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.社会  投稿日:2023/6/6

「コロナフレイル」① 幅広い世代への影響


渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)

渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」

【まとめ】

・コロナウイルスは5類に移行、コロナ禍は我々の心身に影響を及ぼしている。

・高齢者に多かったフレイルの症状が、若者・中高年世代にも。

・簡単なチェックリストで確認可能、他人事と思わず対策を。

 

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が2類から、季節性インフルエンザと同じ5類に格下げされた。ようやく社会に日常の生活が戻りつつあるが、コロナフレイル問題が急浮上して来ている。コロナフレイルは一種の造語で、コロナウイルスのパンデミックにより、日常生活の不活発化を引き金として起こるフレイル状態を意味する。

 

■ 若い人や現役世代、中高年にも無縁ではない

フレイルは英語のFrailty(虚弱)をもとにしており、日本老年医学会が提唱している。一般的には主に加齢による高齢者の身体的な衰えを中心に心身が虚弱することを意味する。

介護予防的な意味合いで使われることも多く、公的介護保険の要介護認定を受ける要介護者になる一歩手前、ちょうど境目の状態を指している。食生活の改善、運動、社会参加などで回復も可能と言われる、重要な時期でもある。

コロナ禍の影響で今年の5月8日の連休明けまで、実質3年余に及ぶ巣ごもりや、外出自粛は社会のマクロ的なインフレ不況などをもたらすとともに、ステイホーム、在宅ワークで運動不足や不規則な生活に陥入った。高齢者だけでなく幅広い世代の健康に深刻な影響を及ぼしている。

会社や職場などに普段通りに通勤していれば、社会とのつながりを持ち、食事をする。運動を意識していなくても、オフィス内の移動、行き帰りの駅までの歩行や、駅の階段などの上り下り等、結構な運動量になる。

しかし運動不足や不規則な食生活、社会活動への不参加は、コロナ感染が終わったわけではないので、コロナ禍前の状態にまだ戻っているとは言い難い。コロナフレイルは若い人や現役世代、中高年にも無縁ではない。

 

■ フレイル研究第一人者飯島教授がフレイル3つの種類を解説

フレイル問題研究の第一人者である東京大学高齢社会総合研究機構機構長、未来ビジョン研究センター 教授の飯島勝矢さん(ジェロントロジー:総合老年学)は「フレイルは大きく3つの種類に分かれる」と、説明している。

飯島教授は「フレイル予防を通した産官学民協働による健康長寿・幸福長寿まちづくり」(5月27日、NPO法人「福祉フォーラム・ジャパン」主催)でオンライン講演した。千葉県柏市など多くの自治体とフレイル予防を通した健康長寿のまちづくりプロジェクトで、フレイルの検証・研究のためのスタディを行ってきた。

図)虚弱(フレイル)とは

出典)「柏フレイル予防プロジェクト2025」 柏スタディから見えてきたもの  

3つのフレイルのうち一つ目が「身体的フレイル」

体の運動機能が衰えて、障害で移動機能が低下したり(ロコモティブシンドローム)、足腰の筋肉が衰えたり(サルコペニア)する。高齢期になると、筋力は自然と低下する。これが一般的な解釈だろう。

二つ目が「精神・心理的フレイル」。高齢になり、定年退職や、パートナーを失ったりすることで引き起こされる、うつ状態や軽度の認知症の状態などを指す。

一般的な要介護の対象となる65歳以上の高齢者でなくても、それ以前の早期退職者などにも当てはまるだろう。

三つ目が「社会的フレイル」。加齢に伴って社会とのつながりが希薄化することで生じる、独居や経済的困窮の状態などをいう。

さらにフレイルは①中間の時期(健康と介護の間)②可逆性(様々な機能をまた戻せる時期)③多面的(色々な側面)の3段階に分けている。

 

■ フレイルチェックの注意点

フレイルを判断するチェックリストは、厚労省や自治体、或いは健康関連の団体等で各種、作成されている。ネット上などに情報があふれており、医学的な専門的基準、チェックリストは多岐にわたる。病気が疑われる場合は医療機関で診療してもらうのが良いが、日ごろからのちょっとした体調の変化、チェックが重要だろう。

飯島教授が、誰でも簡易に利用できるフレイルに関するチェックリスト「イレブン・チェック」(千葉県柏市のホームページで公表)と、両手の指輪っかで、ふくらはぎなどの筋肉を囲み、輪っかに隙間が出来るかどうか、でサルコペニアのリスクを図る輪っかテストを公表している。

この他にも詳細な質問調査、口腔、身体機能測定、血液検査等があるが、参考例としてイレブン・チェックを挙げてみた。6つ以上が該当するとフレイル要注意状態となる。年齢や身体的特徴、生活習慣などで違いもあろうが、すぐ利用できる簡易なテスト方法として高齢者に限らず、参考になる。

栄養(食・口腔)

Q1 ほぼ同年齢の同性と比較して、健康に気をつけた食事を心がけていますか

Q2 野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を両方とも、毎日2回以上は食べていますか

Q3 「さきいか」「たくあん」くらいの固さの食品を、普通に噛みきれますか

Q4 お茶や汁物でむせることがありますか

運動

Q5 1日30分以上汗をかく運動を週2回以上、1年以上実施していますか

Q6 日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか

Q7 ほぼ同じ年齢の同性と比較して、歩く速度が速いと思いますか

社会参加

Q8 昨年と比べて外出の回数が減っていますか

Q9 1日1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか

Q10 自分が活気にあふれていると思いますか

Q11 何よりもまず、物忘れが気になりますか

専門的なチェックはもっと詳細だが、6つ以上が該当すると注意が必要な兆候を示唆している。

(②につづく)

トップ写真:介護施設のフィットネスコーナーで運動する高齢者(本記事と直接の関係はありません) 出典:iStock /kazuma seki/ Getty Images Plus




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