アメリカはいまーー内政と外交・ワシントン最新報告 その1 熱い論議は中国とトランプ
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ワシントンの議論の的は「中国」と「トランプ前大統領」。
・超党派で異常なほど中国を論じ、その傾向はますます強固に。
・アメリカ政治のカギを握るのはトランプ前大統領。
国際情勢は激動が続いている。日本が議長国となってまもなく始まる主要先進諸国のG7首脳会議も無法な膨張を続ける中国、ウクライナへの侵略を止めないロシア、ミサイル発射を続ける北朝鮮、そして独自の核兵器開発を急ぐイランなど、緊急の課題が切迫感を強める。わが日本もこれまでの内向き志向を根本から変えざるをえないような新試練に直面したといえる。
そんな激動のなかで日本にとって超重要なのは同盟国のアメリカの動向である。いまの国際激変が軍事的要因を増大させて迫ってくる国際環境のなかで、わが日本は対外的にも自国の安全保障でも、軍事という要因に背を向けてきた。アメリカ占領軍が作った日本国憲法のためだといえよう。
だがそんな日本にも中国や北朝鮮から軍事的な脅威や挑戦が明白に押し寄せてくる。そんな危機に対してはいまの日本は同盟国のアメリカの軍事抑止力に依存して、自国の安全を守らざるを得ないのである。
だからそのアメリカが対外的にどんな政策をとるのかは、日本の存亡にさえ大きなカギとなってくる。
アメリカのその対外政策を左右するのはアメリカの国内事情であり、国内世論だといえる。つまりアメリカの外交や内政のあり方は日本の国運を変えるほどの重みを持っているのだ。だから日本にとってアメリカの内政や外交の現状を正確に把握しておくことは致命的に重要な作業となる。
ではいまのアメリカではなにが起きているのか。私自身のアメリカ取材の最新結果を報告したい。
本日は、「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」と、ちょっとおこがましい感じのワシントン最新報告ということでお話をさせていただきます。
ワシントンの報告という部分は間違いなくて、2月、3月、4月と3カ月ぐらいワシントンにおりました。私の報道活動の拠点はまだワシントンにあるのですが、最近は日本で過ごす時間がちょうど半分ぐらいになりました。とくに、コロナで日本側の出入りが非常に難しい時があり、皆さんも体験されたかもしれませんが日本入国では2週間も禁足になるという状態が長く続きました。となると何もできないことになり、動けません。
一方、ワシントンのほうは、もうかなり前からマスクのない世界です。歩いている人のマスクは皆無、屋内の会合でもまったくマスクなし。会食の場でもマスクをしている人がいない。ではコロナがなくなったのかというと、あるのです。だから、彼らの考え方では、もう、コロナによって自分たちの私生活あるいは職業生活、社会生活が影響を受けるという状態は拒否しようという態度のわけです。そしてそれなりにその方法が機能しています。
だから、連邦議会の上院・下院の公聴会その他へ行ってみても、もちろんマスクはなくて自由に入れます。私もワシントンが長いですから、旧知の各界の人がいて、1年ぐらい前まではなかなか人にも会えなかったが、今回はほとんどその制約がありませんでした。自由に人と会えるのです。
あるいはワシントンの特徴の1つである多数の研究機関の多様な行事にも出席できる。その種のセミナーやシンポジウムにも出て自由に探求し、バイデン政権の代表たちの話を聴くという機会がふんだんにありました。ですから、ワシントンでの状況というのは非常にフレッシュな感じで、皮膚感覚で取得して帰ってきたという感じです。
◇ 内政の中心はやはりトランプ前大統領
いまのワシントンでいったい何が問題なのか、何が論議の的なのか、簡単に言ってしまうと、まず、チャイナ、チャイナです。中国に関する論議が異常なほど超党派――民主党・共和党の別、保守・リベラルの別を超えてみんなで中国について論じています。しかも、その傾向がますます強固になってきました。
中国という存在は、このままでいくとアメリカ合衆国の根底を揺るがす、しかもアメリカ合衆国の国民が長年積み重ねてきた秩序とか経済のメカニズムとかを根底から崩されかねない、なんとかしなければいけないという意識です。その高まりが議会の実際の法案審議とか公聴会とかいう形で展開されています。異常なほどの中国論議なのです。
▲写真 中国もワシントンの議論の的。写真はガボンのオンディンバ大統領との会談に臨む習近平国家主席(2023年4月19日 北京) 出典:Photo by Ken Ishii-Pool/Getty Images
もう1つの言葉がトランプです。トランプ、トランプ、トランプで、とくかくトランプについて語らないとアメリカの今後の政治は語れないというほどなのです。
この点、日本側のアメリカ通とされている人たちの一部で、昨年11月の中間選挙でトランプ氏が支援した候補者の一部が負けたことをとらえて、だから最大の敗者はトランプだったというような議論が結構多かった。それにちょっと上乗せをして、もうトランプ氏は終わったのだというのも日本のアメリカ通とされる人の間で結構、多数派ふうの意見となっていました。
しかし、ワシントンで見た状況は、そんなふうではありません。やはり、トランプ氏は死なずという実態なのです。死なないどころか非常に元気で、アメリカ政治の中心的な役割を演じています。トランプ氏がどうなるかによってアメリカの今後の政治がどっちへ行くのか、どうなるのかという状態なのです。アメリカ政治のカギを握る人物がドナルド・トランプ氏なのだ、という現実なのです。
同時に、ドナルド・トランプという人に対するアメリカ人、アメリカの社会における好き・嫌いがきわめて激しいことも事実です。トランプ氏が嫌いの人たちは徹底して嫌いです。蛇蝎の如くに、邪悪な存在であるかのようにみなしています。
(その2につづく)
**この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの’月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。
トップ写真:いまもワシントンの議論の的になっているドナルド・トランプ前大統領(2023年5月1日 英・スコットランド)出典:Photo by Jeff J Mitchell/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。