コロナフレイル② 運動、栄養、社会参加の重要性
渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)
渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」
【まとめ】
・身近なことから始め、継続することがフレイルの予防につながる。
・コロナ禍を経て要介護の件数が増加、対策は急務。
・フレイルサポーターの養成始まる、自治体や産業界との協力も。
■ フレイル予防策を具体的に定言
コロナフレイルは英語のFrailty(虚弱)をもとにした言葉、フレイルから派生したいわば造語だが、コロナウイルスのパンデミックにより、日常生活の不活発化を引き金として起こるフレイル状態を意味する。
フレイル問題研究の第一人者である東京大学高齢社会総合研究機構 機構長、未来ビジョン研究センター 教授の飯島勝矢さん(ジェロントロジー:総合老年学)は、健康長寿(フレイル予防)のための「三本柱」(運動、栄養、社会活動)を組み合わせた三位一体の活用方法を具体的に提言している。
▲図 「三位一体」の重要性 出典:「柏フレイル予防プロジェクト2025」柏スタディから見えてきたもの
この三本柱は、これまでにも介護予防対策などで強調されているが、飯島教授は福祉フォーラム・ジャパンが開いたオンライン講演会で、アプローチの手順、活用の仕方やそれぞれの内容の組み合わせ方、効果などを提示している。
またフレイルやサルコペニア(筋肉減弱)、社会的孤立の危険度について、三本柱の実施状況や組み合わせで、リスクがどのように変化するのか、リスク倍数を表している。
3つとも実施されていればいいが、なかなか難しいのが現状だろう。
飯島教授の講演内容から、素人なりに、私の解釈で、おおざっぱではあるが、重要な点をまとめてみた。
<まず運動習慣があげられるが、日常的な運動習慣のある人はざっと3割ほどだという。やる人は言われなくても続けている。要は本格的なスポーツや、毎日、何歩歩いたか、を厳密にこだわるだけでなく、適度なウオーキングやランニング、それだけでなく、通勤の行き帰り、また日常生活の家事労働、庭仕事なども運動に入る。加えてオーラルフレイルを防止し滑舌を良くすることも大切だ。
バランスの取れた栄養はもちろんだが、とくに家族内での孤食は孤立感が良くない。特定の栄養配分やカロリー計算で、身長、体重比などからメタボに対する過度な注意より、サルコペニア(筋肉減弱症)は要警戒。リスクを減らす運動を組み合わせる。
社会活動(参加)は、大げさに構えることなく趣味などを通じた幅広い文化活動、ボランティア、コミュニティへ活動への参加、人とのコミュニケーションなどが含まれる。リラックスして、長く続けることが重要だ>
特段、過度な訓練や、無理とも思える厳しい節制を強制しているわけではない。しかしそれが実際にはなかなかできないことも現実だろう。身近な環境で、出来るところから始めて、続けることが重要だ。ステイホーム、在宅ワークの浸透で、これらのことが高齢者に限ったことではない、と理解できるだろう。要は人とのかかわりあいの中で、具体的に何をして、次には誰とどのように前向きに考えながら三本柱を有機的、効果的に組み合わせるか。世代を超えての取り組みが必要だということだろう。
■ コロナフレイルで高齢者の要介護度が重度化した
厚生労働省の調べによると、コロナフレイルの深刻な影響は、高齢感染者の老衰が増えたのを始め、65歳以上の要介護認定者が介護サービスを受けられる公的介護保険適用者の介護度重度化にも顕著に表れている。
要介護者は軽度の介護度1から重度・寝たきりの5まであるが、介護する度合いが進んだ「区分変更申請」の件数が増加した。
もっと深刻なのは要介護度に進む前の、自立して生活が出来ていた、いわば、この稿で主要なテーマにしているフレイル、つまり介護予防状態の元気高齢者が多くいる要支援者が、コロナフレイルで介護が必要となり介護度が上がって要介護へと変わった件数も増加した。
在宅でホームヘルパーの支援を受けて、何とか自立して生活が出来ていた要支援、軽度要介護者もコロナ禍の行動制限がかかり、買い物などに行けなかった、などが影響して重度化している。特別養護老人ホームなどの施設では、入居者が外界との接触、家族との面会もできなかったために、寝たきり状態が悪化した。
人間の身体は自然の加齢変化で、1年間に筋肉は1%ずつ減っていき、 入院期間中では、1日間で筋肉は0.5〜1%ずつ減る。とくに 高齢期での「2週間」の寝たきり生活は実に7年分の筋肉を失うという。
コロナフレイルによって自立や要支援者、軽度要介護者、重度の施設入居者が、さらに重度化をすると、提供する介護サービスの量が増えて、介護保険にかかる費用が膨らむ。
経産省は フレイルや認知症の予防に取り組んだ場合、対策を行わなかった場合と比較すると2034年までに約3兆円に上る介護費用の伸びを抑える効果を試算している。
■ 介護保険、医療保険の財政難と負担増の限界も
高齢者は要介護度が上がると、介護の必要性だけでなく、たいていは既往症を抱えている。病院通いや入院が増え、公的医療保険の利用も増える。
団塊世代が75歳以上の後期高齢者入りを迎える2025年問題を抱えている。介護や医療の経費が膨らめば、保険料がアップする。介護保険や医療保険の保険料はサービスを受ける高齢者はもちろん、働く現役世代や、雇用する企業も分担して支えている。
サービスを受ける高齢者の負担割合もすでに所得によって1~3割へとアップしている。さらなる介護、医療の保険料、負担増が議論されている。
社会保障予算財政は国の一般会計予算総額で、支出の多い国債、地方交付税をも上回る。しかし高齢者の負担増にしわ寄せされても、もはや限界がある。コロナフレイルは差し迫った国家的課題にもなっている。
■ 全国フレイルサポーター養成
飯島さんらの研究グループは令和4年、全国フレイルサポーター連絡会連合会を組織化、全国100の自治体の自主参加を得て、サポーター養成研修を行いながら、国とも連携して活動を全国で展開している。このため自治体や住民グループの自主参加を得て、地域を中心に活動の輪を広げている。
また産業界とも連携し、全国展開する大手スーパーマーケットチェーン店のスペースでも活動の場を広げている。産業界にとっても、高齢者やコロナフレイルに関心を持つ主婦らが関連商品を購入するなどビジネスにとってもコロナ後の事業展開のプラス材料になっている。
人生100年時代を迎え、平均寿命は延びているが、重要なのはフレイルを予防して、自立して活動ができる、いわゆる健康寿命をどう伸ばすかだろう。
新型コロナの感染症法上の5類移行で、気を緩めることなく、コロナフレイルに対するフレイル予防、健康寿命の大切さを改めて認識する必要があろう。
トップ写真:横たわり、ベッドレールを持つ女性。(タイ)※本記事との直接の関係はありません)出典:iStock /manassanant pamai/Getty Images Plus
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この記事を書いた人
渋川智明東北公益文科大学名誉教授
東北公益文科大学名誉教授。
早稲田大学卒業後、1971年、毎日新聞入社。東京本社社会部編集委員(厚生労働担当)。2005年、東北公
益文科大学公益学部(山形県酒田市)教授・公益学部長、大学院(山形県鶴岡市)公益学研究科長。
定年退職後、法政大学社会連帯大学院、目白大学生涯福祉大学院非常勤講師を経て現
在は専門学校・社会医学技術学院=東京都東小金井市=講師(非常勤・社会保障論)。
著書「福祉NPO」(岩波新書)、「介護保険活用ガイド」(保健同人社)、「賢い
患者になろう」(実業之日本社)「ソーシャルビジネスで地方創生」(ぎょうせい)=
以上単著、「認知症対策の新常識」(日東書院・共著)等。