハッタンの地方検事、アルビン・ブラッグ――英語でブラッグ(自慢する)という言葉がありますが、その言葉とはスぺリングが少し異なります――という黒人の検事がトランプ氏を3月30日に刑事訴追した(起訴した)ということです。

簡単に触れておきますと、その起訴状の中には34項目あって、基本は口止め料なのです。ポルノスターに13万ドルの口止め料を払って、自分と関係があったことは何も言わないでくれと頼んだという。もう1人、モデルだった女性にやっぱり何かを言わないでくれというので15万ドルを出した、という。

さらにもう1人、トランプタワーという彼がニューヨークで住んでいるところのドアマンに3万ドルをあげて、自分には隠し子がもう1人いるのだけれど、これを言わないでくれ、と依頼したという。以上が訴追の主旨です。

そういうことをブラッグ検事が取り上げて、34項目の重罪(フェロニーfelony)として起訴している。いま述べただけでも、こんな口止め料の支払いが34項目の重罪というのは、ちょっと大袈裟なんじゃないかという印象を持たれると思います。まさにその点が論議の中心です。実はニューヨークの州法では口止め料を払うということは、このこと自体は違法でも何でもないのです

皆さんもそういう事情があるかどうか知りませんが、人間だれでも、あまり人に言ってほしくないことってありますよね。お金を13万ドルあげるわけにはいかないけれども、どこかでご馳走して、これは内緒にしてくれ、と他人に頼むこと自体は、アメリカの刑法でも問題にならないのです。

(その3につづく。その1こちら

**この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

トップ写真:ニューヨーク大陪審、トランプ前大統領の起訴を可決(アメリカ・ニューヨーク2023年4月4日)出典:Photo by Michael M. Santiago/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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